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ゲーム翻訳を頼む前に知っておきたかったこと

個人でゲームを開発しています。今までに何本かゲーム開発や販売を手がけ、ローカライズ・翻訳していただきました。

「ケロブラスター」のみ多言語対応しており、他は日英のみです

私は英語がちょっとだけ分かるので、翻訳してもらったテキストの内容が正しいか確認したり、スクリプトの流し込みも担当しました。

作業に関わる中でたくさんの苦労があり、「こうなると事前に知っていたら、もっとスムーズにできたのに」と思ったことをまとめます。主に「外国語が良く分からない個人開発者が対個人で翻訳をお願いするケース」について記しています。


文字数は守ってもらえない前提で挑む

いきなりひどい経験談なんですが、以前多言語化のローカライズを依頼して上がってきたテキストが規定数を超えており、ウィンドウからはみ出しまくりだったことがあります。

例えば「1行30文字まで、3行におさめて」といった依頼をしたのに、「全然改行がない状態で100字超えたものが送られてくる」といった具合です。そしてこれは恨み言なのですが、仲介を通していたにも関わらず超過した状態で届きました。こちらとしては「守ってもらっているor確認してもらってる」という前提で作業を始めていたので衝撃でした。しかも1箇所や2箇所ではなく、1言語に限ったものでもありませんでした。序盤で大量にはみ出していた言語はすぐ差し戻しましたし、数えてないですが字数超過した箇所は10や20ではなかったです。

先方にしたら「はみ出したら改行したらいいじゃない」「入らなかったら小さくすればいいじゃない」程度のことかも知れません。しかし中高と習った英語だってどこで切るのが適切か悩むのに、知らん言語のどこで改行すればいいのでしょう。そして当該のゲームはフォントが手書きだったため、手軽に細くしたり小さくしておさめるといった対応ができる環境ではなかったです。

文字数オーバーがあった場合、差し戻しと流し込み直しといった作業で開発期間は延び確実に損失になります。オーバーされてもおさめられる開発環境ならいいのですが、そうでないなら、依頼前に「文字数を超過したら色が変わる等の実装(※)」をして出す、あるいは「文字数オーバーがあった場合にどうするか取り決めをしておく」のをお勧めします。

※私は現在エクセルやスプレッドシートの「条件付き書式」を利用しています。マンパワーに頼らずシステムでなんとかする方が健全かと思います

なお、文字数は英語だと大体1.6倍程度、ドイツ語だと2倍程にもなると聞いています。中国語は日本語より短くなることが多いです。

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資料を提出しても行き違いは起こる

翻訳を依頼するときにどのくらいゲームの情報を伝え、資料を渡せばいいのか悩むところかと思います。

ゲームのステージ部分が全部完成していない状態で英語のローカライズを頼んだ際、シナリオ部分のシーンを動画撮影して切り出し編集して仲介会社に提出したことがあります。しかし上がってきた英語をチェックすると、画面上の演出と異なった翻訳になっていました。もしかして…見てない? 私はなんのためにシナリオ部分だけ撮影&編集して提出したのか?

頼む側としてはゲームの全てを理解して欲しくてつい気合いが入ってしまいますが、一生懸命資料を揃えて出しても先方は人間なので見落としはあります。まして言葉が違う人ならなおさらです。そしてこっちも人間なのでお互い取りこぼしがあるのは止むを得ないので、目の細かいザルを下で構えておく、くらいの心算でいると良いかも知れません。なにせ一番ゲームを理解しているのは作った本人です。

一方で「ゲームが完成していない状態で、テキスト情報のみで翻訳するのは大変」という翻訳者さんの呟きを目にしたことはあるので、ゲームがどういうものか、どう動くかを伝えるに越したことはないと考えます。

良い翻訳者さんに出会う方法……それは「運」?!

ゲームをSteamで公開すると、割と海外から営業のDMが届きます。私個人の感覚では、そのうち半分以上が翻訳にまつわるもので、多言語化しませんか? とか、フリーランスなので翻訳しますよ! といったお申し出です。これらの大半が英語なので、申し訳ないですが大体無視しています。翻訳者さんは世界中にたくさんいるので探すのには苦労しませんが、一緒に仕事ができるかというとまた別の問題です。ちょっとだけわかる程度の私の英語力や翻訳ツールでビジネスのコミュニケーションが成立するとは思えません。

私が継続してお願いしていた翻訳者Lさんは、実は当初ゲームのローカライズ実績がお仕事としてはなかった(ボランティアではご経験があった)ので、お願いするにあたりまずそこが不安でした。そもそも知り合いのOさんの知り合いのNさん(初対面)からのご紹介でしたから「又聞き」状態だったんですが、お願いしてみたらめちゃくちゃ素敵な翻訳を上げてくださいました。

逆に、先述のように仲介会社を通しても文字数めっちゃオーバーされたりすることもあるので、費用や実績だけでは推し量れない、という実感があります。「こういう探し方すれば絶対大丈夫」な方法があるなら私が知りたいです、すいません。この辺りは翻訳者に限らず「良い外注先の探し方」なので、やっぱり運とかタイミングのような気がします。

捕捉:「ゲーム翻訳以外で商用翻訳経験あり」の人と「非商用でゲーム翻訳経験あり」の人なら、後者の方が頼みやすいかも知れません。ゲーム翻訳ご経験のない方から、配信直前のデバッグまで終わった段階で修正を大量に申し出られてめちゃくちゃ困ったことがあります。翻訳内容の良し悪し以前に、実務の妨げにならない人かどうかが大切かも知れません。

文化や時差の違いを考慮する必要がある

私が翻訳をお願いしていたLさんはイギリス在住なので、日本と8時間差です。日本時間の夕方くらいにお仕事をお願いしておくと、先方は丸一日作業ができるわけで、こういう時差はありがたい。一方で、締め切りを決めるとき「JSTで」など指定する必要があります。

Lさんを紹介してくださったNさんは、日本の方ですがオーストラリアにお住まいでした。連絡するときは時差に気をつけていたのですが、ある日私はふと気付いたのです。

「オーストラリアって今、大火事では?」

そういえば火事ですよね?! と尋ねると「自分の住んでいる地域はまだそれほど火が来ていない」みたいな返事でしたが、一向に鎮火のニュースが入ってこないので気が気ではありませんでした。

さて火事は数ヶ月経ってやっと終息し、安心して連絡を取り合えるようになった頃、資料として送った1GB程のデータを先方が解凍できないといったことがありました。Nさん曰く「こちらはあまりネット環境が良くないので、そのせいかも知れません」

ネットが快適に使える国ばかりではないようで、日本はかなりマシな方らしいです。世界は広い。

先方が海外在住であれば、時差やお仕事の環境も違います。休暇に対する考え方も異なるでしょう。たまに雑談して先方の事情を知るのもおすすめです。

クレジットは個人名で記載するのがおすすめ

ゲーム業界では、残念ながらなぜか個人の外注先がクレジットから省かれがちだという噂があります。私も個人事業主ですので、せっかく働いたのに「自称」になってしまうのは惨めだなと思います。

パブリッシャーに翻訳をお願いしていた時から「翻訳者の個人名は必ず教えてくれ」と執拗に依頼していました。そしてもれなくクレジットに掲載していました。個人の翻訳者さんにお願いするようになった今ももれなく掲載しています。

大企業のクレジットには及びませんが、個人開発ゲームでも次のお仕事の足掛かりになると詳しい方から聞きました。クレジット掲載を契約の条件に提示されることもありますし、掲載することで各種交渉に応じてもらえるケースもあると聞きます。もしこれから翻訳を外注される方はぜひご検討ください。

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おすすめ翻訳言語は媒体によって異なる

先日拝聴した翻訳オンラインイベントQ&Aで、「翻訳するのにおすすめの言語はありますか?」といった質問がありました。

「英語はもちろん必須、余裕があれば中国語(簡体字)も」というのが個人的な感想です。あとはいわゆるFIGSですが、これはゲームが売れてから考えるのも良いと思います。

中国語の「簡体字」「繁体字」は扱いに配慮が必要かも知れません

例えば私の場合、Steamでゲームを売ると大体日英「3:7」くらいの割合で英語版が売れます。さして英語での販促ができない状態でこの比率です。本来1000本売れるはずのゲームが日本語のみで300本しか売れないとしたら勿体ない、一方で、ローカライズのコストと見合うか? も考える必要があります。例えばローカライズに7万円かかったら、ザル計算(Steam:開発者=3:7)で1000円のゲームを1000本売ってやっと元が取れる計算……ちょっと辛くなってきたので説明はこのくらいにします。

文章量の少ないゲームなら、ローカライズ費用は安く済みますし、スマホプラットフォームを狙うなら、中国語を外す手はないと思います。翻訳のお勧め言語はテキスト量とプラットフォームにより異なるので、ゲームをある程度完成させれば見えてくるはずです。

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中国の方から「こういったゲームは中国でウケるので、ぜひ翻訳を」と言われたことがあります。文化の違いもあるので、現地からのご意見が参考になります。

翻訳料金どうやって決めるか問題

先述のNさんは翻訳業に詳しい方で、費用に関して相談したところ、「個人間で1文字4〜5円なら許容範囲」と教えていただきました(2〜3年ほど前の話なので今は違うかも知れません)。この辺りを基準としつつ、

1.翻訳者さんが在住する地域の時給や生活給を聞いて参考にする

2.円相場も念の為考慮に入れる

3.翻訳業務以外(テストプレイなど)は別途時給で提案する

4.全体の文字数が多い/少ないで1文字換算も変える

……で交渉しています。1.は、例えばイギリスなら1200円と聞いてますので、3.の時給も1200円でどうですか、といった提案をします。もし先方がロシア在住だと日本より物価がめちゃくちゃ安いので(Steamでゲームを売ると3分の1くらいの価格になります)、お安くならないか交渉します。一応2.の円相場は、ガタッと変動があればニュースになるはずなので普段はあまり気にしなくて大丈夫ですが、ドルならともかく他の国の通貨はよう分からんので、依頼ごとに調べてます。

4.は、3000文字のゲームだと1文字5円で交渉、20000文字のゲームだと1文字4円といった具合です。普通に考えれば、文字数が多い方が大変そうなイメージですが、「こういうゲームです」と説明する回数はどちらも1回ですから打ち合わせ料として加味する必要があるのと、文字が多い場合まとまったお金が入るのが先方にもメリットだと考えているからです。

意訳を許容すると(特に英語は)あとで詰むかも

個人開発の範囲では、いわゆる「LQA」も自力でやらねばならないケースが多いかも知れません。あるいはチェックを全然通さずに流し込んじゃうかですね。

私の場合、英語はわかる範囲でチェックしました。途中、翻訳者さんの解釈による意訳を何度か目にしたものの、物語に直接影響する部分ではないのでOKとしました。その後、中国語に翻訳をお願いして分かったんですけど、多言語化の場合「母国語+日本語」を扱うより「母国語+英語」を扱う人が多いので、元となる言語もほとんどの場合英語になります。つまり「英→中」となると、日本語と英語が違っていた場合、どんどん意味がズレて行くのです。

適当にズレた例を書きます(実際のものとは違います)と、日本語「珍しい」→英語「unusual」→中国語「奇怪的」といった感じです。当初英語をチェックしたときには「rareじゃないのか、へー」くらいにしか思っていませんでした。私は中国語は分かりませんが、Deep-Lに流し込んだり、漢字でなんとなく意味が分かって、これは違うのでは? と気づいたものです。

その際は幸運にも日英中話せる方が中国語翻訳を担当してくださっていたため「英語が元の意味と違うので、日本語の方を参考にしてください」と、全ての箇所について伝えることで難を逃れましたが、先方が日本語を話せる方じゃなかったら、あるいは、私がもっと多くの意訳箇所を許容していたらどうなっていたかと思うとぞっとします。

翻訳は創作か? とは意見の分かれるところだそうですが、個人でお互いにチェック体制が十分でない場合、のちに多言語化する予定がゼロではないなら、こと英語に関しては「意訳や創作を控えなるべく元の意味を尊重してほしい」と伝えておく方が良いかも知れません。

いずれも、個人でできる範囲のことを書いたまでですがご参考になれば幸いです。


本日中国語版を公開いたしました!

おまけ:2022年10月追記

海外への送金はpaypalかwiseがお安め。 事前に銀行送金の場合と比較しておくのがおすすめです。

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