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小学生の頃、先生の指導を無視して描いた絵の話

小5か小6の頃、図工の授業で出された課題に「学校内にある花壇の絵を描きましょう」というものがありました。

先生のオーダーは「地面(土)が見えないように花をたくさん描きましょう、画面を花と葉で埋めましょう」。生意気なガキだった私はすぐに「土を描いて画面を埋める=手抜きだ、と思っているな」とカチンと来て、「そうとは限らないのになにを言ってるの? じゃあ地面も描いてちゃんとした絵にすればええんやろ」と、闘争心満々で中庭の、割と花が空いた箇所に陣取り、今思えば「画面をいっぱいに花で埋める」というお題からすると明らかに挑戦的な「縦位置」で描き始めました。

赤いポピー? ケシ? の花で、本当は煽って空を入れたかったのが、校舎が邪魔でやむなく地面を構図に入れたように思います。

図工の時間は週に一回しかなく、休憩を挟んで2時間だったと記憶しています。2時間内で下書き〜仕上げまでやったのか、色は次週に持ち越したか覚えていませんが、たぶん前者だったと思います。

さてみんなの絵が仕上がり乾いたあと、先生が選んだ絵が黒板に貼り出されました。確か3〜5枚ほどで、画用紙いっぱいに描かれた花の絵に混じり、ポピーが数輪と、葉と茎、花壇の縁石、それにかなり土がでしゃばった私の絵もあり、他に比べて割と浮いていました。

他の絵を褒めたあと、先生は私の絵を指して言いました。「土を描くな、と言いましたが、あれは先生の間違いでした」。生意気なガキだった私はそのとき思わずほくそ笑んでしまったのを覚えています。目がそんなによくない私は前の方の席だったはずなので、先生からも見えていたかも。

記憶が曖昧ですが、そのあと先生は私に何も言わなかったし、私も先生に何も言いませんでした。絵を通じてお互いに何かが伝わったのかもしれません。


数十年経った今も、時々あの絵のことを思い出します。本当に生意気なガキだった、一方、下書きをしていたとき先生が一度か二度、私の後ろを通り絵をチェックして少し立ち止まったので「怒られるか?」と身構えたけれど、結局素通りされたのをうっすら覚えています。

大人になって分かるのは、注意されたことも大事だけど、されなかったこと、見逃してもらったことも大事だった、ということです。おそらく先生は私の意図に気づき、尊重してくれたのでしょう。あるいはご自身も趣味で絵を描かれていたという話だったので「こいつ、どう仕上げるつもりだ」と興味があったのかも知れません。私の生意気な構図を見ておきながら、オーダーと違う、やり直せ、と指導しなかった、そして「先生が間違っていた」と子供の前で謝った先生は間違いなく私にとって尊敬に値する、いい先生でした。調子に乗ってそのまま大きくなってしまった私は今、物をつくる仕事で生計を立てています。

あの絵、どこに行ったかなあ? 捨ててしまったかも知れない。せめてこういうところに載せて日の目を見せて、誰かの話のネタにでもなれば、先生のご苦労も少しは報われるかも知れないのに。

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