無剣闘日記三日目:受け継がれない剣闘
今回はとう腐さんの要望に応じてディスエイブラー=サンのAvatarにINしています。とう腐さん本人はイタミ・ニンジャクランのソウル憑依者ではありません。
剣闘ニンジャセッション
「ドーモ、とう腐=サン。アクズメです」「ドーモ、アクズメ=サン。とう腐です」
大阪駅、プラザ・オフ・スペースタイム。アイサツを交わす者がいた。一人はシュマグ(西アジアでよく見かける顔や頭に巻いてる布)のメンポで口鼻を覆ったボンズヘアの男、もう一人は分厚い羊毛コートに包まれた8フィート超えの異常巨体。
「……」
両方頭下げたままの姿勢で相手を睨らみ、カラテを測った。両者の間に剣呑のアトモスフィアが漂う。まさか、日曜の、衆目を集めたプラザで、イクサしようというのか?
「いやぁすいません。待っていました?」「いえ、こっちだって着いたばかりです」
先にアイサツを解いたとう腐に次いで、アクズメもメンポをほどき、折り畳んでバッグに収めた。
「さて、また早いですが……昼食は何がお目当てがありますか?」
「えーと、キンキ―・ユニバーシティのバイオマグロでいいかと思います」
「了解しました。行きましょうか」
◆鮪◆
とう腐とともにビルを繋げる橋を進む。さすがはイタミ・ニンジャクランのAvatar、悍ましい形象だけあって向かってくる通行人が割れた紅海に自動的に横に下がって我々を避けていく。
「バイオマグロは......この先ですね」
フロアガイドを頼りに、グランドフロント北館にたどり着いた。大阪駅から500mも離れていないが、まるで別世界のように広くて、静かで快適な空間だ。
「人少ないすね」「ここはイベントが無い時は人が少ないんですよ。あっ、あっちで前にマーベル展をやっていたよ」「へー」
少々気まずい雰囲気を耐えながらエスカレーターで六階に上がり、レストランらしき店を発見した。
「あそこです。わっ、もう並んでる」
今回の目的である近畿大学水産研究所という店、また午前11時ちょうどだが店の外はすでに列をなしていた。
「このビルは普段客足が少ないけど、養殖マグロ目当ての人が結構多く食事の時間はいつも混んでるんです。早め来体丈夫だと思ったが」
「あー、だめでしたら別の店にしてもいいです僕は」
「とりあえず見てみましょう......あっ、また開店まえですね。これならすぐ入れそうなので少し待ちましょうか」
「アッハイ」
とう腐の言った通り、直ぐ入店できた。たぶん一番マグロが多いミックスサシミ定食を注文し、ビールとお茶で乾杯した。ビールはおれが注文した。
「アクズメさん、これなんですが」とう腐はさっきから手に持っていたCartoon Networkのプラスチックバッグをテーブルに置いた。「差し上げます」
「あっこれは」袋の中を覗き込むと、そこにはカードがびっしり詰めたカートケース四つがあった。これはもしや。
「私はもう、現役剣闘士を引退したようもので、これからもローマを生き抜くあなたが使った方が有意義です。受け取ってください」とう腐はめっちゃいい笑顔で言った。
「あ、ありがとうございます」
カードケースの中はSwords&Amor......つまりアイカツカードだった。そうきたか、その可能性は考えていたが現実になるとは。これは困ったね、なんとかして彼を傷つかないように伝え無ねば。
「お気持ちは嬉しい、すごく嬉しいですが、これらのカード、多分僕の国では使えないんですよ」
ド直球かよ。
「えっマジ?なんで?」「実はカードにリージョンというものが設けられまして......」
おれは出来る限りのカラテを振り絞り言語中枢に注ぎ、BARCODE REGION 1についてとう腐に解説した。おれは日常会話以外の日本が下手なんだ。
BARCODE REGIONに関するもっと詳しい解説はここにあります。
「リージョン......そんなものがあるなんて」とう腐は手で顎を支えた。「まあでも、もらっといてください。万が一台の設定ががばって使えるようになるかもしれないし」
返品は受け付けないようだ。
「わかりました。じゃ使えないと判明したらbook offとかに売りますね」「はい」
そして待ちに待ったミックスサシミ定食が来た。
肉団子までマグロで作ったらしい。刺身が脂の乗ってて美味かった。つままで残さず完食。ご馳走様でした。
「アクズメさん、これから何が計画がありませんか?」「そうですね……ちょっとヨトバシに寄って、それから本屋に行きたいかと」「私が案内しますか」
ウメダ・ダンジョン・クエストの始まりだ。
◆📷◆
ヨトバシ梅田店地下2階のコロッセオ。少女剣闘士たちは一心不乱にモニターを見つめ、ボタンを叩く。
「やります?」「いや、いい。IDカード持ていないし」
というのは言い訳である。IDカードが無くても、swordとamorさえあれば剣闘士をレンタルして戦えただろう。彼の本心は少女剣闘士たちのワザマエに恐れをなし、迂闊に隣の席に座ったら即座脇腹に肘打ちを食らい、床に転がり悶える未来がしか見えないからだ。少年少女闘士は若さ故に加減が知らぬ。危ういのだ。
◆🍪◆
「すみません、ちょっと寄っていきたい場所があるんで」
とう腐に連れて来られたのはデパートのフードコートらしき場所。座席がなく、客は全員立ったままで食事を取っているのが印象的だ。広いとは言えない廊下を進んでたどり着いたのはおれの国では車輪餅と呼ばれるお菓子の店だった。
「家庭を持つとね、一人で遊びに出かけるとなんか悪いことしたように感じちゃうんですよ。だから免罪符としてお土産持って帰らないと」「そうですか」
おそらくおれが一生味わえない感覚だ。
「因みにこれはね、名前を巡って論争が絶えないお菓子です、私は主に」
論争になりかねないのでこの話題は省略する。あんこ味の一つ買ってその場で食べた。甘みが控えめでうまかった。
◆🦇◆
ジュンク堂で。
「漫画忍者バットマンがありましたよ」
「かっけえ!とう腐さんはなんか買わないんですか?」
「買いたい本があるけど本棚はもうパンパンでね。最近は電書でしかかわないんです」
「そいえば前にnoteで書いたよね」
◆別◆
「今日はありがとうございました」「いいえ、こちらこそ」
ダンジョンの一角、二人は頭を下げて礼をした。別れの時だ。
「どうもすいませんね、急に呼び出した形になってしまって。スゲジュールを狂わせたらごめんなさい」なんという奥ゆかしい男よ。
「こちらこそ、とても忠実な時間を過ごせました。ありがとうございます」
「ドーモ、もしまた大阪に来ることがあれば、また連絡をください」
「わかりました、では」
おれは握手を求めて右手を前に伸ばし、向こうから伸ばしてきた手を思いっきり握った。
「気をつけて帰ってください。オタッシャデー!」「オッタシャデー!」
魔法の時間が過ぎて、おれはまた一人になった。さあて、また午後一時ぐらいだ、時間はまたある。これからどうするか。
この日の収穫
TVナイト
ネット配信サービスがありふれたこの時代、テレビはもうオワコンと言っている奴は少なくないが、それでもおれはTVがすきて見ている。特に観光客視点から日本の番組はどれも新鮮で面白く感じる(でもスカッとジャパンと芸能人格付けはスカム番組だ)。今夜は鉄腕DASHを視聴すべく、おれはデパートの地下でスシを買い、ホテルに戻って休憩をとった。そして六時頃また近くのスーパーでフルーツとつまみを購入した。旅行とはいえ栄養バランスは大事だからね。
豪勢、大満足だった。
(三日目おわり、四日目に続く)
当アカウントは軽率送金をお勧めします。