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My life style is also my dead style

「ふぅー」

 日課のシャドーボクシングを終え、シャワーを浴びた後、俺はホピー部屋に入ってゲーミングチェアに座った。壁際にセットした水槽の中で、俺の存在に気づいたニシキガメが餌を貰えると思って必死に足をばたつかせて水を漕いている。すまんな、俺の飯が先だ。

 床に置かれたビニール袋からコンビニで買ったサンドイッチを取り出して頬張りながら、パソコンを操作して朝食のおかずを物色し始めた。おっ、石垣島の汚染海域にダイブして獲った変異した魚を食べるマサオ君が新しい動画をあげているぞ。おかずはこれに決まりだ。

 重油汚染で体積の15倍以上のぬめりが出るウツボを捌くのに苦戦しているマサオ君を見て、一枚のレタスと0.2㎝の超薄きれハムしか挟んでいない貧相なサンドイッチが格別に旨く感じる。金を出すだけで獲得できる食事の有難さを思い出させるぜ。

 ようやく中骨を外せた。次は蒲焼用に身を広げるマサオ君。頑張れよ。俺はそんなマサオ君を見守るべく冷蔵庫から缶ビールを取り出して呷った。ヒャーッ!朝食から酒!堕落の味!美味すぎる!倫理的にだめな大人だと言われちゃうけど俺っちっそもそも無職だもんね!お袋が他界してからその遺産を継承して、少しつつ削りながら不自由なく生きて来た。毎日の食、酒、そしてジム代、それさえ確保できれば俺の生活が安泰さ。親戚は疎遠したし、友達の付き合いはインターネットだけにした。私生活に口を出すやつが居ない。実際快適。ジムを通う度に「あのおっさん、歳の割にはいいバルクだぜ」と言われたら一日が豊かになる。

 ウツボの身ををバーベキュー台に乗せて、心地いい脂肪の破裂音と共に焼かれていく。俺は二本目のビールを開封した。む。冷たいビールが食道を通る度に胸がじんじんするな。昨日ベンチプレスで張り切りすぎたかも。ごほっ。

 急だった。胸の真ん中あたりに一際強い痛みが走った直後、体から力が抜けた気がした。ビール缶が手から滑り落ち、俺は椅子の横ににもだれかかり、椅子ごと床に倒れた。痛い、呼吸ができない、心臓が動いていないっぽくて、身体が異様に静かになってる、やばい。

 俺は十数年前の夜、リビングルームで心筋梗塞で倒れた父を思い出す。CPRを施しながらも、顔色が次第に紫っぽくなって、舌が飛びかかりそうになったその時の顔、マジで酷かった。俺はもしかしてあんな顔になってるかもしれない。あの時は俺のCPRと早めに病院についたので一命を取りとめたが、今家にいるのは俺一人だけ。

 一人暮らしのデメリットか。いずれこうなると思ったがまさか今日とは。クソ、また死にたくねえよ、それ以前空気が欲しい、苦しそうになってきた。視線の端にニシキガメエサが貰えると思って必死に足をばたつかせて泳いでいる。悪いな、エサをあげないまま死じまいそう。これからはお前自分に頼るしかない。俺がひどい様になって発見されるが先か、お前が餓死が先か。

 視線が朦朧になってきた。光が……光が見える。暖かくて心地よさそうな光だ、あそこに行けば僕がきっと……


Bi
BiBiBi
ユーザーの心臓停止を確認
蘇生開始
3、2、1

 BUZZZZZ!

「クォッボホーッ!??」咳き込む、酸素を取り入れる。落ちる夢から覚めたように、身体がに落下した感覚がまた残っている。目の前に『蘇生成功』『殴り薬注入』『脳波心拍血圧許容範囲内』『任務続行せよ』『テランのために』と流れる文字が気になるが、目の前にパワードアーマーを着た人間が、手を広げて私を殴ろうとしている。

「バカ!死んでじゃねえよ!」「ぼわっ」

 大振りの右フックが顔面にヒットしたが、以外と痛くなかった。ヘルメットと、さっきの殴り薬が効いたからか。

「野郎!死んでんじゃ……」「いきてっ、生きてます!」

 また拳を振り上げようとしているそいつに、私は両手を翳して生きていることをアピールした。そいつは手を止めて、三秒が立った。

「なんだよ生きてるじゃんか!全く心配させやがってよ~!」

 そいつが手を伸ばして、私を立たせるのを助けてくれた。不透明のバイザーで顔が見れないが、今思い出した。彼女の名前はドミニティー。同い年だが私より二年先にコロニー・タック・フォース(CTF)に入ったので先輩にあたる。

「これ持ってけよ。あんたのはさっきの爆発で壊れたんだろ」

 先輩は自分が持っていたまるで鉄塊から削り取った武骨のライフル、制式火器のテンペストガンを私に渡した。私は銃を見て、先輩を見た。

「でも、これじゃ先輩が丸腰じゃ……」「何言ってんだい。武器ならここにあるぞ」

 先輩が両手をあげると、右手の腕部装甲からピンク色に光るプラズマブレ―ドが飛び出て、左腕部は縁に回転丸ノコ付属の盾をつけている。まるで数億年前、テラン人母星で活躍していたグラディエーターみたいな武装だ。先輩はそのグラディエーターが大好きで、いつグラディエーターならああのこうの口うるさく言っていた。

「そんじゃ、サヴェージどもをぶっ殺そうぜ!付いて来い!」「あっ待ってくださいよ!」

 先輩の後について、瓦礫とビルの破片の間を上半身が極限まで屈んだ姿勢で駆け抜ける。体感に大きな負担がかかる姿勢のはずだが、アーマーの筋力強化機能がそれをカバーしている。

(ストップ)先輩が左手でサインを送った。先輩が指さした方向、50メートル先に、ウルクの砲撃陣地があった。4匹の砲兵ウルクが背中に迫撃砲を着けたキャノン型が1匹。思い出した。こいつの砲撃を受けた、私は倒れたんだ。

 ウルク、それは宇宙に広がる癌細胞。すべての生命に仇なす種族。一世紀前、ウルクの星にテランの探検船が墜落した。それからわずか十年で元々原始人ぐらい文化水準しか持たず、部落戦争で明け暮れる種族がスクラップじみた宇宙船で宇宙進出できるほど発展した。しかしそれはウルクの野蛮と暴力も全宇宙に広がることを意味した。奴らは生命を貪り、資源を奪い、価値を根こそぎ取り上げると再び出発し、ただの岩に化した星だけを残す。畏怖を含めて、テラン人は奴らを大昔の小説に出た仮想の種族で名付けた。ウルク、残忍な獣人という意味らしい。そいつらのイグアナとイボイノシシとチャンパンジーを足して3で割るよな外見からしてピッタリな命名だと思う。

(奇襲)先輩がハンドサインで私に伝えた。

 KA-BOOOM!!!キャノラーの背中にある迫撃砲が火を吹いた!と同時に先輩が瓦礫のバリケートを飛び越えて陸上選手めいて疾走!私は銃を構え、スコープ越しに先輩を見守る。30メートル、12メートル、砲撃音でウルクたちがまた気づいてない。先輩がウルクに飛びかかって、プラズマブレードを振り下ろして一匹目のウルクの背を裂いた。もう一匹が振り返った時にはすでに胸倉にプラズマブレードが刺されていた。銃撃を盾で防ぎ、三匹目の腹に突き刺す。四匹目は盾を投げつけて、首を刎ねった。キレッキレだな先輩!

「WRAAAATH!」勝どきをあげる先輩。キャノン型が砲撃をやめ、先輩に襲いかかるが、動きがぬるい。ダッダッダン!テンペストガンから吐き出した磁力加速弾丸がキャノラーの右足を破壊して姿勢を崩して苦悶している顔を、先輩がブレードで突き刺して殺した。やったぜ。二人だけで砲撃陣地を潰したとは。これはもう勲章ですよ。スコープ越しに先輩が私に手を振っている。まったくはしゃいじゃって。アッ。

 突如、ヘッドバイザーに『ディメンション係数に異常、テレポート注意』の文字が流れた。直後、はしゃいでいる先輩の後ろにピンク色の光が爆発した。

「先輩!あぶなっ」

 言い終わる前に、光の中から長大な剣刃が現れて、先輩の脳天から股にかけて切り裂いた。体内から爆発が起きたような勢いで飛び散った先輩の臓腑と血液がアレに降りかかった。信じられないほど巨大なウルクだ。すくなくとも4メートルは超えているうえに、無数生物の生皮をつ繋ぎとめた、表明についた眼球や触手の類が未だに動いている冒涜的な革鎧を着けている。いままで見て来たウルクとは別格ってことは明白。

 大ウルクが剣で私を差し、口をもごもご動かしてなんか言いながら近づいてきた。恐怖か、怒りか、それとも両方か、感情に駆けられて、私はトリガーを引いて弾丸をぶっ放した。エイムもクソもない、酷い射撃だった。弾の多くは明後日の方向へ飛んでいき、大ウルクの腹や腿に当たっても、まるで蠅にとまられたのように介さず、綽々と歩んでくる。やべえなこりゃ。

 弾を撃ち尽くした頃には、大ウルクの剣が届ける距離まで近づいた。もはや逃げられない。「終わりか?」でも言ってるかのように、黄緑色の目が私を見ている。クソ、野蛮人ごときが私を見下ろすんじゃないよ、むかつくよ、こわいよ、死にたくないよ。なぜか冷蔵の中にあるビールを思い出す。こうなるとわかったらしこたま飲んでから出るのだった。

 恐怖、憤怒、先輩そしてビール。色んな感情が沸いて、私はバグったかもしれない。テンペストガンのバレルを握り、棍棒のように構えて、「サウェージ野郎めがーッ!」と叫んで無謀に突っ込んでいった。

「マゴト」

 大ウルクは呟き、剣を振り上げた。巨体+巨大剣、つまり超でかい。まずいな、今防御を取ったところで、きっと銃ごとに両断される。冷蔵庫の中でギンギン冷えたビールが頭に浮かんだ。

 私は死を覚悟した。とにかく銃を頭上に掲げて、恐怖を少しでも和らげようと目を閉じた。

 しかし一秒たっても、私は死ななかった。

「マゴットォー!」

 逆に大ウルクの叫び声が聞こえた。目を開けると、大ウルクが青い電光を纏った、彗星めいて飛び回るなにかと戦っている!

「マゴ、マゴ、マゴットォ!」

 巨体から脅威的な速度で剣を繰り出す大ウルク、しかし彗星の方がもっと早く、剣筋をくぐりぬけてぶつかっていく。ウルクは頭に一撃を受けて大きくよろけた。青い電光の中から人影が見えた。身体にぴったりフィットしたバトルスーツ、三分刈り、良く鍛えたきれるヒップライン。間違いない、彼女こそが宇宙に名を轟かす、本物のスーパーヒーロー。

「レディ・ドゥーム!」

 私は感極めて、その名を呼んだ。声が彼女届いたようで、大ウルクの眼窩に右手の肘まで差し込みながら、レディ・ドゥームが振り返って私にウィンクした。意外のサービスに私はファンボーイのように心躍った。

 レディ・ドゥームがより輝きだすと、、大ウルクの頭が焼けれて、脳ミソを沸騰させたようで、頭の穴という穴から煙を噴き出しながら仰向けに倒れた。

 敵を仕留めたヒーローは休むことなく飛んでいった。なんと殊勝なのことか、レディ・ドゥームご本人が駆けつけてくれるなんて。胸に闘志がわいてくる。少しでもいい、彼女の役にたちたい!

「よし……!」

 先輩の散らばった死骸からドッグタグを回収して、大ウルクが残した半分に折れた大剣を肩に担いた私がレディ・ドゥームが飛んでいった方向に走りだした。

(終わり)

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