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ヘッドスキン3

前回

フィリピン武術界の頂点に立つエスクリマのマスター、ベンジャミン・タイーニャ。彼はかつて弟子にこう聞かれました。

「先生は格闘家以外にどんな職業の人間が一番強いと思いますか?」

タイーニャはしばらく思索し、「美容師だ」と答えました。

「ミリメートル単位でコントロールできる手先器用さ、数時間にわたって途切れない集中力、客と会話しながら理髪をこなすマルチタスク能力、マッサージで鍛えられた指力、しかも刃物の扱いに長けている。もし美容師が格闘技の心得を持ったら一体どれほど化けるか、想像するだけで恐ろしくて仕方ない。きみらも髪の毛を切ってもらう時、『頭』という弱点を美容師に捧げだしている事実を改めて認識した方がいい。頸動脈を切られようがチョークホールドで極められようがやられ放題だぞ」
「そんなこと言われたら怖くてもう床屋に行けませんよ」
「だろ?だから私は自分でバリカンでやってる」

ーーという逸話はありませんでした。ベンジャミン・タイーニャというエスクリマの達人も存在しません。全部だたいま私が今考えた作り話です。刑務所の生活で私の精神状態が大分よくなって、このようなジョークが言えようになりました。受刑者の髪型は基本坊主ですから。

入所早々、私はを経歴を買われて、所内でバーバーをやらせていただくことになりました。刈り上げ100円(私としては刈り上げを無料にしてもいいと思いますが、所内では無料でやっていいのはちんぽ大好きマゾオスビッチだけらしいのでやむを得ず)、髭剃り200円、頭皮マッサージ500円、1000円で上記のサービスプラス耳かきのフルコースとなります。現金がない場合はタバコやインスタント麵での支払可能です。私としては刈り上げを無料にしてもいいと思いますが、所内では”無料”はまずいので

商売は結構うまくいきました。シャバよりずっと安いわりにクオリティが高いといい評判でした。週にフルコースを3回利用する上客のヤクザの組長さんが「出所してまた床屋を始めたら連絡をくれ。通うわ!」と言ってくれました。まあ所内でこういう約束は飲み会の誘いに「行けたらいく~」ぐらいの信憑性しかないので聞き流しましょう。

バーバーはハサミやカミソリなど危険物を扱うため、毎日勤務が終わったあとは徹底的道具の検点とボディチェックを行います。どうやら先任のバーバーはケツの穴にカミソリの替え刃を入れて密輸しようとしたが、途中に替え刃を包む紙が肛門の圧力に耐えれず破れてしまい、肛門がずたずたに切り裂かれたのち腸内菌の多重感染したあげく悲惨な死を遂げたんですって。私はそんなヘマをしない。

売上の70%は保管と称してムショに徴収されるけど、それでも私はけっこうお金を持っていました。金を持ってるってことは狙われることも多いことです。シャワー室やグランドでカツアゲに遭ったことは一度や二度じゃ収まりません。私は庇護を求めてネオナチのグループに入りました。理由はもちろん、彼らが他のクループより徹底的に髪の毛を刈り上げてスキンヘッドが多かったからです。出家していた頃を思い出しますな。

世の中に厳しい目で見られている彼らに接していて、有色人種と同性愛者と障害者に対する差別的な発言する以外は概ねいい人でした。タバコとインスタント麵を分けてあげるとすごく喜んでスキンヘッドを撫でさせてくれます。グループに入ってからカツアゲはなくなりました。ちなみに彼らは100%日本人であってアジアンだけれどアジアンをも差別します。面白いですね。私はクループに入った際は仲間の証として後頚部ハーケンクロイツを刺青を入れられました。もう銭湯には入れないしハイネックの服を着ないといけないね。

それから5年が経ったところ、模範囚で居続けていた私の仮釈放が決まりました。

(続く)

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