目を覚ませ僕らの大賞が何者かに狙われているぞ!3

翌日の正午、ランチタイム、育ち盛りの生徒たちはカロリーを求めてここに集っている。

ガシン、ガシン。金属音を鳴らし、プレートアーマーを着込んだ人間が列に紛れていた。目立ってしようがない。彼の前後に並んでいる生徒は彼の存在を意識しないように努めている。

鎧人間はフレンチフライズ、チーズバーガー、チキンブリトー、スペシャルドッグなど美味しそうな料理をひとつも取らず、パック入りミルクだけをトレーに乗せて会計へ向かった。

「本当にそれだけでいいのかい?」

食堂のおばさん、リンダ・スターキーが問う。生徒の間では主に彼女のこと愛称の”チャチャ”で呼んでいる。

「うん、チャチャ。これでお願い」
「その声、アンプじゃない!どうしたのその格好?まあ、あんたならやりそうだわな。でもミルクだけじゃ栄養が足りないだろ?ほら」

チャチャはアンプのトレーにキャロットジュースを追加した。

「当店から勇敢な騎士様にサービスだわ、持っていきなさい」
「お気遣い感謝する」

会計を済ませ、アンプは持って友達がいるテーブルへと向かう。友達というのはもちろんチーム・サムライのことである。

「やあ、諸君!流体食の摂取に絶好の日だと思わんかね?」

鎧姿の奴が居るテーブルは必然的に注目が集まる。サム、シド、タンカーは周りから刺さる視線に思わず身を縮める。

「ほら、シドが昨日あんなこと言ったから、間に受けたんじゃないか」
「何よ!あなたたちだって茶化してたじゃない!」
「朋よ、争うなかれ。鎧を纏うのはあくまでわたし個人の意志だ。時代は自己防衛、逆噴射小説大賞関係者連続死亡事件が治るまで脱がぬつもりだ」
「大丈夫なのか?その、いろいろがさ」
「わが同朋タンカーよ、どこに問題があろうか、具体的に述べてみたまえ」
「その口調ちょっとムカつくなぁ。動きにくいとかないか?」
「いや全然。むしろ思った以上に動きやすくて驚くばかりだ。甲冑を着ると走れないとか転んだら自力で起き上がれないとか真っ赤な虚偽なり。それだけではない。鎧を身につけることでわが身と心が強化され、本当の騎士となった誇らしい気分だ。むしろ今後も着ていきたいぞ」
「確かに変にキャラを被ってはいるけど」
「でもさ、トイレはどうする?」
「一応脱着はできるが、事態に備えておむつを履いてある。そして隙を最小限に抑えるために外出する際の飲食は流体のみにしている」

アンプは兜の覗き穴にストローを差しこみ、ミルクとキャロットジュースを同時吸引。隙を最小限に抑えるため一瞬たりとも兜のバイザーを上げるつもりがないようだ。

「ずずずっ……ふぅ……美味であった」
「ふーん、そっちが楽しんでるみたいだし、オレも言うことねぇわ」

タンカーはそう言って好物のスペシャルドッグを齧る。新鮮な野菜がシャキと声を立て歯に切断され、パリっとソーセージはの皮が破れて肉汁が弾く。それを見てアンプは唾をのんだ。

「す、すまぬが、わたしは命を狙われる身だ、同じ場所で長居では居られぬ!朋よ後でまた会おう……!」

理性がまた食欲を抑えられる間に食堂を去ろうと、アンプはトレイを持って立ち上がる。その時である。

KRAAAAAAAASH!!!学食の壁が突き破られ、ボンネットに意匠されたTのマークがついた電気自動車がテーブルと椅子をなぎ倒しながら突っ走ってくる!

「うぉっ!?」「きゃっ」「あぶぇっ!」

サム、シド、タンカーの3人はデジ・ワールドの戦いで養われた反射神経で咄嗟に回避!しかしアンプは背を向けていたせいで反応が一瞬おくれて跳ね車とぶるかる!

「ぐわあああああああーーっ!!!」

アンプの体が2メートル高く舞い上がり、重々しい床に落下!

「オウマイ……アンプ!」
「大丈夫かアンプ!」
「生きているか!?」
「うぅ、がはっ……鎧がないと死んでいた……」

鎧はひしゃげて、表情は苦しいが、中にあるアンプは命の危険がないようだ。なんというタフネスか。

「おいてめぇコラー!!いきなり突っ込んできてどういうつもりだオラー!!」友人が傷つき、怒り心頭のタンカーは肘で車の窓をたたき割り、運転手の襟元を掴む。「さっさと降りるぉ……あいぇ!?」

怒り赤くなっていた顔が一瞬で血の気が引いた。後ずさり、座り込む。

「あっ、あいぇぇぇ……」
「どうしたタンカー!?こ、これはっ!?」

運転席を覗いたサムもが驚愕。運転席に、顔の皮膚がひどく焼け爛れている男性が座っていた。頭がぐったり垂れており、意識があるようには見えない、たぶん事切れている。さらに後ろ座席にも同じ状態の2人が居た。

「この人たちは……ハッ、ホクトソースさん!ロイスレイヤーさん!刹璃苦鉱夫さん!そんな、どうして皆がこんなことに!?」

車の中の3人を見たアンプは悲痛そうに言った。

「この3人を知っているのか?」
「ああ、昔はオフ会で一度会ったけど……3人とも逆噴射小説大賞で知り合った者たちだ」
「これは……感電死の症状だわ」シドが微か震えながら言った。「怪我の様子からして、大分前から死んでいたでしょう。たぶんバッテリーの漏電とかが原因」
「それだと、運転手と乗客はとっくに感電死して、車が自動運転で逆噴射小説大賞参加者のアンプを轢きにきたこととなる……ってことはつまり」
「ええ、十中八九、メタウイルスモンスターの仕業でしょう。くっ、もし昨日ジャンクで索敵したら、こんなことには……!」

シドは自責で唇を噛みしめる。そんな彼女に、アンプは肩に手を添え、バイザーを上げて毅然とした表情を見せた。

「いまさら悔やんでも仕方ない、シド。おれ達はただのティーンエージャーだ。何でもカバーできるはずがない。それより今はやれることをやろう!」
「アンプ……うん、そうだね!」
「よしっ!それじゃスーパーヒューマンサムライスクワッドの出番だな!」
「みんな、行くよ!」

と4人が急いで食堂を出ようとしところ、小太りの黒人男性が駆けこんできた。ノースバレー高校の校長、プラチェート先生だ。

「食堂に交通事故があったと聞いたけど何がどうなって……うわあ死屍累々!?」
「校長先生落ち着いてください!死屍はいたけど、生徒はみんな無事ですよ!」
「そうか、それはよかった……いいやよくなぁぁぁい!!壁はともかく、もし誰かが怪我をしたら私は……私は……ムッッ!あの車、T社だな?おのれイーロン!このままでは済まさぬぞ!」

プラチェート校長は力強く拳を掲げる!

「すぐに取締役会を招集しよう、訴訟だ!」

これは後に「スクール VS .IT長者」と言われる歴史に残る事件の発端となり、NETFLIXオリジナルドキュメンタリーまで制作されたが、それはまた別の話。

(続く)


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