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Hey kitty kitty(ウィッチャー二次創作小説)
▲WARNING▲
この作品はアンドレイ・サブコフスキ氏の原作小説The Witcher、及びビデオゲームThe Witcherシリーズの二次創作です。時系列無視、キャラ崩壊、犯罪描写などが含まれています。「ゲラルトはそんなこと言わない」「世界観壊してんじゃねえ!」な方はブラウザバックすることをおすすめします。一応R-15にしときます。
▲WARNING▲
これまでのあらすじ:
エイダーンの山奥のある館に呼び寄せたゲラルト。そこで出会ったのは”ケム・オーナン”という動物愛護クラブであった。彼らはバードウォッチングのため山に来たが、何者かに襲われ、数名の仲間を失くし、生き残った者たちが屋敷にこもり、立ち往生していた。彼らは犯人なる怪物を”クルエルキャット”と呼び、その討伐をウィッチャーに依頼した。だがゲラルトは屋敷を踏み入れた以来、言い表せない違和感を感じていた。
被害者の死体検査した結果、ゲラルトは大型の肉食動物、あるいは人狼の類の仕業と判断した。痕跡を辿り、森の更に奥でゲラルトが発見したのは猫と人間が合わさった姿の、不思議な生物だった。
タン! タン! ドアが叩かれ、屋内にいる四人の男が震え上がった。
「……おれが行く」
一番ドアに近くのクロトカゲが腰に帯びている剣に手をつけ、立ち上がった。手に汗が滲む。
「誰だ?」「俺だ、開けてくれ」
ゼリカニアの砂漠を想起させる乾いた、嗄れた声だ。クロトカゲは覗き穴を覆った金属板を横にずらした。
「ウイッチャーの旦那か、驚かせるなよ」
覗き穴の向こうに黄緑色の虹彩を持つウィッチャーと目が合った。異変したウィッチャーの視力は月のない夜でも猫のように物をはっきり見えるという。だがこの男は猫のような可愛いさが全くない、こいつは白狼だ。クロトカゲは肉食獣に睨まれているような居心地を覚えた。
「方付いたか?怪物は殺した?」
「いや、まだだ、奴は想像以上に手強い。それより早く入れてくれ、寒くてかなわん」
クロドカゲは舌打ちし、リーダーのウォーユニコーンに視線を送った。一角獣の角を模した髪飾りの初老の男性は頷くと、クロドカゲはため息してドアを開けた。
玄関に踏み入れたウィッチャーはブーツについた泥と苔を落とさずに、一直線で暖炉に向かった。
「手強かったということはつまり、遭遇したけど仕留められなかったことですか?」この中に一番若いナイチンゲールが訪ねた。
「そういう事だ」
「ケッ、しくじったか。名高い白狼にも殺せない怪物がいるとはな」クロドカゲが腕を組み壁にもだれ、吐き捨てるように言った。
「情報が少なすぎる」ゲラルトは手と手を擦りつけながら言った。「あれは人狼でもラミアでもない、学舎の本と巻物にも載せていない怪物だ。見ろ、鎧がなければ今頃俺は腸をさらけ出したグールのエサになったところだ」
ゲラルトは鎧の腹部に新しくできた3つ傷を差した。恐らくは怪物によるものだろう。
「なんと!怪我は大丈夫ですか?」
「俺はウィッチャーだ。これぐらいの傷なら霊薬で治せる……よし」
冷えきった指に感覚が戻り、ゲラルトは何度も拳を握り直し、手袋を嵌めた。
「ウィッチャー殿、急がせては申し訳ないが、クルエルキャットは狡猾です」ようやくリーダーのウォーユニコーンが口を開いた。「あなたのことを覚えた以上、これからはあなたを避けながら我々を狙い続けるでしょう。一刻も早く奴を仕留めなければ......我らにできることがあれば何なりと申してください」
「そうか、ではお互い腹を括って話そう」ウィッチャーはかばんからウォッカが入った瓶を取り出した。「ナイチンゲール、コップを持ってきてくれないか」
ナイチンゲールは人数分のゴブレットをテーブルに置き、ゲラルトはウォッカを注いだ。
「まずは飲んでくれ」とゲラルトはゴブレットを持ち上げて男たちを促した。テーブルに近いナイチンゲールとウォーユニコーンはすぐにゴブレットを受け取った。クロドカゲは壁にもたれ腕を組んだままだが、ウィッチャーと仲間の注視を受けて渋々とテーブルに歩き、ゴブレットを手に取った。
「あんたは来ないのか?ウィッチャーが奢る酒はめったにないぞ?」
ゲラルトはさっきからリビングルームの隣の部屋でパイプを吹かしていたグレイフォックスに声をかけたが、彼は手を振って拒絶の意を示した。ゲラルト内心の疑問が確信になった。
「彼は酒が苦手です、気を悪くしないでください」
ウォーユニコーンは付け加えるように言った。
「無理する必要はない。では、ケム・オーナン諸君の健康を祈って乾杯だ」「「乾杯」」「ああ......」
四人はゴブレット掲げ、中身を一気に飲み干した。
「……強いな」「マカハムの物だ」「ああ、道理で」「もう一杯いくか?」
「いや、もういい。それよりさっさとことを済ませよ。聞きたいことはなんだ?」クロドカゲはアルコールで緩くなった神経を締め直し、強気で言った。ウィッチャーにリードを取られてはいけない。
「そうだな。あんた達の生死が関わるものだったな」ゲラルトは自分にウォッカをもう一杯注いだ。「では、あの怪物、クルエルキャットに関して知っていることを全部話してもらうか」
「我らもあれに関しては詳しいとは言い難いですが……」
「ならまず、なぜ怪物に狙われているか、心当たりはないか?」
「なら私が教えましょう」とナイチンゲールが言った。「私たちは青色山脈より飛来するハルピュイアを、その愛らしい姿を見るため、年に一度、この別荘に集まります。この屋敷はガラン・ド・フォピアス辺境伯、つまりウォーユニコーンさんの所有物です。私たちは別荘にたどり着き、観察の準備をして二日目で、あの怪物に襲われたんです」
「貴族だったのか?妙だな。護衛も付けず山奥まで来られたものか?」
「私はそんなに裕福に見えるかね?所詮一介の貧乏貴族よ。たしかに、私は使用人五人付けてきた、腕の立つ弓兵を四人含めてね。だが彼らは真っ先に怪物に襲われ、帰らぬ人となった。彼らの家族にどうやって顔向けするか......」
ウォーユニコーンは顔に悲しい表情が浮かび、俯いた。
「なるほど、俺でも手こずった相手だ。護衛の一人や二人造作もないだろう。でも怪物がいると知った以上、なぜここに留まる必要がある?さっさと荷物をまとめて町に降りた方が合理的では?」
「愚問だな、ウィッチャー。おれたちがここに残る理由はただ一つ」クロトカゲは拳を握りしめて、言った。「仲間の仇を討つためだ」
「デマウウェンド王から辺境伯の爵位を授けた以上、凶獣を野放しておけば、いずれは近隣住民も被害が遭ってしまうでしょう、それは看過できぬ。だが見ての通り、我らではとても敵わぬ相手である故、あなたを招いたんです。勇敢なゾスタープスとマウテンヘイアが自ら志願で伝言を届けるべく、町に降りたが......どうなったがあなたの方詳しいでしょう」
「仲間と民とためか、素晴らしい使命感だ、感服したよ」ゲラルトはここに来る途中に道に散らばった死体を思い出す。「でも、この情報は狩りの役には立てんな」
「だから俺たちも知らないと言っただろう!そっちの方が専門家だろ!文句垂れ流すより怪物退治にかかれ!」
クロトカゲは声を荒げて、テーブルを叩いた。ゲラルトは素早くゴブレットをを持ち上げたことでウォッカは零さずに済んだ。
「......慌てるな、専門家であっても休憩が必要だ。おれは一応人間なんてね」
「異変体(ミュータント)だろうが」
「クロトカゲの無礼を許してあげてください、ゲラルトさん」ナイチンゲールが率先に謝罪した。「ここに籠るのも、今日含めて四日目となります。食糧はいずれ底を突くでしょうし、怪物がいつ来るかわからない状態で、皆気がっ立ってます」
「まだ謝る必要はない、一度しくじったのは事実だ、弁解するつもりはない。だがそっちはどうだ?」
「どう、とは?」
「良好の働きを期待するには、被雇用者と雇用主互いに信頼し合える関係が必要と思わないか?」
ゲラルトはケム・オーナンへの不信感を表した。連中は何か隠している、ウィッチャーに知られたくない何か重大な事実を。
「まるで我々が隠し事しているような言い方ですね......だが」
ナイチンゲールがなにか言いようとしたが、ゲラルトがそれを遮った。
「それを確かめるために質問に答えてもらいたかったが、このままではらちが明かない、俺から話そう。俺は確かあんた達が言うそのクルエルキャットに遭遇した、あいつがーー」
ーーーーーーーーーーーーー
数時間前
「Grrrrr.....」
腕の傷を押さえながら唸る浅い紫色の毛皮に覆われた獣を、ウィッチャーは油断なく銀の剣を構え、中腰ための姿勢で緩慢に横移動しながら相手を伺う。
ウィッチャーも無傷ではない、鎧の左脇腹が破られ、爪痕と思われる平行の三本線が残った。一瞬のことだった。食いちぎられたハルピュイアの残骸に気を取られた隙にヤツが襲ってきた。ウィッチャーの超人的な反応神経を持てしても躱すのがやっとだった。もしこれがヴァージェンの職人に作られた鎧でなかったら、そしてゲラルトの反応がコンマ一秒でも遅れたら、今ころ爪が腹にめり込み、鎧ごとウィッチャーを切り裂いただろう。ゲラルトは踊るようにつま先回転し攻撃を避け、カウンターの斬撃で怪物の右腕を切ったが、浅かった。
とんでもない化け物だ、ゲラルトは思った。犠牲者の死体から人狼の仕業だと思ったが、目の前の怪物は彼がここまでの人生において一度見たことがないばかりか、学舎で受けた講義や書物にも教えられていない。怪我した脇腹から血が流れ、鎧の中に着たシャツとズボンを濡らしていくのを感じたが、まったく痛みがない。ウィッチャーの顔に黒い血管が浮かび上がっている、事前に飲んだ霊薬が彼に体内で循環し作用している証拠だ。霊薬は痛みを消し、アドレナリンとの交互作用で莫大な高揚感をもたらす。ゲラルトは今にも獣に飛びかかる衝動に抗いながら、最善の攻略法を考えている。まずは観察だ。
怪物ーーあの胡散臭い連中がクルエルキャットと呼んだか、確かに人狼より吻部が短く、胴体が長く、筋肉が発達した四肢が獅子やヒョウなど大型猫科動物を想起させる。前屈みの姿勢のままでも2メートルぐらいの高さ。頭部から後頸部にかけてたてがみが生えており、胸あたりに乳房らしき膨らみが四つある、股間に陰茎が見当たらないためメスとみて間違いないだろう。いかつい見た目通りに爪と筋力を活かした攻撃が得意そうだが、何らかの魔法的攻撃手段があるかもしれない。まずはガードを高めて様子を見る。ゲラルトは僅か2秒で敵の特徴と可能な状況を分析し戦術を決めた途端、相手も動き出した。
クルエルキャットが体を限界まで低く沈み、跳躍の予備動作を取った。その後ろ足の筋肉が大蛇のごとく蠢く、そして地面を蹴った
「マウァオオオ!」衝撃波で落ち葉と小枝を舞い上がらせ、爪を左右に広げながらながら飛びかかる、肉食獣が狩りをする際によく見る動きだが、クルエルキャットはみたいな怪物が繰り出すとその威力はバリスタの矢にも匹敵する。でもその直線の攻撃を食らうほど、ウィッチャーは鈍くない。
ゲラルトの強化された動態視力で怪物の筋肉の動きを捉え、何百回の戦闘で積んだ経験から相手の動きを予測し、そして的中した。左へつま先回転で攻撃の軌道を避け、怪物とすれ違いざま逆袈裟切りでその腹を切り裂くーーそのはずだった。
振り上げた剣より早く、怪物が空中で体を捻り、後ろ足を広げ、体を捻った、まるで小型の竜巻のように回転し、回転蹴りのような一撃でゲラルトの腕を撃った!なんたる柔軟性と身体能力!「なっ!?」銀の剣が弾き飛ばされ、地面に刺さる。ギリギリの回避がかえって仇となったのだ!
着地したクルエルキャットは振り返ってウィッチャーを見た。大きく裂けた口がまるで彼を嘲笑うように見える。ゲラルトは己の判断ミスを悔やんだ、相手を少し強い獣だと思ったが、今の動きから見ると、その悍ましい外見の下に高度な知性が隠れているに違いない。
「マウァオオオ!」
怪物がまた身を沈め、もう一度襲いかかる!ゲラルトが鋼の剣を抜けようが間に合わない!「クソ!」ゲラルトが咄嗟に左手を翳すと、淡い黄色の光が彼を包んだ。怪物のダガーめいた爪がゲラルトの頭部に突出す!
ゴォーーン!
「マァオ!?」何ということか、雷鳴のような爆発音と共にクルエルキャットが弾かれる。魔力を集中させエネルギーの盾を作り出す、これがウィッチャーが使用する戦闘魔法《グエンの印》だ。その堅牢さこの世に最も恐れられてるドラゴンのダイヴ攻撃も一度だけ防げるほどだ。そして《印》の達人ならば敵が触れた瞬間に盾のエネルギーを爆発させ、相手に弾き返すことができる。ゲラルトは間違いなく達人だ。
クルエルキャットはよろめき、一歩下がったが、すぐに立ち直った。なんだるタフさか!怪物は水平に左爪を繰り出し、ゲラルトは鋼の剣で防御を取るが、剣刃が怪物の肉球に覆われた掌に触れた途端、開いていた掌が握りしめて剣身を掴んだ!「クソが!」両手で柄を握り力一杯で引くが、抜けない。ウイッチャーの鋼の剣は主に人型種族に用いる物で、退魔の力が無く、怪物相手に大した効果がないのだ!
「マウオオオオオーッ!」
クルエルキャットは吼えた、己の勝利を確信したのだ。剣を使えない人間なんておそるに足らず、逆方の掌を振り下ろせば、男の肉と骨を容易く捻り潰せる、これまで繰り広げてきた殺戮の経験が彼女にそう告げた。
だがゲラルトは普通の人間ではない、ましてや普通のウィッチャーでもない。
「ARRRRRRRGH!」
ゲラルトは獣めいて吼えた!剣を放し、拳で怪物の吻部に目掛けて殴りつける!関節部に鋲を打ち込んだ手甲が鼻に命中した。
「ッアアオン!?」
予想外の動きに対しクルエルキャットは狼狽えた。骨を砕ける顎と肉を切り裂ける爪を持たない人型種族は道具にすがり、殺されるまで武器を手放さないはずだ、人間もエルフもそうだった。
「ARRRRRRRGH!」
ゲラルトは犬歯を剥き出し、至近距離で拳を繰り出して怪物の吻部に殴る。重要な感覚器官である鼻が殴られるたび激痛が走る。拳を噛み千切ろうと顎をパクパク動かすが、男は絶妙な間合いで手を戻し、また殴る、まるですべてを見切っているようだ。
その通り、霊薬の効果、そして極限状態においてアドレナリンの大量分泌によりゲラルトの感覚が異常なまで研ぎ澄まされ、時が泥のように鈍化し、拳が肉に当たった際に起こした波紋、飛び散る血と唾液、骨が軋む音、そして口に入った自分の鼻血の味。中毒症状の先触れだ。戦況はウィッチャーの方が有利に見えるが、実際のところ、ゲラルトが辛うじて意識を保っている状態だ。ウィッチャーの霊薬はいわば、劇薬。効果は絶大だが、常人が誤って飲んでしまった場合は最悪死に至る。以前に何度も霊薬の勢いの乗じて暴れに暴れて、自分も死にかけた経験がある。そのたびは仲間がいて助かったが、今回はそううまく行くまい。何とかして銀の剣を拾い、こいつにとどめを刺さねばならぬ。
だがクルエルキャットだってやられっぱなしではいられないない。焦りに駆けられた彼女はイチかバチかの行動を取った。前足を広げ、抱きつけるようにウィッチャーの背中に手を回し、死の抱擁で相手を捕らえた。「ガァアアアーッ!」ウィッチャーが彼女の胸部を押して抗うが、獣の膂力がディメティリウム製の鎖のごとく堅牢!「コッホ……!」肺が圧迫され、空気が入らない。卓越した心肺能力を持ったウィッチャーでもこのままでは耐えられない。窒息が先か、脊椎が折られるのが先か!
「GRRRRRGH!」「ヌゥンンンンーッ!」
両社が同時に吼えた!なんといことか、高名なる白狼であるゲラルトが、クルエルキャットの右上の乳房を噛みついている!犬歯が乳房に突き刺す!あまりの痛みで膂力が一瞬に緩めた、ウィッチャーの左手が拘束から脱し、怪物の顎に当て、つぶやくように言った。
「アード」
DOOOOM!ウィッチャーの手の平が青白く光って、空気が爆ぜた音と共に衝撃はを放った。これが《アードの印》、グエンと同じウィッチャーが操る魔法の一種だ。ゼロ距離で衝撃破を受けたクルエルキャットは五感が乱れて行動不能に陥り、やがて地に倒れた。勝負がついた。
「ペッ……ゴミクズ(filth)が……大人しくくたばりやがれ」銀の剣を拾い、噛みついた際に口に入った毛を吐き出しながらゲラルトは怪物を見下ろした。
朦朧とした視線の中、クルエルキャットは初めてウィッチャーの黄緑色の目に気づいた。猫みたいな目……そいえば山脈に住みエルフどもから聞いたことある。怪物を殺すために、自ら怪物になった魔法剣士のこと。
「Grrrr……おめぇ、ヴァーガン*か……?」
「ああ?」
ーーーーーーーーーーーーー
「……あきれたものよ」
ウォーユニコーンはそう言い、軽蔑の目でゲラルトに向けた。
「おや、ずいぶん態度が変わったじゃないか」
「当たり前だ。剣も使わず、拳で怪物を倒した末に、怪物が共通語と古代語で話し出しただと?フィスティク中毒者の方がよほどましな言い訳を考えただろう。ウィッチャーよ、もし助ける気がなければ、今すぐここから出ていくがいい。そして覚えておくがよい、もしわしらが生きて帰ることが出来たら、貴公の不始末が世間に知り渡され、白狼名は地に落ちるだろう」
「誰も依頼を放棄すると言ってないぞ。怪物の方は霊薬を飲ませて大人しくさせた、首を切り落とす前にまたやりたいことがあってな」
「おこがましいぞ!怪物を捕縛できたら、なぜ早く殺さなかったんだ!」クロトカゲが凄んだ。
「それはあの後、怪物が面白いことを教えてくれた。その確認を……」
「もういい!」ウォーユニコーンが立ち上がった。「こっちは仲間を失った上に、今にも命の危険に晒されている!これ以上お前の戯言に付き合う筋合いはない。今すぐここから出ろ!」
「ハァー……付き合っているのはこっちの方だ。俺を見くびるな。この建物にいる限り、怪物に襲われるはまずない」ゲラルトは机に置いてある香炉を見た。「この香が効いている間は」
「獣除けの香です、山に住む者ならよく焚いてると思いますが」ナイチンゲールが補足するように言った。
「獣除けの香ではない、やどり木、スイカガラ、オールスパオス、あとはエキムマーラの皮脂か?錬金術師でしか作れない、特定の生物を近づかせぬための、かなり強力の配合だ」
「高級のものですから……」
ゲラルトはナイチンゲールを無視し、隣の部屋に進んだ。グレイフォックスが彼を警戒して立ち上がった。
「ここら辺か」ゲラルトは本棚を眺めると、『戦士のおもてなし:ケィア・トロール流宴会料理』というタイトルの本に手を伸ばした。
「おい、待て……」グレイフォックスは阻止するが、当然聞いてもらわない。
ゲラルトは本押した。カタン。壁の奥に何かか動いた音がした。本棚を横にどかすと、壁に秘密通路らしき穴が現れた。
最初に動いたのはグレイフォックスだった。腰に帯びているナイフを抜き、ゲラルトに投げようと手を振り上げたに対し、ゲラルトが手を翳した。するとグレイフォックスが見えない壁にぶつかったように姿勢が崩し、後ろに倒れた。これは言うまでもない《アードの印》による攻撃だ。
リビングルームにいる三人も動き出した。ナイチンゲールとクロトカゲは剣を持ち、ウォーユニコーンは石弓を構えた。ついに本性を現したな、とゲラルトは思い、ベルトに結んでいる爆弾を掴んだ。ツァ。ウィッチャーが指を擦ることで火花が弾き、爆弾に引火した。
「あいつなんか持ってるぞ!」クロトカゲが二人に警告した。なかなかの反応だが、もう遅い。ゲラルトはリビングルームに爆弾を投げた。
KABOOOM!
「ケホッ、ケホッ!なんだこれは!?」「目が見えない!」これがウィッチャーが使う《サマム》の爆弾だ。殺傷能力が少ないものの、刺激性のある気体で相手の視力を奪う。
「この部屋に立ち入った時、ずっと気になっていたんだ。香の匂いに隠されたいた血と糞便の臭い。彼女の言う通りだったな、怪物や動物の幼体を地下室に監禁して、レイプしていたと」
「貴様やはり奴とグルだったのか!?怪物同士で気が合うってのか!」クロトカゲが無闇に剣を振り回しながら言った。
「仕方がない、それほどあの娘は魅力的なんだよ」秘密が暴露された今、ウォーユニコーンも隠す気が無くなったようだ。「それで君はどうするかね、ウィッチャー。確かにワシらは性欲を満たすため各地から怪物の子供を集めて、ここに閉じこめてきた。それがどうした?ワシの領地では、獣姦は法律に反していない!君だって研究や訓練のため怪物をたくさん殺してきたはずだ。今更正義感に燃えてワシらを咎めるのか!?」
「俺に正義を語る資格がない」ゲラルトは香炉に水をかけて煙を消し、まどを開けると、ドアの方に進んだ。「ただレイプは気に入らないだけだ。俺は一応娘がいるんでね、もしあの子がこんな目に遭ったら……想像もしたくないな。」
「偽善者め!」クロトカゲが吼えた。「レイプぐらいこの世に一日だけで何件起こると思っている!お前はレイプ現場を見かけると片っ端から切り込むのか?それに獣姦して何が悪い?そこらへんの野盗と一緒にするな!」
「言っただろう、俺は正義を語るつもりはない。あんた達が何を間違えたとしたら、自分が犯した生物を舐め切って、返り討ちされることも予想せずにのうのうと自分の欲望を満たすことしか頭にないことと、金より良識を重んじるウィッチャーに出会ってしまったことだ。さあ、報いを受けよ」
ゲラルトはドアを開けた。獣の臭いを帯びた冷たい風が流れ込んでくる。紫色の毛に覆われた巨体の持ち主が背を屈んで入室した。
「どうだ、きつくないか?」
「さっきよりだいぶ、よくなった」クルエルキャットはぐんぐんと鼻を動かしながら言った。そしてウォーユニコーンに視線を定めた。
「ひさしぶりだなぁ、ユニコーンおじさん」
「おお、ルーシー……!なんと……もうこんなに大きくなって……」
ウォーユニコーンはうれしそうに怪物を迎えた。クロトカゲとナイチンゲールは居心地悪そうに立っている。
「君がここから離れてからもう五年かね?心配していたよ。こんなに逞しくなって……本当に良かった、ルーシー」
「おれも会えてうれしいぜ、おじさん。おまえがおれにしたこと、おれがしてやる」
「そうか、やはりワシのこと憎んでいるのね……いいさ、君にとって正当な復讐だ。でもせめて」
ウォーユニコーンが両腕を広げ、真摯な目で怪物を見た。
「その前に、もう一度君の温もりを、感じさせてくれぬか?」
「……いいぜ、抱いてやるよ」
クルエルキャットは前足でウォーユニコーンを持ち上げると、口を開けて首筋に噛みついた。「コボッ!」頸動脈が切り裂かれ、気管を圧迫されるウォーユニコーンは忽ち痙攣し始めた。
「ワアアアーッ!」「クソ!」
クロトカゲが建物奥に逃げようとするが、クルエルキャットが死にかけているウォーユニコーンを彼に投げる。「グワーッ!」ぶつかる!
「マウォオオ!逃げれると思うなよ!クソども!」
「外で待つ」
ウイッチャーはそう言い、外に出た。ドアを閉める前に彼が最後に見たのは青ざめた表情で後ずさるナイチンゲールだった。
「アォオオン!」「やめろアアアアーッ!」
ゲラルトはちょうどいい切り株に座り、小枝を集めて火を起こした。中で起こっている虐殺を聞き流しばがら、革袋に口をつき、中の蒸留酒を呷った。
ーーーーーーーーーーーーー
キィイ……ドアが内側から開けれ、背を屈んで枠を潜る者がいる。
「終わったか?」「おわった」
クルエルキャットは焚火の側に座った。その口周りと胸は血に染まっている。もちろん彼女の血ではない。
「おまえのだ、ヴァーガン」
クルエルキャットは小包みを投げ渡した。ゲラルトは中の硬貨の重量を確認し、バッグに収まった。元々はゲラルトへの賞金だろう。交渉した金額より少ないが、こうなってしまった以上、ないよりはマシだ。
「助かる。これで契約完了だ」
「Grrr……」
沈黙が訪れる。ゲラルトはまた酒を呷る。
「それ、ちょっとくれないか?」
「酒が飲めるか?」
「いいからくれ」
革袋を受け取るとクルエルキャットは口を大きく開けて酒を流し込んだ。
「おい!俺の分を残せ!」
だが彼女はゲラルトの制止を聞かず、今度は酒で胸についた血を流した。革袋の中身がすぐに尽きた。
「ハァー、これはよくなった」爪で胸に覆った短い毛を爪でかき分けながら満足そうに言った。
「お前は……まあいい」
ゲラルトは空になった革袋を受け取った。愛馬のローチの鞍袋に酒が入っているが、猛獣の前に呼び出すのはまずいと判断した。あの時テーブルに置いたウォッカの瓶も多分割れただろう。
「さっきお前のことルーシーと呼ばれたが、なんのことだ?」
「Grrr……それ聞いてどうする?」
「仕事柄でな、お前のことに興味がある。台無しされた酒の弁償の代わりに教えてくれないか?」
「おれに……きょうみある?」クルエルキャットは戸惑ったように頭をぐるぐる回すと、突然笑ったように喉を鳴らした「ガッガッガッ!いいぜ、おれ今気分がいい!なんでも話してやる!」
酒が回ってきたか、彼女はリラックス状態になり、毛づくろいし始めた。
「おれは小さいとき、親がやつらの罠にはめられて死んだ。おれを暗くてくさいところに閉じこめた。足についた鉄の輪っかが邪魔でうまく動けなかった。おれはそこで、やつらに体がだるくなるスープを飲まされて、いろいろされた、一人から四人、六人の時もあった。股の間は……」
「そこは言わなくていい。要するに鎖に繋がれたのか、じゃあどうやって逃げた?」
「おれをみくびるなよ。スープを毎日飲むと、おれは大きくなった。スープ飲んでもだるくないになった。おれはいい子しておじさんを騙した。おれは言葉覚えておじさんとする時にきもちいいと言って、おじさんがとても喜んでくれておれにルーシーってなまえをくれた。おれが毎日強くなっていること気付かなかった。鉄の輪っか……鎖が小さくなっておれの足が苦しくなった。おれにスープを飲ませて、おじさんがあたらしい輪っかを持ってきた。おれが寝たふり、輪っかが外した時逃げた。山の奥に走った。木の精に会って一緒に暮らした。木の精たちは果物しか食べない、おれはうんざり、狩りを覚えた」
「なるほど、古代語もその時教えられたのか?」
「古代語はむずかしい、ほどんどわからない。でもヴァーガンだけは覚えた。木の精は言った、ヴァーガンに気をつけろと」
「その呼び方は気に入らないな、ウィッチャーと呼んでくれ」
「ウイ……チィァアアハ……」クルエルキャットは口を動かし、発音できる形を作ろうとするか、どうも上手くいかないみたいだ。
「GRRRGH!むずかしい!やめた!お前はヴァーガンでいい!」
胸の上で小さく振動する狼の頭部を模したメダルの重みを感じながら、ゲラルトは思案した。精神がまだ幼いようだが、先の戦いでウィッチャーの自分すらも追い詰められた力と狡猾性、もしさらに成長すれば一体どれほどの脅威になるのか。やはりここで仕留める必要が必要があるかもしれん。
「Grrr……ヴァーガン、なんか思っているな?」
「いや、別に」
まずい、勘付かれたのか。とゲラルとはポーカーフェイス装いながら内心にごちった。右手と背中の剣を強く意識し、戦う準備を整った。
「ガッガッガッ!わかるぜ、おまえの思うこと。おれがほしいだろう?いいよ、やらせても」
「は?」
クルエルキャットは後ろ足を大きく開けて、股間をアピールするようにウィッチャーのほうに突き出した。胸から下腹部にかけて毛が短くて薄いので見えるところがよく見える。
「何言ってるんだお前……ウッ!」
ゲラルトは脳に針が刺さった感覚を覚えた。なぜか目の前に怪物がとても魅力的に感じる。逞しくて締まりのいい筋肉、しなやかな肉体、粗暴な言葉遣いに隠されている純粋さ、どれも彼の脳をひどく刺激する。この感覚に覚えがある、サキュバスの魅惑魔法に似ている、気をしっかり持てば耐えれるはずだ……
「どうした?やらんのか?せっかくおれがやらせると思ったのに?」クルエルキャットは仰向けになり、前足で体を持ち上げて、揺らした。四つの乳房がぶるんっと跳ねる。「それとも短小で自信がないのか?いくじなしめ」
プツン、頭に中に何かが切れた。ゲラルトはゆっくり立ち上がり、ズボンを落ろした。
「いいだろう。報酬が少ない分、この手の謝礼は大歓迎だ」
「ガッガッガッガッ!やっぱこういうのたのしいよなーッ!」
獣とウィッチャーは抱き合った。
口元までに運んできた肉を、白狼は食べないわけがない。
そして、クルエルキャットの抱き心地は実によかった。
ーーーーーーーーーーーーー
「ぷるるる……」
顔に湿めた物が触れて、頭が割れそうな頭痛と共に、ゲラルトは目が開いた。湿めた物の正体はローチの舌であった。今彼は全裸で、布団代わりにテーブルクロスらしき布一枚に覆われている。
「ローチ、やめろ……あつッ!」
顔に火の粉が落ちて、その痛みでゲラルトは完全に目が覚めた。慌てて立ち上がり、目にしたのは炎上しているウォーユニコーンの館であった。
「おお……」
布をタオルみたいに腰に巻いて、周りを見た。クルエルキャットの姿は見当たらない。どこかに隠れてウィッチャーの間抜けの姿見て笑っているのではないかと期待したが、メダルが反応を示さない。もう行ってしまったようだ。
昨晩の出来事を思い出し、ゲラルトは髪の毛を掻き乱した。誘惑されたとはいえ自分が怪物とセックスしたのは紛れもない事実だ、正常ではない。長い黒髪の美しい女性が顔をしかめて自分を睨む光景を想像した。後悔と罪悪感、そしてもう二度とあの抱き心地の良い温もりを感じられない落胆が行き来した。結局彼女は一体どういう生物なのか、どこから来たのかを聞けなかった。怪物生態の研究家でもあるウィッチャーにとってこれは敗北とも言えよう。
水を飲もうと鞍袋から別の革袋を取り出して一口含んだ。ふとローチのヒップが目に入った。たくましく、締りのいい尻だ。そいえばがローチも雌だし、穴があるんだよな……
「ブッホ……!ケホッ!ケホッ!」
自分の馬鹿な考えに気づいたウィッチャーは水を吐き出してむせた。
《Another story of the white wolf : Hey kitty kitty 完 》
*ヴァーガン(vatt'ghern):古代語、ウィッチャーを意味する。
ガムシロップ@Gam0308さんより素敵なイラスト頂きました。
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