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1stシングル「緑の水筒」歌詞全文セルフ解説

淡井大人、1st配信シングル「緑の水筒」をリリースしました。「イノセンスと切なさ」をコンセプトにしたこの曲、インディーフォーク、ネオアコ、シューゲイザーといった言葉にどうしようもなく心をくすぐられる方々に刺さってくれたらいいと思っています。

大変に大変に久しぶりになった今回のブログでは、緑の水筒の歌詞について作者自ら語るという、まあ、非常にこそばゆいことをさせていただきます。

歌詞全文

ないものねだりで飛んでくスパイダー 銀色の月に撃たれて散った
見届けたのは小さな若葉 もう直ぐ春だと真面目な老婆
薔薇を作る工場で出会って 彼は君の名をすぐに覚えた
想いを寄せて揺らした夜は 誰も知らない歌になって飛んで行く
末は 花の 香りが指し示すさ
緑の水筒に切なさ分け合って飲もうよ
緑のスイートドリーム堤防の上僕は泣きそうさ
膨らみかけた桜の胸は 痛みを覚えてため息ばっか
公園に差す日に背中向けて 机に向かいごめんねと書いた
舟を漕ぐワルツ 優しく包むぜベイビー
水辺に寄り添い歌う歌を選ぶ渡り鳥
ゆらゆらゆられるレールの上どこへいこうか?

以下、雑文。この歌詞は3年ほど前からできていたものなので、ちょっと記憶が曖昧なところや、どこか他人事な部分がありますが。

ないものねだりで飛んでくスパイダー
銀色の月に撃たれて散った

卵から孵化すると、お尻から糸を出しながら飛んでいく蜘蛛がいる、という話をずっと前に本で読んだ断片的な記憶があって、そこからできた一節です。蜘蛛は捕食者、強者のイメージがあるけど、実は獲物を巣で「待つ」ことしかできない寂しさがあって、そんな蜘蛛が「飛ぶ」とは、なんと儚いことでしょう。

見届けたのは小さな若葉
もう直ぐ春だと真面目な老婆

「撃たれた蜘蛛」と「若葉」、「春」と「老婆」、というふうに、前節から続いて「死⇄生」のモチーフが交互に出てきて上手いですね。まあ、書いた時にはそんなことは一切考えてなく、「『若葉』と『老婆』って対極のイメージなのに"ば"で終わるおもしれ〜〜」くらいでした。

薔薇を作る工場で出会って
彼は君の名をすぐに覚えた
想いを寄せて揺らした夜は
誰も知らない歌になって飛んで行く 末は 花の 香りが指し示すさ

この曲の中で一番気に入っている一節です。出会い、一目惚れ、秘めた恋心、悶える夜と、言い換えたらそりゃゴムより味気ないですが、それは逆に「詩」になってる証左かなと思ったり。この曲のテーマである「イノセンス」も「切なさ」もとてもよく表せました。なんて。

特に気に入っている「薔薇を作る工場」というフレーズは、学生の頃に読んだボリス・ヴィアンの「日々の泡」にある、主人公が病気の恋人を救うために働く工場からきています。「人肌で温めると花の形に育つ鉄」を温めるために、主人公は何時間も動かずに鉄の上に横たわらなければならず、ある程度育ったら次の鉄を上に歩いて行って、そこでまた何時間もただじっと横たわる、、、でも、この労働に耐えないと恋人を救うための金が手に入らない。非常に殺伐とした救いのない場所ですが、この曲の中では出会いの場所となりました。

また、薔薇は自生するものではなく、作られ切られ飾られるもの、といういかにも都市育ちっぽい僕の感覚も入っていると思います。書きながら思い出しましたが、偉大なるムーンライダースの「労働」や「工場」をコンセプトにした「MANIA MANIERA」というアルバムの最後の曲「スカーレットの誓い」には、「薔薇がなくちゃ生きていけない」というフレーズがあったりしますね。

(リリースして2日ですが、ここの歌詞を何名かに直接お褒めいただけて恐縮しきり、心の中では不遜なガッツポーズをしています)

緑の水筒に切なさ分け合って飲もうよ
緑のスイートドリーム堤防の上僕は泣きそうさ

普段曲は鼻歌やテキトー英語で歌ってメロディができてから歌詞を書くことが多く、この曲はできた時から「サビは”いー”で伸ばしたいな」と思っていて、見つかった単語が「緑の水筒」でした。というわけで、緑の水筒になんのモチーフもイメージも託していないんですけど、堤防の上で切ない気持ちを分け合う二人には、これしかないという言葉になった気がしています。歌詞を書いてると、音や発音したときの聞こえ方で書いた言葉が、思いも寄らない意味を書いた僕に後から逆輸入してくれることがあって、そういう瞬間が一番楽しいですね。

膨らみかけた桜の胸は
痛みを覚えてため息ばっか
公園に差す日に背中向けて
机に向かいごめんねと書いた

数年前に塾の先生をやっていた時にいた、ある小学6年生の女の子がモデルです。周りより少し早く精神的成長がきた子で、それゆえに周りに馴染めておらず、一人でいる方が居心地が良さそうに見えたものでした。馴染めてないといっても嫌われていたとかではなく、むしろ好かれていたし常に周りに人がいたのですが、故に周りの大人にその居心地の悪さが気づかれていないような。物心つくころの周囲と自分の違い、自分の思いが届かないこと、そういう現実を初めて知った時の切なさ、やるせなさ、もどかしさが、うまく曲のコンセプトにハマって、誇張することも否定することも美化することもなく、さりげなく提示できた気がします。

舟を漕ぐワルツ 優しく包むぜベイビー

サビに出てくる「水」に繋げるために、短歌でいう縁語のような感覚で「舟」を出しました。「優しく包むぜベイビー」は、書いた当時の僕の精神状態が出てるんだと思います。ここまで出てきた蜘蛛や、若葉や、薔薇を作った工場で出会った二人や、女の子に向けて、当時僕がメッセージを放つとしたら「優しく包むぜベイビー」だったのでしょう。

今だったらなんて言うかな・・・「続いて行こうよきっと」くらいかもしれません。「優しく包むぜベイビー」でよかったですね。

水辺に寄り添い歌う歌を選ぶ渡り鳥
ゆらゆらゆられるレールの上どこへいこうか?

曲を聞いてくださった方から、「"水"のイメージ」と言う感想をいただくことが多く、PVもその感覚は多分に残っているのですが、この部分はそのイメージに僕自身が飲み込まれて書かされた一節です。1番の歌詞もそうですが、音感や曲のイメージが言葉の意味内容に先立って表れるときに、一番「歌詞を書いているな!」という実感が湧いて好きです。

長々とここまでお読みいただきありがとうございました。ここまで読んでくださった方のために、ここにだけ書く告知をします。来月も1曲、シングルリリースをします。すでに曲は完成していて、リリース日も決定しています。近くなったらまたご報告します。

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