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外国語との接点⑤ ポーランド語

私はポーランド語が苦手だ。苦手といっても話すのが苦手とか、書くのが苦手というわけではない。そもそもそんな悩みを持てるほどのポーランド語力はない。文法書を1冊読んだ程度である。

ロシア語を始めて間もないころ、とある国際大会の手伝いをする機会があった。そこでロシア語のような言葉を話していた人達にスパシーバと声を掛けてしまい、私達はポーランド人だという答えが返ってきた。これがポーランド語とのあまり嬉しくない出会いだった。

ポーランド語とロシア語は同じスラブ語の仲間で、この二つに限らずスラブ語は互いによく似ている。スラブ語を耳で聞き分けるのが容易でないことは、多くの日本人に同意してもらえるだろう。ただし、ポーランド語とロシア語の文章を判別するのは簡単で、前者がラテン文字、後者がキリル文字で書かれるから一目瞭然である。

ロシアで書店に立ち寄ったとき、同行のロシア人に「ポーランド語の入門書が欲しい。日本語から勉強するより、似ているロシア語からやったほうがいいだろうから」と言うと、「ウクライナ語はロシア語と似ているけど、ポーランド語は全然違うよ」と言いながら一緒に探してくれた。確かにロシア語とウクライナ語はもっと似ているが、私にとってはポーランド語も十分そっくりだ。

余談だが、結局そこで語学書は買わなかった。品揃えは良いのに本が言語別に整理されておらず、発掘作業に時間がかかりすぎてしまったのだ。ロシアの書店はどこもこうなのだろうか。

スラブ人達自身は、スラブ語同士が似ているとはあまり思っていないようだ。私のロシア語の先生も他のスラブ語は全然わからないと言うし、ポーランド人の中にも自言語を「世界一難しい特殊な言語」だと勘違いしている人が多い。しかし、これはただ彼らが他のスラブ語に触れる機会が少ないだけなのではないかと疑っている。

Ecolinguistというポーランド人のYoutubeチャンネルをご存知だろうか。彼がよく作る動画は、「お互いの言葉を知らないスラブ語話者が、それぞれ母語だけを使って会話するとどうなるか」というもので、これがとても面白い。例えばポーランド人とロシア人とセルビア人を連れてきて、会話が成立するかを試すのである。するともちろん話が通じないこともあるが、ゆっくり喋ったり、相手の知らなかった単語を言い換えたりすれば、かなりの部分通じてしまうのだ。そして多くの参加者は終わってから、「まさかこんなに話せるとは思わなかった」と言うのである。

同じ体験を現代の日本人がするのは難しい。国外に日本語と似た言語はほとんどないし、国内の方言話者を集めても皆標準語で話し始めてしまうだろう。

日本語は孤独だ。私はお互いを全然違うと言えてしまうスラブ語の余裕が羨ましい。

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