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【剣闘日記】剣闘士BeHinD yOU

 正午、とある駐車無料の量販スーパー。仕事でこの地域に来たときはよくここを利用する。なにしろ無料だからね。ここの店長はブッダとしか考えない。食後飲料のグリーンティーを購入し、おれはG・G(Gladiator Gravity)に導かれ、ここのアイカツ筐体へ赴いた。そう、ここにもアイカツ筐体がある。3月にフレンズ初体験したのもここだ。

 幸運にも、台が空いていた。樹脂椅子に座り、カードとコインを取り出す。10日ぶりの剣闘だ、なら思う存分空いてた分を取り返そうではないか、今日はプレミアムフライデーだ。コインを三枚入れて、緑のボタンを押す。

-カードダス時空-

「ヨッシャー!久しぶりに出番だぜぇ!シュッシュ!」「待ちな」

 興奮して右フックを繰り出すDOOMに、日没時の東の空めいた深い青色の頭髪を左後方に結んだ剣闘士は彼女の肩を押さえた。

-現実-

 済まないな我がチャンピオン。でも昨日観たイケナイデッカーが実にいい回だったんで、今日はあおいでプレイすると決めた。Style dressイベント、曲は6cm上の景色、激ムズ。そいえばこの間湊みおの高感度がMAXになった。前は彼女のことあんな風に言ったが体が正直なもんだ、ついつい選んでしまう。赤色の次いでに青が好きなんだよおれは。なので今日のコーデはこれにしよう。

清涼感

このコーデを着たあおいを想像したみよう。かわいい。

 そして次はフレンズの選択だ。あおいの相方といえば彼女しかいない。

-カードダス時空-

「先に行くぞ」

 ブロンドヘアのマッチョウーマン、ストラウベリーがDOOMの背中を叩いて前に進み出だ。

「ローマの姿でカードダス時空にでるんじゃねぇよ!」

 さけぶDOOM。

-現実-

 しかしやはり10日はちょっとしたブランクだな。さっきからGood判定多めで、ミスもした。それでもあおいといちごが笑顔を踊り続けている。すまんな……本当すまん……

(……ッ!?)突如脊髄が凍った感覚が俺を襲った。殺気!何者だ!スペシャルアピールの合間に横目で後ろを確認した。左後ろに花柄のTシャツを着た、およそ10~12歳の少女剣闘士が立っていた。距離が近い、彼女が手を伸ばせば簡単におれの頸動脈を裂けるほどに近かった。

(バカなっ、いつの間に!?)

 おれは訝しんで、テンポが乱れた。またしてもミス。当たり前だ。剣闘士が声も立たずに後ろに立っている、穏やかでいられるわけがない。

 三度目のスペシャルアピール、全Perfect判定が出たが、惜しくもFeverできるまでの点数が出せなかった。

 チャリ……チャリ……

(ウッ!?)後ろにいる少女剣闘士は手に握っているコインを擦りつけ、チャリチャリと鳴らしている。剣闘界において「連コインしてみろ、このコインをおまえの眼窩にねじ込んでやる」の符丁だ。おれは終了画面に向かってボタンを連打した、こうしてもロード速度が上がらないと知りながら。

『ICカードを忘れないでね!』

 やっとか!剣闘証明証をかばんにしまい、速やかに席を立った。

「どうぞ」「うん、ありがとう」

 少女剣闘士は短く礼をし、椅子に座った。彼女の剣闘はいかなるものか興味があるが、大の男が見知らぬ少女のゲームプレイを見るのはさずがに倫理的に良くないので、おれはそのまま場を去り、午後の仕事に向かった。

 店のレッスンイベント以外、後ろに並んでいる人がいる状態での剣闘はこれが初めてだ、めちゃプレシャーがかかる。そして初めて「うしろにならんでいるともだちがいったらゆずってあげてね!」も初めて行使した。悪くない体験だ。おかげでまた剣闘士として成長した気がする。花柄Tシャツの剣闘士よ、きみの行く道の先に、マルスの祝福があらん事。



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