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辛い麺メント IN TOKYO④ #ppslgr

 新橋駅、駅構内の蕎麦屋。

『ヌルい麺ばかり食べやがって』

 マラーラーは客席置いてある七味唐辛子の瓶を両手に取り、親指でギャップを弾き飛ばした。

『もっと辛くしろ、お前なら食える』「えっ、ちょっ」『辛い麺を食え』「何するんですか!?」

 無造作に客たちの麺碗にまる一本ぶっかけ!茶色のだしが赤に染まっていく。空になった瓶を放り捨て、次の唐辛子瓶に伸ばす手が突如横から差してきた長箸に止められた。  

「いけませんねぇ。勝手にお客様の食事を邪魔しちゃァ」
 
 頭にバンダナを巻いた屈強な中年蕎麦屋店長だ。そば打ちで鍛えられた指と前腕から筋力が伝わり、ガッチョウのくちばし如くマラーラーを挟み込んでいる。

「何も召し上がらないならお引き取る願いましょう……ムゥ!?」

 足元に衝撃!マラーラーの薙刀めいた足払いでバランス崩された店長の頭側部にマラーラーの手が添えて、カウンターに……ぶつける!

 ゴッ。頭と木材がぶつかる鈍い音が響き、店長は床に倒れて動かなくなった。

「……どういう状況だよ」

 若いサラリマンが呟いた。

『こういう状況だ。さあ食え』

 マラーラーは彼のかき揚げそばに唐辛子粉をまる一本入れた。

🌶️🍜🔥

「コッペッぽ!ウェーゲッホ!」
「デンコウセッコォボー!」
「毒霧からのサミングっておまえ……バッドアスにもほどがあるぞおまえ……」

 R・V、S・G、H・Mの三人を連れてTAN PO POから脱出した俺とダーヴィは目立たない路地裏に彼らを降ろせた。辣気を直接に吸ったR・VとS・Gが未だに咳が止まらず、呼吸系のダメージは少ないH・Mだが目玉をつかれて視力が回復できていない模様。

「彼らにテン・マークを施す。少しぐらい痛みを和らげるだろう」

 ダーヴィが操る東洋の神秘的武術「テン・マーク」、それは人体の経穴に刺激を加えことで相手の気を乱し、筋肉や器官を麻痺させる。威力を控えれば鍼灸みたいな効果も可能だ。

「ああ、頼む。俺は……ミルク買ってこよう」

 三人をダーヴィの託し、俺は路地でどこか居酒屋のバックドアを見つかり、ドアノブを引いた。

 WAR~WAR〜♪

 チャイムが鳴り、目の前に明るくて清潔感のあるコンビニ光景が広かった。

「いらっしゃいませー」深緑の制服の中にトールネックの黒いセーターを着たボッブカットの女性が業務的にアイサツした。彼女はコンビニ店員、俺のイマジナリーフレンドの一人だ。非戦闘要員のため現実に出ることが少ない。普段は俺の想像力でできたコンビニで勤務をしている。そして胸は豊満だ。

「王子は斥候に出ると言って矢を買って出て行ったんすよ。外は大変そうですね」
「さすがに王子は手際いいな。わかった。教えてくれてありがとう」

 いつもなら長めに彼女の胸を眺めていたが、そんな時間はない。冷蔵庫から2リットルミルク二本を掴み、レジに置いた。

「はい二点で1200Azになります」
「……なんか高くなってない?」
「本店はいま日本税率に適用しているので食品をお持ち帰りの場合、消費税は10%になります。それとも店内でお飲みになります?」
「ここで飲めるか!持ってけぇや火事場泥棒!」

 俺は電子マネー端末にSuicaをタッチした。公平公正の原則に基づいて、想像主の俺であろうと店から物を持ちだす時は金を支払わないといけない。でないと犯罪だろ?秩序が崩壊するだろ?

「ありがとうございましたー、気をつけてね」「おうよ」

 WAR~WAR〜♪

 自動ドアを通ると、俺はさっきの薄暗い路地裏に戻った。テン・マークが効いたか、パルプスリンガー三人の顔色はだいぶ良くなった。

「ほら、ミクル買って来たぞ!」
「グェップ、ありがたい」

 R・Vは2Lボトルを受け取ると、ギャップをナイフで切り飛ばし、喉を鳴らしって飲み始めた。牛乳が口の端からこぼれてコートとシャツを濡らした。

「うぐ……うぐ……うぐ……アーイイ……遥かにいい……S・G」

 頷いでミルクを受け取ったS・Gはこぼさずミルクを口に含んだ。さすがマスター、こんな時でも奥ゆかしいさを忘れていない。

「あぁ~効く、効く。うぃぃぃ~」

 H・Mはボトルを高く掲げ、頭から浴びた。

  同時刻、とあるリスナーブルのステーキ屋。

『そのステーキからまったく驚きを感じないな。より楽める方法を教えてやろう』

 マラーラーはそう言い、女子大生のテスト明け祝いに注文した国産牛サーロインステーキにTABASCOをどっぷりかけた!TABASCOが熱々の鉄板に触れてじゅー……と辣気が上昇!目と鼻腔に刺さる!

『これがいきなりTABASCOだ』
「うぇっほ、けっほ!こんなの食べられないよ!」
『それはお前がそう思っているからだ!お前なら完食できる!オレは信じている!』
「ぅ……ひぃ……」

 女子大生が涙目した。店内に座っている人が彼女しかいない。友人と店員、そしてほかの客がすでに狐頭怪人の手に掛かり、激しく咳き込んで悶えている。

『さあ、食うんだ!垂れ下がった蜘蛛の糸を自らの手で掴み取れ!』

 マラーラーに促され、やぶれかぶれになった女子大生が一切れのステーキをフォークで刺し、口の前に運んだ。なんでこうなるのか。たまに贅沢したいだけなのにいきなりコスプレの格好した甲冑男にTABASCOをぶっかけられるなんて……本当にうざい。いいよ、だったらやってやろうじゃない……どうせやるしかないわ!

 ステーキをかじるべく、前歯を開く。チリソースがたっぷり絡んだ肉塊、見るだけですでにむせそう。

 その時、一本の矢が店のガラス窓を貫通し、狐頭を貫いて……なかった。マラーラーは合気道の動きで矢をブレーサーで払いのけたのだ。

『ぬぅ、新手か?』

 高性能コンピューター並みの演算速度でマラーラーは弾道を計算し、矢が発射された場所を割り出した。

 18メートル先、電柱の上に。弓に矢をつがえている金髪の男がいた。光っている目ががマラーラーを怒視している。

(続く)

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