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第125講 第一次世界大戦のはじまり

125-1 第一次世界大戦のはじまり

(大戦の始まり)

 1914年6月、ボスニアの首都サライェヴォを訪問した1オーストリア帝位継承者夫妻(フランツ=フェルディナント大公夫妻)が、セルビア人青年プリンチップに暗殺される2サライェヴォ事件がおこると、事件をめぐる対立から7月末3オーストリアがセルビアに宣戦した。

 これに対しパン=スラヴ主義をかかげセルビアの後ろ盾であったロシアが動員令を発した。

 ドイツはロシアに動員令の解除を申し入れ、ロシアが拒否すると、二正面作戦を避けて露仏同盟を各個に撃破するシュリーフェンプランにしたがい、8月1日ロシア、8月3日フランスに宣戦し、8月4日4中立国ベルギーを侵犯してフランス領内に侵攻した。

 戦争がはじまると、ドイツ5ドイツ社会民主党が政府支持(一部は不支持)にまわったように、各国の社会主義政党は自国政府の支持に転じたため、反戦を唱えてきた6第二インターナショナルが崩壊し活動を停止した(1920年正式解散)。フランス社会党の7ジャン=ジョレスは戦争反対を唱えたが7月末暗殺された。フランスの作家8ロマン=ロラン(代表作『魅せられた魂』『ジャン・クリストフ』)のように反戦の主張を貫く者も少なからずいた。

 中立国ベルギーの侵犯を理由に連合王国(ブリテン)もドイツに宣戦した。*「協商」には参戦義務はなかった。


(戦線の膠着)

 こうして独・墺側(同盟側)と英・仏・露側(協商側)にわかれ、大規模な戦争がはじまった。9第一次世界大戦(WWI, World War I)である。

 10東部戦線では、ロシアがドイツ侵攻を企てたが、ドイツは西部戦線の兵力をひきぬき東部戦線を強化し、11ヒンデンブルク将軍の指揮により12タンネンベルクの戦いでロシアを撃退した。

 一方13西部戦線では、ドイツ軍がパリに迫ったが、フランスは14マルヌの戦いでドイツの進撃を食い止めた。

 一方13西部戦線では、ドイツ軍がパリに迫ったが、フランスは14マルヌの戦いでドイツの進撃を食い止めた。

 これ以降、両陣営は、15機関銃などの近代兵器による犠牲を避けるため塹壕を掘って守りを固めにらみあう16塹壕戦となり、戦線は膠着し、戦争は長期化した。


(連合国の形成)

 セルビアを支援した露・英・仏の三国協商陣営には、日本をはじめ、大英帝国の自治領など、多くの国々が参戦した。こちらの陣営を17連合国Allied Powersとよぶ。

 英国の植民地であったインド帝国をはじめ、自治領であったカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ連邦があいついでドイツに宣戦し、連合国側に参戦した。

 大隈重信内閣は8月、日英同盟を理由に連合国側に参戦し、日本軍はドイツの租借地・植民地であった18山東省青島(膠州湾)や19ドイツ領南洋諸島を占領した。

 1914年にモンテネグロ、1915年にイタリア、1916年にルーマニア・ポルトガル、1917年に合衆国・中華民国・ギリシアなどが参戦し、連合国は合計27カ国となった。


(同盟国の形成)

 連合国に対して、ドイツ・オーストリア側を20同盟国Central Powersとよぶ。

 第一次バルカン戦争に敗れた21オスマン帝国は、1914年10月、失地回復をめざし、ドイツ、オーストリア=ハンガリー側に立って参戦した。ブリテンはエジプトを正式に保護国とし(22エジプト保護国化)、ロシアとともにカージャール朝イランを軍事占領した。ブリテン軍はオスマン帝国のガリポリ要塞を攻めたが、23ムスタファ=ケマルらが率いるオスマン帝国側の反撃にあい、撤退を余儀なくされた。

 同盟国Central Powersは、ドイツ、オーストリア=ハンガリー、オスマン帝国に加えて、1915年10月、第二次バルカン戦争に敗れた24ブルガリアが参戦し、同盟国は合計4カ国となった。


125-2 戦時外交と総力戦


(新兵器と戦線の膠着)

 第一次世界大戦では、多くの新兵器が登場し、戦争の様相を一変させた。

 戦史上はじめて空も戦場となり、ドイツの飛行船がロンドンを爆撃したほか、1航空機がはじめは偵察用に、やがて戦闘や爆撃にもちいられた。

 1915年4月2イープルの戦いで、ドイツ軍がはじめてフランスに対して3毒ガスを使用した。

 水面下を航行する4潜水艦が登場した。1915年5月の5ルシタニア号事件では、ドイツの潜水艦が英国の民間客船ルシタニア号を撃沈し、中立国アメリカの乗客を含む多数の犠牲者が出た。

 1916年2月から12月にかけてドイツはフランスの6ヴェルダン要塞を攻め、互いに甚大な損害を出した。フランスは7ペタン将軍の指揮でヴェルダン要塞を守り切った。

 一方、英仏側は7月、フランス北部、ベルギー国境に近いピカルディ地方のソンムで大規模な反転攻勢に出て、最新兵器のタンク(8戦車 Tank*チャリオットChariotと区別せよ)を投入したものの、多大な犠牲を払って失敗した。これを9ソンムの戦いという。


(戦時中の外交)

 戦争を有利にすすめるため、あるいは戦後に利権を確保するため、戦時中に各国は10秘密外交の締結を含む、活発な外交を展開した。

 イタリアはドイツ、オーストリア=ハンガリーと三国同盟を結んでいたが、1915年4月英・仏・露との間戦後に「11未回収のイタリア」を獲得することを約した12ロンドン秘密条約を結び、1915年5月13三国同盟を離脱しオーストリアに宣戦、連合国側に立って参戦した(14イタリア参戦)。*未回収のイタリアとは、オーストリア領に属する(x)南チロル、(y)トリエステ、(z)イストリア(フィウメ、現リエカ)などをさす。(x)(y)は戦後イタリア領となったが、(z)はハンガリー王国に属するクロアチア領にあったため、戦後にクロアチアを含むユーゴスラヴィア領になり、のちの火種となった。

 ルーマニアは1916年、ブカレスト秘密条約でハンガリー領15トランシルヴァニアの割譲を約束され、連合国側に立って参戦、オーストリアと戦端をひらいた。

 同盟国側に立ったオスマン帝国国内のアラブ人を味方につけて蜂起させるため、1915年、英国の駐エジプト高等弁務官マクマホンは、メッカ太守フサインの間で交わしたた往復書簡(16フサイン=マクマホン往復書簡)の中で、戦後のアラブ人国家の設立を承認した。

 1916年5月、英・仏・露三か国間で17サイクス=ピコ協定が結ばれた。英の識者サイクスと仏の外交官ピコが中心となってオスマン帝国解体後のアラブ地域の分割案を作成し、露都ペトログラード(ドイツ風のペテルブルクから開戦後に改称)で秘密協定として調印された。翌年のロシア革命で内容が暴露されて批判を浴びた。参加国の取り分を次のように取り決めており、これが現在まで続くシリア・レバノンとイラク・ヨルダン・パレスチナ(イスラエル)の境界のもととなった。

 1917年に英外相バルフォアは18バルフォア宣言を出し、パレスチナにユダヤ人のNational Home建設を認めた。フサイン=マクマホン書簡やサイクス=ピコ協定と相互に矛盾し三枚舌外交と揶揄された。

 1917年8月英インド相モンタギューが、戦争協力をえるため、責任政府と自治機構実現を提示した。この19インド自治の約束を受け、インドは100万人以上の義勇軍を出したがブリテンは戦後約束を守らなかった。


125-3 総力戦体制と列強の混乱

(総力戦)

 第一次世界大戦は史上初の1総力戦(Total War)となり、各国は急速に総力戦体制をととのえた。

 兵役適齢期の男子を大量動員したため労働者が不足し、2女性の社会進出がすすんだ。

 工業生産が3軍需品優先となり生活物資が不足すると、各国は4配給制を導入した。

 人々はいっそう政治意識に目覚め、女性も含めたより完全な5参政権を要求するようになった。総力戦は、戦後多くの国で普通選挙や婦人参政権が実現する道をひらいた。


(挙国一致内閣と軍部独裁)

 戦争の長期化により総力戦体制構築の必要性が高まり、英仏では左右の政党から閣僚を出して組閣する6挙国一致内閣が成立、ドイツでは戦争優先の軍部独裁が成立した。

 ブリテン政府は大戦の勃発を理由にアイルランド自治法の実施を延期していたが、1916年、アイルランドのダブリンで急進派の7シンフェイン党が主導する8イースター蜂起(ダブリン蜂起)がおきた。

 鎮圧したものの、同16年末自由党アスキス内閣(任1908-1916)が倒れ、自由党の9ロイド=ジョージ(任1916-1922)が首相をつとめ自由党・保守党・労働党の三党が内閣を構成し一致して政権を支える10ロイド=ジョージ挙国一致内閣(任1916-1922)が成立した。

 1918年、21歳以上の男子と30歳以上の女子に参政権を与える11第四回選挙法改正を行った。

 フランスでは1917年12クレマンソー挙国一致内閣 (任1917-20)が成立した。


(列強内部の混乱)

 ブリテンでイースター蜂起が起こったように、戦時中各国の国内では混乱が観られた。

 ドイツ社会民主党内の戦争反対派13カール=リープクネヒト14ローザ=ルクセンブルクらが15スパルタクス団を結成し、戦後18年12月に16ドイツ共産党と改称した。

 ロシアでは1916年政府の動員に反対する17中央アジア諸民族の蜂起がおこったが政府に弾圧された。翌1917年にはロシア革命が起こった(後述)。


練習問題125-1 第一次世界大戦のはじまり


問題:

  1. 1914年6月、どの都市でオーストリア帝位継承者夫妻が暗殺されたか?

  2. オーストリア帝位継承者夫妻を暗殺したのはどの国の青年か?

  3. サライェヴォ事件後、7月末にセルビアに宣戦布告した国は?

  4. 1914年8月4日、ドイツが侵犯した中立国は?

  5. 第一次世界大戦時、ドイツのどの政党が政府を支持したか?

  6. 反戦を唱えていた国際組織は?

  7. フランス社会党の戦争反対派のリーダーは?

  8. フランスの反戦主義の代表的な作家は?

  9. 大戦の別名は?

  10. 東部戦線では、どの国がドイツ侵攻を企てたか?

  11. タンネンベルクの戦いでドイツ軍の指揮を取った将軍は?

  12. ロシア軍を撃退した戦いは?

  13. どの戦線でドイツ軍がパリに迫ったか?

  14. ドイツの進撃を食い止めた戦いは?

  15. 両陣営が使用して防御を強化した近代兵器は?

  16. 両陣営が行った長期の戦術は?

  17. セルビアを支援した三国協商陣営を何と呼ぶか?

  18. 日本軍が占領したドイツの租借地は?

  19. 日本軍が占領したドイツの植民地は?

  20. ドイツ・オーストリア側の連合を何と呼ぶか?

  21. 1914年10月にドイツ、オーストリア=ハンガリー側に立って参戦した国は?

  22. ブリテンがエジプトを正式に何としたか?

  23. ガリポリ要塞を攻めたブリテン軍は、誰らが率いるオスマン帝国側の反撃に遭ったか?

  24. 1915年10月に同盟国Central Powersに参戦した国は?

解答:

  1. サライェヴォ

  2. セルビア人

  3. オーストリア

  4. ベルギー

  5. ドイツ社会民主党

  6. 第二インターナショナル

  7. ジャン=ジョレス

  8. ロマン=ロラン

  9. 第一次世界大戦(WWI, World War I)

  10. ロシア

  11. ヒンデンブルク将軍

  12. タンネンベルクの戦い

  13. 西部戦線

  14. マルヌの戦い

  15. 機関銃

  16. 塹壕戦

  17. 連合国Allied Powers

  18. 山東省青島(膠州湾)

  19. ドイツ領南洋諸島

  20. 同盟国Central Powers

  21. オスマン帝国

  22. エジプト保護国化

  23. ムスタファ=ケマル

  24. ブルガリア

練習問題125-2 戦時外交と総力戦

問題:

  1. 第一次世界大戦で、戦史上初めて空を戦場とした国は?

  2. 1915年4月にイープルの戦いで、毒ガスを初めて使用した国は?

  3. 毒ガスを使用した際の攻撃対象は?

  4. 水面下を航行する新兵器の名前は?

  5. 1915年5月に、ドイツの潜水艦が撃沈した英国の民間客船の名前は?

  6. 1916年2月から12月にかけて、ドイツが攻撃を仕掛けたフランスの要塞の名前は?

  7. ヴェルダン要塞の防衛に成功したフランスの将軍の名前は?

  8. ソンムの戦いで、英仏側が使用した新兵器の名前は?

  9. ソンムで行われた戦闘の名前は?

  10. 戦時中に各国が行った、戦後の利権確保等のための外交手法は?

  11. イタリアが戦後獲得することを約した地域の総称は?

  12. イタリアが英・仏・露と結んだ秘密条約の名前は?

  13. イタリアが離脱した同盟の名前は?

  14. イタリアが三国同盟を離脱し、参戦したことを指す言葉は?

  15. ルーマニアが戦後獲得することを約された地域の名前は?

  16. メッカ太守フサインとマクマホンが交わした書簡の名前は?

  17. 英・仏・露が結んだ、オスマン帝国解体後のアラブ地域の分割案を作成した協定の名前は?

  18. 英外相バルフォアが出した、ユダヤ人のNational Home建設を認める宣言の名前は?

  19. インドに対して、戦争協力を得るために自治機構実現を提示した約束の名前は?

解答:

  1. ドイツ

  2. ドイツ軍

  3. フランス

  4. 潜水艦

  5. ルシタニア号

  6. ヴェルダン要塞

  7. ペタン将軍

  8. 戦車

  9. ソンムの戦い

  10. 秘密外交

  11. 未回収のイタリア

  12. ロンドン秘密条約

  13. 三国同盟

  14. イタリア参戦

  15. トランシルヴァニア

  16. フサイン=マクマホン往復書簡

  17. サイクス=ピコ協定

  18. バルフォア宣言

  19. インド自治

練習問題125-3 総力戦体制と列強の混乱 

問題:

  1. 第一次世界大戦は史上初の何となったか?

  2. 労働者が不足した結果、どの層の社会進出が進んだか?

  3. 工業生産が何優先となったため、生活物資が不足したか?

  4. 生活物資の不足に対処するため、各国は何を導入したか?

  5. 総力戦の影響で、多くの国で何が実現する道を開いたか?

  6. 英仏では左右の政党から閣僚を出して組閣する何が成立したか?

  7. 1916年、アイルランドのダブリンで主導するのはどの党だったか?

  8. シンフェイン党が主導した蜂起を何と言うか?

  9. 自由党・保守党・労働党の三党が一致して政権を支える内閣の首相は誰だったか?

  10. ロイド=ジョージが首相をつとめた内閣は何と呼ばれたか?

  11. 1918年、ブリテンは何回目の選挙法改正を行ったか?

  12. フランスでは1917年にどの内閣が成立したか?

  13. ドイツ社会民主党内の戦争反対派の一人は誰か?

  14. カール=リープクネヒトとともに戦争反対派として知られる人物は?

  15. カール=リープクネヒトやローザ=ルクセンブルクらが結成した団体は?

  16. スパルタクス団は戦後何と改称したか?

  17. ロシアで1916年に起きた蜂起は?

解答:

  1. 総力戦(Total War)

  2. 女性

  3. 軍需品

  4. 配給制

  5. 参政権

  6. 挙国一致内閣

  7. シンフェイン党

  8. イースター蜂起(ダブリン蜂起)

  9. ロイド=ジョージ

  10. ロイド=ジョージ挙国一致内閣(任1916-1922)

  11. 第四回選挙法改正

  12. クレマンソー挙国一致内閣

  13. カール=リープクネヒト

  14. ローザ=ルクセンブルク

  15. スパルタクス団

  16. ドイツ共産党

  17. 中央アジア諸民族の蜂起



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