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エロスとプシュケー

個人的にまとめたいこと。


登場人物


エロス

 恋心、性愛、愛を象徴する神。ギリシア神話に登場する。美の女神アフロディテ気に入りのお付きである。(息子という説もある)
 刺された人に恋心を芽生えさせる金の矢と、恋を嫌悪するようになる鉛の矢を使い、神や人間にいたずらをしていた。

プシュケー

 ギリシア神話に登場する人間の娘。ある国に生まれた王女で、三人姉妹の末っ子にあたる。絶世の美女と噂され、その美しさは美の女神アフロディテにも勝ると言う者さえいた。

アフロディテ

 ギリシア神話に登場する美の女神。美においての誇りが高く、パリスの三大美神審判で最高の美神として選ばれている。原初の神であるガイアを母に、ウラノスを父に持ち、一説では去勢されたウラノスの男性器が海に放り投げられた際の泡で誕生したとも。


第一章


 ある国に三人の王女がいた。末の娘はプシュケーという。プシュケーは大変な美人であったため、たくさんの人々が彼女をほめそやした。彼女の美しさを噂する人の中には
「プシュケー様の美しさは、あのアフロディテにも劣らない」
とまで言う者もいる。民衆にプシュケーが顔を見せた際、そのあまりの美しさに「アフロディテ様が現れた」と驚く者もいた。

 そんなプシュケーの美しさをねたんだアフロディテは、エロスに
「お前の持つ金の矢で、醜い乞食の男とプシュケーが恋に落ちるようにしろ」
と命じる。命令を果たすべくエロスはプシュケーのもとへと向かうが、プシュケーのあまりの美しさに見とれてしまう。その際に手に持っていた金の矢が自分の足に落ち、エロスは本格的にプシュケーに恋い焦がれてしまう。

 プシュケーの上の姉二人はすでに嫁いでいたが、プシュケーはアフロディテの邪魔によっていまだ嫁に行けずにいた。それを心配した両親はアポロンのもとへ神託を受けに行くが、
「プシュケーは人間の誰とも結婚できない。プシュケーに花嫁衣裳を着せ、山のてっぺんに置き去りにしてきなさい。その山の怪物がプシュケーを娶るだろう」
と返される。神託は絶対のもので覆すことはできないため、両親は泣く泣くプシュケーに花嫁衣裳を着せ、山へ置き去りにする。これからどうなるのかと不安にさいなまれ泣いていたプシュケーだが、西風の神ゼフィロスがプシュケーを美しい森へ連れていく。そこに下ろされたプシュケーは、その森の美しさに見とれ、癒されているうちに眠ってしまう。

 しばらくして目が覚めたプシュケーは、森の中に立派な宮殿が建っていることに気が付く。中に入ってみるがそこには誰もおらず、広い広い建物の奥には、料理が用意されたテーブルがあった。お腹がすいていたプシュケーが料理を食べ始めると、空いた皿や代わりの料理がひとりでに片付き、運ばれてくる。その場には着飾ったプシュケーと、たくさんの透明な給仕たちだった。給仕はプシュケーに、食事がすんだら身体を清めるように言う。
「私たちはあなたの召使、ここにあるものはすべてあなた様のものです。お好きな時にお食事と湯あみをなさってくださいまし」
 プシュケーが湯あみを済ませて床につくと、誰かが寝室に入ってくる。それはプシュケーに惚れたエロスだった。エロスはプシュケーにこう語りかけた。

「私はお前の夫だよ、プシュケー。今日からお前は私の妻で、ここはお前の家だ。好きなように食べ、遊んでもいい。ただし私は夜にしか来ないし、お前に顔を見せることはできないんだ」
 語る声のやさしさに安心したプシュケーは、エロスと共に眠りにつく。そうして二人の生活は始まった。

第二章


 穏やかな夫婦生活を送っていたプシュケーは、ある日姉二人が自分の話をしていることに気が付く。嫁いでいった姉たちがプシュケーにやさしくしてくれることは少なかったが、そんな彼女らが涙ながらに自分の名前を呼んでいて、プシュケーは心が痛くなった。もう帰ることはできないが、せめて姉たちと話をしたい。今の自分は幸せだから心配しないでほしいと伝えたい。そう考えたプシュケーは、
「どうか姉さんたちと話をさせてください」
と、エロスに頼み込む。エロスは渋々願いを聞き入れた。

 ある日、姉二人はゼフィロスの手によって、プシュケーが住んでいる宮殿へ連れてこられる。久しぶりの再会に三人は喜び合うが、幸せなプシュケーの生活と豪華な宮殿を見た姉二人は、次第にプシュケーに嫉妬していく。
 姉二人は何とか情報を聞き出そうと、プシュケーに根掘り葉掘りと不躾な質問を繰り返す。

「旦那様の姿が見えないけど、仕事は何をされてる方なの?」
「昼間は狩りに出ているの、夕方には戻ってくると思うわ」
「こんなに美しい場所なんですもの、旦那様もさぞや美しい方なんでしょうね」
「実はね、私旦那様の顔を見たことがないの。絶対に見ちゃだめだって言われてて」
 プシュケーがこぼしたこの言葉に、姉二人はしたり顔。プシュケーにさらなる追い打ちをかけていく。
「そんなのっておかしいわ、結婚した相手なのに顔も見ていないなんて」
「大体、神託によるとプシュケーは山の怪物と結婚するって話だったじゃない」
「そうよ、きっと旦那様は本当はとんでもなく恐ろしい怪物なのよ。もしかしたら大蛇かもね」
「プシュケー、あなたきっと騙されてるのよ。こうやってあなたをさんざんもてなして、太らせて、今に食べようって魂胆なんだわ」
 不安に思い始めたプシュケーを、姉らは続けてそそのかした。
「不安だっていうなら今日の夜、確かめてみたら? 夜に帰ってくるんでしょ、だったら灯りとナイフを用意して、こっそり顔を見てやるの」
「ナイフなんて何に使うの」
「そんなのきまってるわ、旦那様の正体が本当に大蛇だった時は、ナイフで首を掻っ切ってやるのよ」
 姉たちが帰っていった後も不安が残ったプシュケーは、姉たちの作戦を決行することを決める。その日も夜に帰ってきたエロスが先に寝付くまで待ち、灯りを持って顔を確認することに。寝息が微かに聞こえてくる、真っ暗な寝室を、気づかれないようにしながらベッドへ近づいていく。左手に携えたナイフを握り直し、とうとうベッドまでたどり着いたプシュケーは、手にしていたランプを高く掲げた。灯りに照らされ、眠るエロスの顔が目に映る。
「大蛇なんかじゃなかったわ、なんて美しい人なのかしら!」
 プシュケーは初めて見たエロスの美しさと神々しさに動揺し、持っていたナイフを落としてしまう。肩に落ちたナイフの痛みに飛び起きたエロスは、プシュケーが約束を破ったことを知った。
「愛は、疑いとはいっしょにいられない」
 プシュケーにそう告げたエロスは、彼女の前から姿を消してしまう。


第三章


 エロスに心を許していたうえ、彼の美しさに見惚れたプシュケーは、エロスの約束を破ってしまったことを後悔し、彼の上司であるアフロディテの神殿へ向かう。プシュケーを迎えたアフロディテ曰く
「エロスは確かにここにいるが、お前につけられた傷が痛むからと部屋で休んでいる」
らしい。アフロディテはプシュケーへの嫉妬をいまだくすぶらせており、それに加え息子が人間の娘に恋をしたうえ、その人間に約束を違えられたという事実に怒り心頭だった。アフロディテはプシュケーの
「何でも致します、どうかどうかお許しを」
という言葉を利用し、エロスにふさわしいか判断するという名目で、プシュケーに三つの無理難題を強いる。
 一方のエロスは自室に引きこもりながらも、神殿までやってきたプシュケーを気にかけていた。アフロディテが彼女に課した難題は、人間の娘には到底できるはずもないこと。それを知ったエロスは、最後の試練を除いた二つをこっそり手助けしていた。
 なかなか根を上げないプシュケーに業を煮やしたアフロディテは、最後の試練を
「冥界の女王ペルセポネから、美を助ける化粧品を持ってくること」
とした。冥界は基本的に死ぬことでしか行くことができず、一度入ったら二度と戻っては来られない場所。ごく普通の娘である自分ではどうしようもないと悟ったプシュケーは、とうとう高い塔から身を投げようとする。しかしある声がそれを止め、プシュケーに冥界へ行き、帰ってくる方法を彼女に教えた。声は最後の忠告として
「女神の化粧品が入った箱は、決して開けてはいけない」
とプシュケーに告げる。


第四章


 声に教えてもらった通り、無事に冥界へ行くことができたプシュケー。ペルセポネから頂いた化粧品をしっかりと箱に入れ、あとは来た道を戻るばかり。危険な試練もこれで終わると安堵したプシュケーは、声が言っていた最後の忠告のことをすっかり忘れてしまう。
「ひとつぐらいだったらこの化粧品をもらっても良いかもしれない」
 そう思ったプシュケーは、持っていた箱のふたを開けてしまう。開いた箱の中から漏れ出てきた「冥府の眠り」により、プシュケーはあと少しのところで眠りに落ちてしまう。 プシュケーが死にかけていることを察知したエロスは、プシュケーのもとへ向かう。
「バカなプシュケー、お前はまた、自分の好奇心のために殺されてしまうところだったね」
 冥界から地上へ戻る道中で倒れるプシュケーを、エロスは抱き起して呟いた。箱からこぼれていた冥界の眠りをかき集め、蓋をすると、眠っていたプシュケーが目を覚ます。エロスはプシュケーに箱を渡しながら、
「あの人の試練を最後まで全うしなさい。そこから先は私に任せて」
と告げ、ゼウスのもとへ向かった。

 ゼウスのもとへ向かったエロスは、プシュケーとの結婚の許しを乞う。ゼウスはそれを受け入れ、アフロディテを説得する。自分が課した三つの試練を見事クリアしたプシュケーに、流石のアフロディテも無視はできない。無事試練を終えゼウスから結婚を許されたプシュケーは、式の当日にエロスの導きでゼウスのもとへ。そこでゼウスはプシュケーに神の酒であるネクタールを飲ませ、彼女を不死の存在にしたうえで自分たちと同じ神として迎え入れた。

 こうして愛の神であるエロスと人間の娘であるプシュケーは結ばれ、夫婦として幸せに仲睦まじく暮らした。


メモ


 この二人の物語は、書いているものによってはローマ神話と混同、またはローマ神話のものとして扱われている。

 ギリシャ神話=ギリシャ語を使って語られた神話

 ローマ神話=ギリシャ神話を参考にしたうえでローマ語を使う人たちがアレンジした神話


 アフロディテ=ギリシャ神話の美と愛の女神

 ヴィーナス=ローマ神話の美と愛の女神

 この二つは混同されがち、あるいは同一視されがちなだけで、実際は全くの別物である。


参考書籍、サイト


・Wikipedia

・コトバンク

1話5分で読めるギリシャ神話

・ビジュアル版世界の神話百貨 ギリシア・ローマ ケルト 北欧

 アーサーマットレル

 原書房

・ギリシア神話

 石井桃子

 のら書店


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