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ヘッドスキン2

前回

破門された私は就職することにしました。

最初の勤め先はとあるハイカラのヘアサロンでした。給料が良く、先輩方が親切でホワイトな職場でした。私の技術が発揮されて、一ヶ月ぐらいでお客様から指名をいただくようになりました。けれど私は嬉しくなれませんでした。

ヘアサロンに来るお客様は大部分は女性です。女性の髪型はショートと言ってもスキンヘッドより遥かに毛量が多いです。当然毛量が多いと頭皮の感触を阻害してくれますし、光沢も求められません。皮脂のにおいが化粧品の香が混ざって不純になっています。まったく頭皮を楽しめません。しかもヘアサロンはカット、シャンプー、毛染、髪型のセットだけではありません。お客様と上手くコミュニケーションを取って喜ばせるのも仕事の内です。私は特にこれが苦手です。お客様からボーイフレンドや家族に対する愚痴を振られたときには心の中で『知ーらーねーえーよっ!このロン毛ー!バリカンでお前の髪を刈ってやろうか!』と叫びながら対応していました。

私は飢えました。電車の中で禿げているおじさんを見かけると手を出してしまうほど危うい状態でした。そんな中である日の夕方に店に予約なしの新規お客様が訪れました。近所の高校の制服を着ている黒セミロングの子でした。私は予約していたお客様が急用でキャンセルされて暇していたので、彼女のカットを当てることになりました。

「今日はどのようになさいますか?」
「思いきって切っちゃってください」

と彼女が言いました。声が少し震えていました。よく見ると目元が赤い。あれなんですかね?ボーイフレンドと別れて、髪型を変えて過去の自分にサヨナラみたいなシチュエーションか?本当にあったんですね。いや待てよ……今思いきって切っちゃってくださいって言いました?

「本当に思いきって切っちゃっていいですね?」
「はい、お願いします」

これがチャンスだ。久しぶりに刈れる。女子高生の生頭皮に触れる。頭の中が健康の少女頭皮でいっぱいになり、欲望にまみれた指がバリカンを握って、前髪から数センチのかりこむと、彼女が悲鳴をあげながら席から飛び上がって、ケープを着けたまま店を出て走り去りました。

数時間後、木刀を持った男性が店にやってきました。私を見るなりに「お前か!?娘の頭をめちゃくちゃにしたハゲというのは!」と言って突っ込んできました。私は額に一発もらって右目の上の骨がひびが入ったが、相手の手首の腱をハサミで切断して無力化しました。

裁判では私の正当防衛が成立しつつも、過当な手段で相手に不可逆の身体障害を負わせたため、9年の懲役を課されました。

(続く)



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