目を覚ませ僕らの大賞が何者かに狙われているぞ!2

ここはコリンズ家の地下室。チーム・サムライはよく放課後ここに集まってダベたりバンドの練習をしたりしている。

「くそっ、どうなってやがる.......」

バンドのベイシスト、アンプ・エルがスマホを見つめながら呟いた。いつもひょうきんな彼は珍しく浮かない顔している。

「どうかしたかアンプ?顔がコンビニのあのぐるぐる回ってソーセージを加熱する装置の上に8時間転がされたソーセージよりしわ寄せているぞ?悪いことでもあったか?だったらオレと一緒に筋トレして脳内麻薬をドバドバだそうではないか!すごくキマるぜ!」

大柄の少年、トラマーのタンカーが鍛えられた上腕二頭筋を強張らせてアピール。

「タンカー、人がシリアスの時からかわないの」
「わっ、ごめん、シド……」

チーム・サムライの紅一点、ボーカル兼キーボーディストのシドニー・フォレスタに言われ、タンカーは素直に謝った。彼はシドに好感を抱いている。

「悩みがあったら言ってくれよな、アンプ」優しそうな少年、ギタリストのサム・コリンズがアンプの肩を軽く叩いた。「一人で思い詰めることはない、ボクらはチームなんだろ?」

「ありがとう、みんな」これ以上皆に心配させまいと、アンプは笑顔を絞りだす。「おれのことではないんだけど、SNSの知り合いの訃報が次々と上がってくるんだ」
「オウマイ......それはご愁傷様としか……」
「残念だったわね」
「ナムアミダジーザスクライスト」

アンプが珍しくシリアスなためひょうきん役はタンカーに回っているようだ。

「ああ、しかも皆、今年の逆噴射小説大賞に実績を残した人ばかりだ。きゅどうしゃさんがフリークライミング中に転落死、ライオンヘッドさんはサウナ中の心停止、アクズメさんに至ってはボクサイズ中拳で己の顔面を粉砕したという......」
「最後の人だけ死に方がぶっ飛びすぎない?」
「タンカー、人が死んでるんわよ」
「ごめんアーメン」
「3人とも接点があるわけだね、それとその......逆噴射なんだっけの?」
「逆噴射小説大賞」
「なにそれ?」
『えぇーっ!?サム、逆噴射小説大賞しらないの!?』
「知っているのかリズ!」

上の階と繋がっているダクトから可愛いらしい少女の声、彼女はエリザベス・コリンズ、サムの妹である。彼女は家の中に居ながら姿を一切現さず、ダクトを通してサム達と会話したり物をドロップしたりしている。

『逆噴射小説大賞とは社会派コラムニストの逆噴射聡一郎とダイハードテイルズ出版局が主催する小説の冒頭を書いて、最も続きが見たい作品で競うプロ、アマチュア問わず気軽に参加できる小説コンテイストだわ!優勝者には栄誉とCORONAひと箱が得られるのよ!確かにアンプ君はこれまで何回も参加してたのね?』
「ああ、そうだぜ。そして今年はなんとおれの作品が見事に最終選考に残って、Mr.聡一郎からコメントをいただいている。自己BEST更新だぜ!」
『まあ、すごいじゃない!』
「へへっ」

アンプはなにげに誇らしげだ。

「そうなものがあったのか。もしかしてアンプ、お前が10月となるとここに顔を出す回数が少なくなるのそれが原因?」
「そう、ネタを練るために一人で瞑想する必要があるんだ」
「ちなみにどんな作品を書いたの?」
「最終選考に残ったタイトルは『サイコソリッドソルジャー・サーボ』だった。青少年たちが電子の戦士サーボに変身してコンピュータウイルスのモンスターと激戦を繰り広げる、特撮ヒーロー風のSF小説だぜ!『ベタな展開でありながら作者の有無言わさず筆力に殴られ説得された。とてもREAL感じた』とMr.聡一郎が言ったぜ!」
「REALって」
スーパーヒューマンサムライサイバースクワッドオレらの活動そのまんまじゃ……」

サムとタンカーは呆れた。シドは指で顎を撫で、思考を巡らす。

「ちょっと待って、アンプ。さっき逆噴射小説大賞で活躍した人が短時間内数人も亡くなったと言ったよね?てことは、ファイナリストのアンプも危険なのでは?メタウイルスモンスターによる被害の可能性は……」

ズンッ、和気あいあいだった地下室は急に重苦しい空気が漂う。チーム・サムライのメンバーは互いを見る、そして、

「「「いやいやいやいや」」」

とサム、シド、タンカーの3人は口を揃える。

「キロ・カーンはこんなことでメタウイルスを使うなんて考えられないよ~」
「これまでと比べて被害の規模が小さいすぎるし、きっと偶然だよ~」
「フリークライミングはハイリスクなスポーツだし、サウナは自ら死に追いやることを気持ちいいとする行為だし、力もコントロールできない奴がボクササイズやるなんてベイビーに弾を込めた銃を渡すようなもんだからね~」
「……」

3人はキロ・カーンの仕業を否定して茶化すが、シドの言葉がアンプは心に靄がかかった。

「あっ、やっべ!もうこんな時間!お前ら今日はもう解散な。明日はこそバンドの練習やるぜ」
「うぃー」
「それじゃ」
「……おう」

場面転換、同一時刻、デジ・ワールドでメヒコマシェットは暴れ続けていた。

『グリンゴォーッ!』

腕に生成したマチェーテで一気に複数電子建造物をなぎ倒す!

「ぐわっ、こはっ」

逆噴射小説大賞2022ファイナリスト、ジェームズ短編はベッドで仰向き姿勢でスマホをいじっていたら指の疲れで手を放してしまい、スマホが重力のままに落下して顔面に直撃し、その際に折れた前歯が気管を塞いで窒息死!

「ただいまー」

KA-BOOOOOOM!!!玄関に踏み入れた途端、マットの下に設置されたスマート地雷が家主を侵略者だど誤認して起爆!逆噴射小説大賞2022ファイナリストの電楽はミンチよりひでぇ状態!

『グリンゴォーッ!』

デジ・ワールドの中で、メヒコマシェットは雄叫びをあげる。

「ククク……いいぞ、メヒコマシェット、もっとやれ!」

プシュ、暗い部屋の中、マルコムはメヒコマシェットの破壊活動を見守りながら新しいエナジードリンクを開けた。

「僕より優れた小説書きなど不要!言葉が銃弾だと?笑わせる!銃弾とはPOWER!そして僕はいま一番強いPOWERを味方にしているぜ!ぐっぐっ……プハーッ!」

そのままエナジードリンクをイッキ!彼の両目がカフェインのオーバードーズで真っ赤!

早く、早く気付け!スーパーヒューマンサムライサイバースクワッド!このままでは取り返しのつかないことになってしまうッ!

(続く)


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