タピオ・カーン STRIKES AGAIN
「これでOK?」「もう少し近づけた方がよくない?」
ピンク縁眼鏡のケイミと黒いロン毛のラビ、二人の女子高生はカメラに向けて、頬がくっづくらいに顔を近づけ、手に持っているタピオカミルクティーとタピオカ冬瓜ティーのコップを合わせて乾杯するポースをとった。
「おっ、いい感じじゃない?」「じゃあ撮るね。せーのー」
「「イェーイ」」
満点な笑顔をきめて、ケイミはBluetoothシャッターリモコンのボタンを押した。パシャッ、合成シャッター音が響いた。
「よし、じゃこれ持ってて」
ケイミに冬瓜ティーを渡し、ラビが自撮り棒からスマホを外して写真加工アプリを起動した。目を拡大し、皮膚の荒れを除去……その動きはプロじみて迅速であった。
「完成!これでフォロワー100人増えるに間違いなし!」送信ボタンを押し、加工した写真を写真共有型SNS『Yamstergrand』にアップロードした。ヤンスター映え!
「あとでアタシにも送ってちょうだいね」ケイミはそう言い、ミルクティーのストローを咥えて一口吸った。「ゲェ、甘っ!?糖尿が起こるぐらいの甘さだわ!」
「だからあれだけ半糖にしろっていったのに」ラビが自分が買った冬瓜ティーを受け取った。「でも正直飲みたくないよねこれ、さっきのティーショップで毛深いおじさんがティーを作ってるの見たから」
「ウェー、まじかぁ」ケイミは舌を出して気持ち悪そうな表情を作り、コップからできるだけ離れるようにコップを持っている手を伸ばした。「じゃあどうしよこれ……」
「……そこら辺の木の下に置いておこうか」
ラビは真顔で言った。
「えっ、ラビ、それって」
ケイミは一瞬躊躇したように見えた。さすがにポイ捨て当然の行為に罪意識が働いたのか?
「天才じゃん!もしかしたらホームレスのおっさんが拾って飲んでくれるかもしれないし、むしろ善行!」
ナムアミダブツ!なんという理屈か!しかし彼女は毛深いおじさんがシェイクしたティーを捨てたい一心で、もはやモラルや倫理などドウデモイイのである!
「ああ、おっさんが作った茶はやはりおっさんに胃袋に還るべきだね。そんじゃ……誰もみてないよな……ほい!」
二人はそーっと、ティーが入った二つの樹脂コップを路傍の灌木のしたに置いた。その時である。
ドォグヮーーーン!!!
「ひっ」「うへ」
雷鳴!さっきまで晴れだった空が分厚い雲に遮られ、午後四時にもかかわらず七時のような暗さになった。
「びっっくりしたぁ~急に暗くなった」「雨が降りそうね、早く帰ろか……ぶっ!?」
駅に向かうべく、踵を返して歩み出したラビは何者にぶつかった。
「あっ、すみません……」
転倒しかけたラビはバランスを整えて、自分がぶつかった相手を見上げた。
そいつはモンゴル帝国式鎧を纏った、見事な黒ひげをたくわえたモンゴリアン軍人であった。
「タピオ、カー……ン」
モンゴリアンは目黒のない目でラビを見つめて唸った。正体不明の恐怖がラビを襲った。
「いや、ですからあの」
(何こいつ?もしかしてマジやばい状況?)
「タピオォッ!カーン!」
「すみません!もうこの子はほんとうに道を見て歩かないからァ!」
困惑しているラビにケイミがフォローを入れた、二人に間に確実な友情があった……しかしモンゴリアンはここで柄に黒真珠を飾り付けた軍刀を抜く!叫ぶ!
「タピオ!カーン!」
「「ヒィッ!?」」
「タァピーオ、カァーン!」
軍刀の先端がさっき二人が捨てたティーを指している。聡明なラビはここで気付いた。
(こいつさっきからタピオカーンタピオカーンって叫んでいる。タピオカーン……タピオカ?まさか)
「あんた、私たちがタピオカを捨てたことで、怒って……」
「タピオォォ!カァーーン!」
YESの代わりに繰り出される軍刀!白い刃がラビの頭部にめり込み、血液と脳漿が垂れて溢れる!
「キャアアアアアア!!!」
惨死した親友を見たケイミは反対方向へ逃走!しかしそっちには。
「タピィーフィーンヒヒヒーーン!」
ずんぐりした逞しいしたモンゴルナイトメアが二本の前足を高く上げて待ち構えていた!戦錘めいた蹄!
ドゴ、鈍い音。ケイミは地面に倒れて動かなくなった。
モンゴリアンーータピオ・カーンは進みだし、大きな手で二つのティーカップを拾い、軍刀でギャップを切り払うと、全糖入れのミルクティーを一気に飲み干し、タピオカと氷を噛み砕きながら、冬瓜ティ―のほうをナイトメアに差し出した。
「ダピフフーン」
ナイトメアは長い吻部をカップに突っ込み、器用にティーを飲み始めた。
ータピオ・カーンは超自然的な存在、その行動原理は法律と倫理の外にある、ゆえに人類で法で彼を裁くことは不可能ー
≪澱粉と神話:タピオ・カーンの章 より≫
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