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チャーハン神 炒漢

 午後3:40。中華料理屋「後楽后(コウ・ラクィーン)」。大学で国術クラブの同僚センチ美とテツローは練習後、腹を満たすためよくここを通っている。ここの油を多めに使った半チャーハンは絶品だ。

「ずっと考えてることがあってさ」「うん」「半チャーハンって文字通り、普通のチャーハンの半部だよね」「うん」

 先に自分をチャーハンを片付けたセンチ美は二皿目の半チャーハンにスプーンをつけるテツローに話題を吹っ掛けた。

「じゃあさ、残りの半分は何処に消えたのかなって、考えたことない?」

 実にくだらない問題だ。センチ美はもちろん最初から半分のライスと具で作ってることを知っている。ただうまいこと言ってテツローのリアクションをみてみたいだけだ。テツローは普段クールぶっているが、投げられてきたネタを的確に理解し、鋭いツッコミで返す、面白い。

 チャーハンを運ぶスプーンを止め、カチャリと皿の縁にかけると、テツローは極めて真剣な表情でセンチ美を見つめた。

「本当に知りたい?」「えっ」

 想外の問いかけにセンチ美は反応に窮した。テツローの目に言い知れぬ凄みが宿っていて、それが知らない人だったら目を合わせて0.1秒で視線をずらしただろう。それが更にセンチ美の好奇心を刺激した。

「うん、知りたい……です」思わず敬語を使ったセンチ美。

「いいだろう。喝ッ!」

 テツローは内力を込めた両掌でテーブルを叩いた!チャーハンを乗せた皿が150㎝跳ね上がる!

「ちょっ、テツローくん!?」「嗄ァーッ!」

 センチ美に訝しむ暇を与えず、テツローが席から垂直跳躍して中空で皿をキャッチ!そして腰を捻りアイススケート選手のごとく回転!ハヤブサの同体視力が持っている者なら見えただろう、竜巻めいて高速回転している中、テツローがが高速にチャーハンを貪っていることを!

 [澱粉補充完了、ビタミンバランス良好、油分チャージOK!]

 ターン!右拳をテーブルに叩きつけ、左手に空になった皿をもってスーパーヒーロー着地を決めた。

「お、お客様ァ!?」

 騒ぎに気付いて駆けつけてくる店員。しかしテーブルの上でゆっくり立ち上がっるテツローの姿は、さっきまでテツローではなかった。

 上半身は艶やかな赤銅の肌、引き締まったボディーを惜しみなく露出している。下は袴のようなボリュームのあるズボン、カンフーシューズ。首の後に仙人か天人の絵でよく見かける重力に対抗して浮かんでいる薄い布紐がΩの形を作り、脇を通って腹の前で交差した。黒だった短髪は今ガスコンロから吹き出す炎みたいに逆立ち、赤橙色に輝いている。

「テツロー……くん?」心配そうに尋ねたセンチ美。

「テツローはわたしの仮の姿。今のわたしはーー」

 ヒョっとテーブルから飛び降りる。

「チャーハンの神、炒漢だ」

「えっ」「えっ」

 事態を飲み込めず、立ち尽くしたセンチ美と店員。二人の一神のほかに店の奥にいる一人の客はかに玉を箸で切り、ご飯に乗せて食べていた。

(続く)


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