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3ヶ月でCVRが2.5倍に成長! 新卒1年目が挑んだデジタル完結保険のグロースハック

はじめに

こんにちは。気付いたら入社2年目になっていました、株式会社Finatextの渡邉と申します。普段は自社プロダクトのグロースや、大手金融機関様向けの金融サービス開発ソリューションの設計を担当しております。職種でいうとプロダクトマネージャーが近いかなと思います。

今回は、僭越ながら私がプロジェクトリーダーを務めた「母子保険はぐ」というプロダクトのグロースプロジェクトについてご紹介したいと思います。

「母子保険はぐ」とは


Finatextグループのスマートプラス少額短期保険株式会社がお届けする「母子保険はぐ」は、従来型保険の「面倒な体験」をユーザー視点から今一度見直し、「加入から保険金受け取りまで、スマホのみで可能」をコンセプトに据えた「デジタル完結保険」です。2020年8月のリリース以来、多くのママさんにご利用いただいています。

■「母子保険はぐ」の特長

・妊娠中から加入でき、産前産後のママと産まれたその日から赤ちゃんをカバーできる保険
・従来の保険ではカバーしていなかった「自宅安静」や「産後うつ」も保障
・3つのプラン(950円/2990円/4950円)から選べるわかりやすい保険

加入から保険金受け取りまでをデジタル完結にすることでユーザーの利便性が上がる一方、まだまだ対面販売が主流の保険業界において、ユーザー接点がWebに限定されているデジタル保険の販売には難しさもあります。

現在は日々コンスタントにご契約いただいている「母子保険はぐ」も、サービス開始当初は契約数がなかなか伸びませんでしたが、結論から言うと、グロースプロジェクトに注力して取り組んだ3ヶ月間でCVRが約2.5倍になりました。

このnoteは、グロース初心者が先輩方や各種ツールの助けを借りながら、顧客体験を起点にしたマーケティングを愚直に実践したら、そこそこの結果が出たという話でもあります。本プロジェクトで私が取り組んだことを順を追ってできるだけ具体的に記録したのでかなり長くなってしまいましたが、デジタルマーケティングやプロダクトグロースを担当される方の参考になる部分が少しでもあれば幸いです。

前提条件と使用ツール

■ 前提条件

「母子保険はぐ」のグロースには、以下の前提条件があります。

1. 妊娠19週6日目までの妊婦さんが加入可能な保険である
2. 妊娠記録アプリ「トツキトオカ」から、一定割合の集客がある

1つ目は、妊娠週数による加入制限があることです。仮に妊娠10週目の妊婦さんに「母子保険はぐ」を認知いただいた場合、2ヶ月半以内に加入していただく必要があります。


2つ目は、妊娠記録アプリ「トツキトオカ」とのパートナーシップです。「トツキトオカ」を利用する妊婦さん向けにアプリ内バナー広告を掲載し、豊富な新規顧客との接点を持つことができます。

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<「トツキトオカ」に掲載しているバナー>

■ 使用ツール

今回のグロースプロジェクトでは、主に以下のツールを使用しました。

・KARTE:ユーザーインサイトの発見/仮説の検証(後述)
・Adobe Analytics:UU/PV数など主なアクセス解析レポートの作成

KARTE

「母子保険はぐ」では、CX(顧客体験)向上プラットフォーム「KARTE」を導入しています。ユーザー1人1人の行動を深く理解し、その属性にあった接客を実現できるツールです。主にユーザーインサイトの発見および仮説検証サイクルを高速化する目的で使用しています。

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<「KARTE」サービスページより>

Adobe Analytics

基本的なアクセス解析に使用しています。パフォーマンスのチーム内共有を目的としたデイリーレポート配信などもこちらのツールで行っています。

Step1. 顧客を理解しユーザーストーリー仮説を設定する

今回のグロースプロジェクトは、以下の3ステップで進めていきました。

・Step 1. 顧客を理解しユーザーストーリー仮説を設定する
・Step 2. ユーザーストーリー仮説をもとに課題を設定する
・Step 3. 課題に対する打ち手としてのグロース施策を実践する

■ 顧客理解その1:ユーザーインタビュー

「母子保険はぐ」では、サービス開始直後から顧客を知りグロースのヒントを得るためにユーザーへのデプスインタビューを行っており、実際に「母子保険はぐ」をご利用いただいて思ったことや気になったことをヒアリングしています。

実際にいただいたフィードバックは、チームメンバーが潜在的に感じていた課題を補強あるいは具体化してくれるものがほとんどでした。いくつかピックアップしてご紹介します。

・「母子保険」というワードに耳馴染みがなく、被保険者や加入期間などがわかりづらい
・そもそも妊婦さんにフォーカスした保険がなぜ必要なのか、従来の医療保険との違いがよくわからない
・(特に初産だと)どんなリスクがあってどのくらいお金がかかるのか、この保障金額は妥当なのかがわかりづらい

これらのフィードバックから、私たちは以下2つのインサイトを得ました。

インサイト1.
「母子保険はぐ」のユーザー体験は、「これは何?」から始まる
インサイト2.
「なぜ母子保険が必要なのか」を伝え、加入への納得感を生み出す必要がある

インサイト1.
 「母子保険はぐ」のユーザー体験は、「これは何?」から始まる

通常、医療保険や生命保険を選ぶ際には「インターネットでとりあえず有名どころを検索する」「窓口でオススメされたものを検討する」など、いくつかのきっかけが存在すると思います。


しかし、この「母子保険はぐ」に関しては、前述の通り妊娠記録アプリ「トツキトオカ」からの流入が多く、自然検索等と比較するとファーストタッチの時点では加入確度の低いユーザーが多いと考えられます。


スマホ完結をはじめとする洗練されたユーザー体験、従来の医療保険の間隙を縫うような商品設計と保障内容は確かな強みであるものの、「母子保険」という概念自体がまだ十分に浸透していないことも相まって、コミュニケーションの第一歩でユーザーに疑問を抱かせてしまう点は否めません。大手保険会社が提供する医療保険等と比べると、スタートラインが明確に異なることを痛感しました。

インサイト2.
「なぜ母子保険が必要なのか」を伝え、加入への納得感を生み出す必要がある

「母子保険って何?」という疑問をクリアにすることと同時に、なぜ妊婦さん向けの保険が必要なのか?」という問いに答える必要がありました。


妊娠・出産・子育てには様々なリスクがつきものであることは知っていても、具体的にどんなリスクがあるかまで理解しているユーザーは少ないため、「母子保険はぐ」の保障内容の妥当性も伝わりづらい。私たちがなぜ、数多の医療保険の中でも「ママと赤ちゃん」にフォーカスした保険をお届けしているのかを伝えていく必要があると認識しました。

■ 顧客理解その2:アクセス解析(定量データ分析)

本プロジェクトでは、KARTEおよびAdobe Analyticsを駆使し、様々な角度からユーザー行動の分析、仮説構築、検証のサイクルを回しています。

具体的には以下を繰り返しています。

・フォールアウト分析や経路別分析で、購買を促す上での障壁となっている箇所を特定
・脱落要因に関する仮説の設定
・KPI設計
・施策起案および実行

チームメンバーで議論を重ね、データ分析→仮説設定→検証の試行錯誤を繰り返してきましたが、中でも「保険契約申込に至ったユーザー」に対象を絞ったセグメント分析は、顧客行動を考える上で大きな材料となりました。

1. 保険契約申込時点での平均訪問回数:4.14回

申込イベント発生時点における当該ユーザーのサイト訪問回数を抽出したところ、平均して4.14回訪問されていました。他サービスとの単純比較はできませんが、ファーストタッチと申込手続きの間に2回ほど「母子保険はぐ」のサイトを訪れている計算です。


2. ファーストタッチから申込までの期間:約0.5〜1ヶ月

申込までに平均約4回の訪問があることがわかりましたが、申込までのユーザーストーリーをさらに紐解き「ユーザーがファーストタッチからどのようなタイムラインで申込を完了しているのか?」を知るため、「KARTE」で申込完了を条件にユーザーセグメントを作成し、当該ユーザーのサイト内での動きを細かに調査して、約0.5~1ヶ月という期間の仮説を立てました。


このようにユーザー1人1人に対して、一歩踏み込んだ粒度の分析が可能になる点がKARTEの強みの1つです。他のアナリティクスツールと比較しても、個々人にフォーカスした高解像度の行動分析を可能にしてくれます。

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<KARTEのユーザーリスト管理画面。ユーザー単位の特徴や動きが細かく可視化されている>

これらの分析から、「ユーザーは加入検討に約半月〜1ヶ月を要し、検討期間中は複数回サイトを訪問する」という1つの仮説が見えてきました。

■ ユーザーストーリー仮説の設定

こうした顧客理解を踏まえ、「ユーザーがどのような意識/行動変容を経て、加入の意思決定に至るのか」をユーザーストーリー仮説に落とし込み、チームメンバー間で認識を共有しました。

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<ユーザーストーリー仮説(一部)>

今回設定したユーザーストーリーでは、フェーズを以下の3つに分けました。

1. 認知フェーズ
・「トツキトオカ」内でバナーを発見し、存在を認知する。
2. 取捨選択フェーズ
・サイト内で「母子保険はぐ」について知り、興味を持つ。
・ここで必要性を感じなければユーザーは脱落する。
3. 検討フェーズ
・リスク回避の手段として「母子保険はぐ」を選択肢に入れ、加入を検討する。
・このフェーズでサイトの再来訪やご家族との相談が行われる。

それぞれのフェーズでユーザーがどのようなハードルを抱えているのかをクリアにしたところで、いよいよ施策の立案・実行に移ります。

Step 2. ユーザーストーリー仮説をもとに課題を設定する

■ ユーザーストーリー仮説を踏まえた課題設定

これまでの議論からボトルネックを特定し、施策立案のベースとなる2つの課題を設定しました。

課題1. 保険加入に対する納得感をいかに醸成するか?
課題2. 保険商品ならではのリードタイムをどうデザインするか?

課題1. 保険加入に対する納得感をいかに醸成するか?

納得感の醸成など当たり前だと思われるかもしれませんが、「母子保険はぐ」においてはチャレンジングな課題でした。リリース初期からサイト内で「妊娠中は女性にとってリスクがもっとも高まる時期」と訴求してきましたが、「リスクが高まる時期」と言われたところで、そのリスクと保障内容が具体化され、かつ両者が紐づかなければピンと来ず納得感は生まれません。


特に、初産の方はこの傾向が顕著だと考えられます。「帝王切開」や「切迫早産」などの傷病名を聞いたことはあっても、それがどのくらいの確率で自分にも起こりうるのか、実際どのような大変さがあるのかといった具体的なイメージは持たれていない可能性が高いです。


KARTEを用いたアンケート調査(2020年12月実施)で、サイト訪問者の約6割が初産婦の方だとわかり、より丁寧にリスクをレクチャーしていくコンテンツ設計が必要となりました。

課題2. 保険商品ならではのリードタイムをどうデザインするか?

約半月〜1ヶ月の検討期間中、従来の対面型保険であれば資料請求などを利用して顧客との接点を保っておくのが定石と言えます。しかし、「母子保険はぐ」はWebにしかユーザー接点がないため、サイト訪問で興味を持ったユーザーと継続的な接点を作ることが難しい状態にあります。

これが仮にECサイトであれば、セッション内で購買(最終CV)に誘導する施策なども有効かもしれませんが、保険という商品の特性上、ファーストタッチから比較・検討〜申込までのリードタイムの長さを避けることは難しく、検討期間のユーザー体験をどうデザインしていくかが、もう1つの課題になりました。

Step.3 課題に対する打ち手としてのグロース施策を実践する

下図は、設定した課題をユーザーストーリーに当てはめたものです。

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<設定した課題とユーザーストーリーの対応関係>

今回は、2つの課題に対し、それぞれ以下の施策を起案、実行しました。


施策1. 「かんたんプラン診断」機能でリスクと保障を手厚く解説し、取捨選択フェーズを乗り越える

■ 施策の概要

1つ目の課題「納得感の醸成」に対する打ち手として、TOPページに「かんたんプラン診断」機能を実装しました。これは、5つの質問を通してユーザーにおすすめプランを提案するものです。提案画面では、プラン名とともに具体的なリスクと「母子保険はぐ」ならではの様々な保障内容を表示しました。

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<「かんたんプラン診断」機能>

また、この機能は、まだ見積もりに至るほど確度が高くないユーザーに対する新たなCTAボタンとしての役割も担っています。

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<「かんたんプラン診断」への導線>

■ KARTE版でパフォーマンスを検証してから本番リリース

「かんたんプラン診断」の開発には約1ヶ月を要したため、先にKARTEのWeb接客テンプレートを利用したKARTE版診断機能をリリースし、パフォーマンスを検証しました。ノーコードでわずか2日間で実装しましたが、設問と結果の分岐ロジックも本番とほぼ遜色ないかたちで組むことができています。

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<KARTE版の「かんたんプラン診断」機能>

検証では、診断実施率や診断からの見積もり遷移率などのKPIを設定。ポップアップの表示方法や結果画面のコンテンツ順序などを1週間のスパンでチューニングしたところ、結果的にKARTE版診断だけで、最終CVR(申込率)1.2倍を実現できました。


このように、施策の企画とUI・UX設計ができれば後はKARTEでのローコード/ノーコード実装が可能なため、施策の仮説検証をライトに開始できます。今回は本番の開発と並行して行いましたが、よい検証結果が出ていたため、自信を持って本番の診断機能をリリースできました。

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<本番とKARTE版のタイムライン整理>


施策2. 「シェア機能」で検討フェーズのユーザー体験をデザインする

■ 施策の概要

2つ目の課題「保険商品ならではのリードタイムをどうデザインするか?」に対する打ち手として、「プラン結果/診断結果の保存・シェア機能」を実装しました。「かんたんプラン診断」に続いて一見ありがちな機能に見えますが、これも「母子保険はぐ」のユーザー体験に変化をもたらしました。

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<保存・シェア機能(左側のボタン)>

■ 検討フェーズの「相談」に着目

前述の通り、ユーザーが「母子保険はぐ」を検討している間、我々はWebサイトをハブにすることでしか接点を創出できません。


メールアドレス登録ユーザーにはリマインドメールを送付していましたが、「見積もり/診断完了」に至る前に離脱したユーザーに対しては、それもできないでいました。
※「母子保険はぐ」では見積もり後にメールアドレスを取得し、認証を経て申込フォームに遷移するのですが、見積もり結果からメールアドレス入力完了の間に約94%のユーザーが脱落していました。


半ば手詰まりの中、検討フェーズのユーザーストーリーを見直していたところ、「相談」というアクションが目に止まりました。妊婦さんが対象の保険ということを考えると、パートナーに母子保険の加入についての相談や議論をする人も多いのではないかと考え、ストーリーに織り込んでいたものです。


この「相談」を念頭に置き、施策の方向性を「サイト外のユーザーへアクションする」ことから「サイト上のユーザーに対して、サイト外のアクションを提起する」ことへと転換しました。

■ KARTEを利用した「シェア機能」の意味づけ

具体的には、「母子保険はぐ」のシェア機能に「家族との共有・相談」という意味を付与しました。「シェア」というと主にSNSでのシェアを想起しがちなため、お見積もり結果/診断結果画面に下図のポップアップを表示し、「ご家族・ご友人との共有」という用途をユーザーに伝えることを狙いました。

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<ご家族・ご友人へのシェアを促進するポップアップ>

結果的にこのポップアップの表示前後で、シェア機能の利用数が約3.8倍に増加しました。

■ 結果

実際にはこれらの施策の他にも日々改善を行っているので、すべてがこのグロースプロジェクトの効果であるとは言い切れませんが、結果的に「母子保険はぐ」は、3ヶ月間でCVR約2.5倍を実現しました。

まとめ

今回、「母子保険はぐ」のグロースプロジェクトで私が取り組んだ課題、施策、その結果をまとめると以下です。

・課題1. 保険加入に対する納得感をいかに醸成するか?
  ⇒施策1. 「かんたんプラン診断」機能で、リスクと保障をセットで説明
  ⇒結果1. パフォーマンス検証版だけで、最終CVR(申込率)1.2倍を実現
・課題2. 保険商品ならではのリードタイムをどうデザインするか?
  ⇒施策2. 「ご家族や友人との相談」というアクションを提起する
  ⇒結果2. シェア機能の利用数が約3.8倍に増加

個人的には、課題の特定や施策の設計・実行をこの速さで実現させた優秀なプロジェクトメンバーの存在と、スタートアップならではの意思決定スピードも大きな要因だと考えています。


「母子保険はぐ」は、まだまだ伸びしろのあるプロダクトです。今後もKARTE等を駆使しながら、顧客理解→課題(仮説)設定→施策立案→検証のサイクルを高速で回し、デジタル完結保険のユーザー体験を圧倒的に改善していきます。

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Finatextでは、「母子保険はぐ」のほかにもデジタル保険のプロジェクトが複数動いており、私たちと一緒に保険のユーザー体験を劇的に変えていきたい方を求めています。このnoteを読んで少しでも心が動いた方、ぜひ一度お話ししましょう。以下からお気軽にご連絡ください!

採用サイト:
https://hd.finatext.com/recruit/

カジュアル面談:
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