陰謀論に引っかからないために心がける3つのこと

 ここ最近、明らかな妄想や陰謀論であるにも関わらず、それをすんなりと受け入れ、信じてしまう人を多く見かけるようになりました。
 あんなに頭の切れる人が、どうしてなんだろう。あんなに見識の深い人なのに、なぜこんな嘘に引っ掛かってしまうのだろう。
 そうした疑問から、人が無自覚のまま陰謀論に引っかかる理由と、その対処について備忘録がてらまとめてみました。

『心がけるべき3つのこと』
1. 事実かどうかを確認する。
2. 複数の事実を突き合わせて考える。
3. 自分自身にどのようなバイアスがかかっている可能性があるのかを自覚する。

 今回のロシアによるウクライナ侵略について、「ロシアが悪いのは当然だが、このような結果を引き起こしたウクライナやNATO、米国にも責任がある」という言説をよく見かけます。
 そのように主張される方の多くは、豊富な知識を持ち、頭脳明晰で性格もバランスの取れた方々ばかり。
 こうした方々は、常日頃の習慣に従って、無意識のうちに善と悪のバランスを取ろうとして、反対意見にも耳を傾けます。「盗人にも三分の理」というやつですね。

 これが単なる盗みであれば、なるほど納得できる理由もそれなりに見つかるのでしょうが、自分の理解を超えた極端な出来事に接したとき、人はバランスを取るため、同じように極端な反対意見を探し求めてしまう傾向にあります。
 そしてその結果、いわゆる「陰謀論」にハマってしまうことになります。

 こうした正常性バイアスを逆手にとって、メディアで陰謀論を振り撒いているのが、鈴木宗男、佐藤優、遠藤誉、馬渕睦夫、孫崎亨といった陰謀論者たちです。
 彼らの言説を注意深く読むと、事実に基づかない妄想や陰謀論ばかりなのですが、論じる内容がわたしたちの理解を超えた巨悪になると、わたしたち自身に判断基準がないために、彼らの話す内容に信憑性を感じてしまう人が多く存在します。

 では、どのようにしたら、そうした「無自覚の錯誤」から抜け出せるのでしょうか。
 先に挙げた、陰謀論者の文章や話す内容をウェブやテレビで見たとき、
 「そういう視点、今までなかったわー」
 「そうなんだ、初めて知った!」
 と思ったことはありませんか?

 危険信号です。なぜならその話、重要な論点が嘘に基づいているから。
 嘘なので、専門家はそのようなことは話さない。だから、陰謀論者たちが世の中で初めて事実を明らかにしたように受け取ってしまうのです。それが大きな出来事であればあるほど。

 この錯誤から抜け出すために必要なのは、「健全な疑問」を持つように心がける事です。
 具体的にはどうすれば良いのでしょうか。

1. 事実かどうかを確認する。
 何よりも大切なことは、自分の見聞きした内容が事実に基づいているかどうかです。
 例えば今回の戦争でよく見かける論点に「NATOが東方不拡大の約束を破った」というものがあります。プーチン曰く、東西ドイツ統一時にNATOとそのように約束を交わしたというもので、鈴木宗男や佐藤優も同じ主張をしていますね。では、事実はどうなのでしょうか。
 実は、これについては当時、直接交渉にあたったゴルバチョフ自身が「そのようなことは交渉材料になかった」と明言しています。(2014年10月16日 Russia Beyond the Headlineのインタビューにて)
 少し長いですが、該当部分を引用してみましょう。
https://www.rbth.com/international/2014/10/16/mikhail_gorbachev_i_am_against_all_walls_40673.html
RBTH: One of the key issues that has arisen in connection with the events in Ukraine is NATO expansion into the East. Do you get the feeling that your Western partners lied to you when they were developing their future plans in Eastern Europe?

M.G.: The topic of “NATO expansion” was not discussed at all, and it wasn’t brought up in those years. I say this with full responsibility.

 ロシアによるウクライナ侵略正当化のプロパガンダを行なっているロシアのメディア自身が、この記事を自身のウェブサイトに掲載しています。

 このように、事実ではないことを事実として論じていたり、また、自分自身が事実であることを客観的に確認できないことを事実として論ずるものについては、判断を留保しなければなりません。

2. 複数の事実を突き合わせる。
 事実は事実として不変ですが、人は往々にしてその事実が示す真実を見誤ります。
 自分が信じたいと思う事実だけを見てしまったり、自分の主張に不都合な事実を無視してしまうということは、人間である以上、必ず起きることです。
 陰謀論者が得意とする話もまた同じで、事実に基づかない内容に加え、彼らの主張に沿った事実だけを積み重ねて説得力を持たせようとします。
 このバイアスを避けるためには、複数の異なるソースから事実を集め、それぞれの事実が論理的に矛盾していないかどうかを検証しなければなりません。
 今の時代はインターネットを通じて容易に事実を確認できるようになりました。自分で事実を確認することなくメディアの垂れ流している言説をそのまま信じてしまうのは、知的努力の怠慢と言えるのではないでしょうか。
 本来であればこのような事実作業はメディア自身が行うべきことですが、多くの人が感じているように、日本の多くのマスメディアはどうやらその努力を放棄してしまったようです。数少ない良識あるメディアを今後も育てていくためにも、わたしたち自身のリテラシーを高めていかなければなりません。

3. 自分自身にどのようなバイアスがかかっている可能性があるのかを自覚する。
 今回、ロシアは2021年11月から着々と準備を進めてきました。
 軍隊の動員には、3つの段階があるとされています。まず機材の運搬、人員の収集、そしてそれらを支える兵站の構築です。
 戦車や装甲車などの機材をウクライナ国境近くへ輸送し始めた段階では、まだロシアには確固たる侵略の意図は見えませんでしたが、その後、野戦病院の設置や輸血用血液の運搬などが行われるにつれ、軍事アナリストたちの間には急速に危機感が高まっていきました。

 一方、これらの情報の受け手であるわたしたちはどうだったでしょうか。
 この戦争では、当人たちが意図するか意図しないかはさておき、さまざまなバイアスに基づいた発言がなされてきました。
 ウォールストリートの投資家たちは、ロシアは戦争のような損をするような馬鹿な真似はしないと言い、鈴木宗男や佐藤優などはNATOがウクライナを支援しなければ戦争は起きないと言い、遠藤誉に至ってはロシアがウクライナに侵攻すれば得をするのは米国だから戦争を煽っているなどと、陰謀論をメディアで発言する始末。
 言い換えると、この人たち自身も、損得や善悪に基づいた正常性バイアス、利害関係に基づいた確証バイアス、認知バイアスに引っかかっているとも言えます。

 人間である以上、これまで経験してきたことが様々なバイアスとなって、自分が目にした事実の意味することを歪めてしまうのは普通のことです。
 このバイアス自体を矯正することは大変に難しいのですが、あらかじめ自分の生い立ちや好きな書物の分野、好きなテレビのジャンルなどを把握しておくことで、自分はどのような情報や情報源を無条件に信じてしまう傾向にあるのかを知ることが可能となります。
 
『最後に』
 上に挙げた3つの心がけは、言い換えると「自分で考える」ということです。
 考えるということは、とても労力のいることです。常に自分自身と対決し、善や悪といった分かりやすい物差しから離れて、自分自身で結論を見出す、孤独な作業です。
 しかし、そうした普段の努力を放棄して、他人の考えを自分が「考えたつもり」になってはいないでしょうか。
 考えないということは、他人に自分の人生の決断を委ねるということでもあります。Be yourself. あなた自身の人生を放棄してしまってはなりません。