ぶつかられ屋列伝
ぶつかられ屋三原則:
一 ぶつかられ屋は攻撃を行ってはならない
ニ ぶつかられ屋は攻撃を避けてはならない
三 上述の二条に反しない限り、自己の守らなければならない
「セェ、ハッ!」「憤ッ!」
BASH!体と体がぶつかり、衝撃音がホールに響いた。アメフト選手じみた巨漢のタックルを受け、武僧の厳章がじりじり後ろへ押される。そこで。
「キェーッ!」
改札を通ったJKは無防備の延髄に木刀を振り下ろす!
「アン、ドゥ!」
Suicaをチャージし終わった老紳士は一気に距離を詰めて脇腹にレイピアで突く!
「吼ォォォ……覇ァーッ!」
僧が咆哮と共に全身の筋肉に内力を送り込んで硬化させた。少林硬気功絶技、金鐘罩・リアクトアーマーである!
「なに!?」JKの木刀が爆散!
「サプェース!?」レイピア断裂!
「ドワッ!」弾かれる巨漢!
2030年、ストレスが溢れかえって、通勤者の40%がぶつかり屋になった時代、JR東日本はクッション職員、通称ぶつかられ屋を導入した。そして武僧の法名は厳章、少林寺から来た彼は修業として、丸の内北口改札のぶつかられ屋を務めている。
「三人がかりもかぁ」
「お坊さんつえー」
「エホグレターブル」
ストレスが発散できて、三者は満足して各々に歩き去った。
「承譲」
厳章は残心し、両掌を合わせてお辞儀した。
(ここが我が道場。衆生のためなら、私は喜んですべてを受けとめよう。しかし世尊よ、本当にこれでいいでしょうか?)
厳章は天井を見上げ、姿見ぬ仏陀に尋ねた。
同時刻、山手線に走るとある列車の上。道士服の男が強風の中で緩やかに太極拳を繰り出している。運転手が懸命にレバーを捻るが、速度は一向減る様子がない。太極拳に制御されたのだ。
「坊主めイキリやがって……少林と武当、どっちの功夫が上か、今日こそ決めようじゃないか」
男は呟き、太極拳の動きを早めた。列車が時速は140kmで東京駅に向かって突進していく。
(つづく)
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