琥珀の夕方
空気までいろづく夕方がある。すりガラスの向こうから、オレンジだったり、サーモンピンクだったりばら色が、時には薄紫色も、ふわーっと広がる夕方。窓を開けると、景色がその色に染まっている。空気の一粒一粒が、その色を内包しているみたいだ。
昨日の夕焼けは、琥珀色だった。透きとおるこっくりとした琥珀を、うすくうすくひき伸ばして、それを小さく砕いて空気中にちりばめたような色。
夕焼けは時間とともに移ろっていくから、目にしたのは琥珀色だけではなかった。神々しい金色も、ノウゼンカズラの橙色も、空がはにかんでいるようなばら色が明度を深めて紅の残照に変わっていくのも、ずっと見ていた。それでも、昨日の夕焼けの色を訊かれたら、わたしは琥珀色と答える。見えている空の色じゃなく、空気がずっと琥珀の色だったから。身体で感じていたのは琥珀の色だったから。
琥珀は、田んぼにも映っていた。茜や濃いピンクに照り映えたけれど、わたしにはやっぱり琥珀色に思えた。水面のゆらめきが、琥珀の輝きを思わせたのかもしれない。大気に散りばめられて姿かたちをなくしている琥珀が、水田の鏡の中では、本当の姿を見せているのかもしれなかった。
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