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辛い麺メント IN TOKYO③ #ppslgr

前回のあらずじ:パルプスリンガーのM・J、激辛汁なし担々麵食べて脈停止。

「アバーッ!アバババーッ!」

 謎の空間で、M・Jは激辛の液体に包まれていた。目、口、鼻腔、耳に刺激性の気体で炙られ、全身の皮膚が痛い!

(苦しい!なぜこうなる?いつまでこの苦痛を耐え続ければいい!?)

 痛みで目も開けられない。M・Jは上下不覚に陥った。その中で謎の声が脳内に響いた。

((自分の力量を見誤って辣死するとは情けなく上ないな))

 その声は低く、獣の唸り声めいていた。

「だ、だれへっ!?ウオゲッホ!」

 うかつに口をあげたM・Jは激しく咳き込む!

((喋るな。お前とオレは心で繋がっている))
(ほんとうだ!でもあんたは一体)
((お前に選択肢は二つ。魂をオレに預け、この苦痛から解放されるか……))
(魂ならやる!)
((……ハヤイな。他の選択知りたくないのか?))
(どうせひっかけ問題だろ!そんなことより俺はもう限界だ!痛くて狂いそうだよ!)
((よろしい。契約成立だ!))

 途端に、M・Jは包む刺激痛がなくなった。目を開くと、真紅に染まった視界に、キツネ頭の人間がいた。

🌶🍜🔥

「12、13、14……あっ」CPRを施しているR・VはM・Jの目が開いたと見て、彼の胸から手を離した。「意識が戻ったぞ!よかった……」

 M・Jはゆっくり身体を起こし、立ち上がった。

「おいM・J、大丈夫か、ちょっと座って水でも飲むか?」
「いや、いい。大丈夫だ」
「びっくりしたぜマジで。店の人が毒を盛ったじゃなかと思ったぜ」

 H・Mはそう言い、店の人に申し訳なさそうに頭を下げた。さっきは店員の襟を掴んで「ダチの麺に毒を盛ったな!」と脅したからだ。

「とりあえずここに居ても気まずいし一旦店から出よう。おいM・J聞いている?やはり具合がわるい?」

 俺の問いに返事せず、M・J漠然とした表情のままでスマホをいじている。

「うーむ。面白いおもちゃがあるものだ」
「M・Jさん?ハロー、聞いてる?」
「こうやるのか?変身
「へ?」

〘SPICE UP、辣ァー!辣ァー!WRAAAATH!〙

 禍々しい効果音と共にM・Jは全身に赤く発光して変身した。しかしその姿は狼の意匠を組みいれた白銀の戦士ではなく、狐の頭を模した肩甲とフルフェイスヘルメット、中国風の魚鱗鎧の表面は麻辣火鍋のスープみたいに煮えたぎっている。

「「「えっ」」」

 突如の変身に、俺、R・V、H・Mは怪訝した。

「アブナイ!」

 まっさきに反応したS・Gは俺たちに警告した。

「ニンッ!」

 双拳を叩き合わせ、M・Jは左右の肩、そして頭部にある狐の目が同時に赤く光ってパカっと口を開き、赤い気体を噴出!

「クオッ」「ムワッ」「これは!?」

 一瞬で目の前が真っ赤に染まった。(これは……辣気!?)気体の刺激性に気づいた俺が目を閉じ、耳を塞いだ。更に首の筋肉をバンプアップさせ食道と気管を遮断。俺がこれまでの辛い麺巡礼の中で体得した技だ。

「ゲッホ!ロウボッヨホッ!ノォォートォ!ブックジョッポ!」
「アイゲッホ!ウェェボッゴ!ジュクゴォホーッ!」

 さっきMJの隣にいたR・VとS・Gは辣気直撃し激しく咳き込む!

「なんのマネか知らないがおれのマスクは空気濾過機能付きでアイターッ!?目が、目がァァー!」

 破裂音とのあとにH・Mの悲鳴!くそ、保身している場合じゃない!俺は覚悟を決め、目を開いた。

「クッ」眼球の表面に刺激痛が走ってすぐに涙目が溢れた。店内は今まさに煉獄を彷彿させる様相呈した。赤い霧が蔓延し、客たちの咳はあたかも救いを求める魂の叫び声めいている。

「ほう、忍法・赤霧がくれを耐えた者がいるとは」

 狐兜のM・Jがいつもの爽やかボイスと段違いの唸る獣じみた低い声で言った。突如の変身、見たことのない新フォーム、店にいる全員を巻き込む攻撃行為。とても彼がやるとこと思えない。だとしたら、なんだ?

 てか技名そのままなんだ。

「……あんた、何者?」

 最低限の空気を気管に通し、俺は狐兜に尋ねた。

「マラーラー」

 マラーラー?

 麻辣辣?これが名前だというのか?今の状況でなかったら腹筋が吊るほど笑っているところだ。

「クッフ、目的はなんだッホ」
「これが選別だ」
「ゲッホ!?」
「そして辣気耐性のあるお前は新世界で生きる資格を得た。おめでとう」
「わけの、わからッハ!ことをッホ!」

 俺は手を伸ばし、彼に掴みかかるが、手が届く前に右足の脛が蹴り払われ、カウンターの角が迫ってくる。

 しかしカウンターの角にぶつかって頭部破裂死になる寸前、背中が引かれた感覚がして、頭部がギリギリ距離でカウンターに掠めた。

「ウィィィィ!?」

 視界が上下逆さまになったと思ったらピタっと着地した。頭が遠心力でクラクラする。

「ハーッゲッホ、ベーンデホォ!がぁ……ダーヴィ……」

 俺の隣に闇でできたボディスーツに覆われたマッチョ男、イマジナリーフレンドのダーヴィがいた(彼が俺をカウンター衝突死から救ったと思われる)。光を一切反射しない闇の中で唯一白く光っている目がマラーラーを見つめている。

「Dude、こいつから魔の力を感じるぞ。M・Jと、他の何かの意志が混ぜ合わせている」

「なんでッホ、だってへッ!?」

「ほう、鋭いな。それで、やり合うのか?オレは構わんぞ」
「いや、いけ。店の人の救助が先だ」

「しかしダーヴィケホ、ゲッホ!」
「なら言葉に甘えよう。オレにはまたなすべきことがある」

 マラーラーそう言い、そのままに店を出た。赤霧はさっきより随分と薄まり、普通に呼吸できる程度になっている。

 そしてカウンター越しに、頭にタオルを巻いた店主らしき男が血走った目でこちらを睨んでいる。俺と同様顔中涙、鼻水、汗まみれているが、咳はしていない。毎日スパイスと付き合うだけある。その威圧的視線を受けた俺はツバを飲み込み、喉から言葉を絞り出した。

「あ、その……お騒がせして」

「お前ら全員出禁だ……出てけえ!」
「スンマセンしたァ!」

 俺はR・Vを背負い、ダーヴィはS・GとH・Mを両脇に抱え、店から逃げ出した。

(つづく)

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