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昼間には感じられなかったけれど、陽が落ちたあとの熱が鎮まった空気に、香りがついていた。ひとつところに漂うのではなくて、どこを歩いても、辺り一帯の大気はその匂いと同化している。記憶していたのよりも、ささやかに香るので、キンモクセイだと気づくのに少し時間がかかった。もっと濃密ではっきりとした匂いだと思っていた。記憶はあてにならない。空気中に満ち満ちている香りの粒子をかきわけて歩いている、と思った。


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