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攻めの運転

 サイドミラーとバックミラーが後方車のライトを反射し、網膜を焼きつく白い光の眩しさにディックは目を瞑った。

 一秒経過、二秒経過。後方車はハイビームを消さかなかった。自分は相手に嫌なことでもしたのかとディックは自分に問う。いや、思いつかない。自分はだたこの真っすぐの四車線道を法定速度の時速40マイル前後で走っていただけ。

 ハイビームがミラーを通してディックを苛め続ける。ディックは角度調整とか色々努力して、なんとか赤信号で止まった。この赤信号は90秒以上もある。ディックは心決めて、会社が支給した灰銀色のプリウスを降りて後ろの車両に向かった。HIDヘッドライトの焼けそうな光はディックを照らし、思わず手で目のまえに掲げた。暗い紺色のボンネットに四つの輪っかが見えた。AudiIの……なんらかのスポーツカーだ。ディックは車に関心があまりにないタイプなのだ。

『So you're a tough guy Like it really rough guy』

 重点音スピーカーがビリー・アイリッシュの歌声はカラス越しでもはっきり聞こえる。ディックは運転席の横に立ちとまり、運転手に会釈した。ウインドウが下がり、ビリーアイリッシュの淫靡な歌詞が爆音で吐き出される。運転席に座っているのは夜なのにサングラスをかけて、レザージャケットを着ギャング風の男、その隣に胸元を大きく露出したドレスを着た派手な化粧をした女がいた。男は尊大に肘をウィンドウ枠にかけた。

「何の用か?オッサン!」

 男は喋るというより、吼える勢いで話した。でないと音楽にかき消されるからだ。

 「失礼します!その、ヘッドライトがハイビームになってて、とても眩しんです。切り替わって頂けないでしょうか!?」

 ディックも吼え返した。でないと音楽にかき消される。

「ああ!それか!」男はニィっと歯を見せた。「わざとやったんだよ!カタツムリが!前めっちゃ空いてんのにのろのろ走ってんじゃねえよ!」
「キッヒヒヒ!」

 女の方も笑った。

『Make your girlfriend mad tight Might seduce your dad type』

 ビリーアイリッシュが自分がどれほどバッドガイをアピールするなか、ディックは無表情になり、目が暗くなった。サングラス男はその変化を敏感ストリートで鍛えた感覚で察知した。

「あぁん!?なんだオッサン!怒ったのか!はぁん!?」その右手には自動拳銃!「文句あんのか!?」

「いや、あなたがうっかりバーを倒して、ハイビームに切り替わったのではなく、故意に嫌がらせでやったのを確認出来てよかった」

 ディックは低い声で言ったが、その声はビリーアイリッシュに遮られ、相手には届かなかったが、敢えて、言う。

「これで心置きなくやれる」

「ああん!?もっと大きい声で言えや!」

 サングラス男は凄む。そしてディックは動いた。車内に手を伸ばし、銃を握っている男の右手上から覆う形に掴み、思いっきり引く、ウィンドウ枠に手首をぶつける!

「グァ!?」

 関節に痺れるような衝撃!手が緩めて、拳銃の奪取を許してしまう!ディックは奪った拳銃を胸の前に抱えるように構えた。ドゥン!サングラスは額に穴が開き、女の胸に倒れ込んだ。

「イッ」

 ドゥン!悲鳴を上げる間もなく、女は左目が銃弾に貫かれた。

 Audiの後ろに、すべての経過を見たバンを運転して女性は、スマホに手を掛けた。そこにディックは銃をバンを運転席に向けた。運転手は凍りつけ、スマホを落とした。

 しかしディックは申し訳なさそうな笑顔で会釈し、手にしていた拳銃をAudiに投げ入れ、ハンドルの左側にあるバーをねじってロービームに切り替えたあと、ちょうど信号が青になったところで会社に支給されたプリウスに戻った。

『I'm the baaaaad guy』

 ビリーアイリッシュが歌い続き、銀灰色のプリウスが法定速度で道を進み始めた。


歌詞は下品だけどいい歌だよ!


 

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