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ステプラー

 5歳の時、初めてホチキスを触った。母が教えた通りに、2枚の紙を重ねて、カチっと、針でとめた。

 衝撃だった。2つの物体に針を通し、強引にくっつける力に、僕は惚れこんだ。それからはホチキスで色々遊んだ。小魚何匹をくっつけたり、虫を地面や壁に縫いつけり、カエルやヤマネを磔したりした。

 そして12になったある日、父がホチキスを取り上げた。遊んでないで勉強しろと。僕はキレた。ホチキスを奪い返し、父の瞼をとめた。駆けつけてきた母がヒステリックに喚いたので唇と鼻孔をとめて黙らせた。ホチキスの強さは半端なかった。

 あとで聞いたけど父は失明、母は重篤のPTSDに罹ったそうだ。

 僕は少年院に入った。やばい場所だった。周りの男の子はまるで獣のように残忍で、聞くに堪えない犯罪をしてきた。ホチキスが手元に無い。僕は手ぶらでジャングルに放り込まれた気分で心細かった。

「そんなテイで大人2人も?やべぇなお前」

 同室のダン君は省の柔道大会ベスト4の実力者。たまに暴力衝動が発作して僕を投げる以外は気のいい奴で、彼と一緒にいるうちに受身を覚えた。

 ある日、晩自習が終わると、ダン君は鼻血を垂らして、顔にアザだらけで帰ってきた。何があったと聞いた。

「お前もすぐわかるさ」

 ダン君は勿体ぶりって、ベッドに上がった。まあ予想はついてるけど。この少年院では子供たちを戦わせて、その映像を物好きに配信して金を稼ぐという噂だ。

 翌日、夕食を食べ終わった時、看守おじさんに呼び止められた。

「ついて来い、サイコパスガキ」

 僕は大人しくついて行った。何階も階段を降りて、控え室みたいな場所に来た。

「好きなもんを選べ」

 看守おじさんはバット、バール、チェーンを選ばせてくれた。なるほど、それで戦えっていうのね。僕が唯一に使える道具と言ったらそれしかないですよ看守さん。

 僕は彼の胸ポケットに掛かっている、赤いハンドルのホチキスを見あげた。

(続く)

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