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私立高校にキリンがいると聞いて安心した。(#056)

おととい、ジャスパーが日本人の交換留学生を連れてうちのお絵かき教室に来た。

ジャスパーは6歳からうちのお絵描き教室に通っている。今年16歳、高校一年生だ。10年も付き合いのあるジャスパーは甥っ子みたいなものだ。彼はADHDとASDを持っている。ジャスパーと私は気が合う。仲がいい。

ジャスパーはつい半年前に名古屋の姉妹校に2週間の留学体験をした。そのときホームステイしたお宅の息子が、今度はシドニーに来てジャスパーの家に2週間ホームステイしているのだ。

交換留学生として来た15歳の男の子はお絵描き教室に通いにくる子たちとは全く違う人種だ。真面目で静かできちんとしている。「あぁ、こういう男子がうちの高校にもいたな〜」と昔のことを思い出した。

彼の英語ははっきり言って、ジャスパーの日本語よりもかなり上手だ。びっくりした。なぜなら、6ヶ月前にジャスパーが教えてくれた時の印象では、彼の英語はそれほどでもないと聞いていたからだ。そのことを本人に聞いたら「あれから随分勉強したんです」と。半年前にジャスパーに会って、刺激を受けて猛勉強をしたらしいのだ。大したもんだ。15歳の私は彼のように流暢に英語を話すことはできなかった。

私「好きな科目は何?」
15歳「英語ですね」
私「他には?」
15歳「僕は理系か文系かといえば、文系です。でも古文とか漢文とか習う意味あるのかなって思うんですよ」
私「英語で何か書くのが好きなの?」
15歳「いや、とくに」
私「じゃあ、読みたい本があるの?」
15歳「読んでますけど、宿題なので」

私はこういう人もたくさん知っている。英語が好きと言うだけの人。英語は道具なので、その道具を使って何をしたいかが最終目的になるはずだ。英語で何がしたいの?と聞いたら。何をしたいかまだわからないと15歳は答えた。

一方ジャスパーは、すでに何をしたいかがはっきりしている。彼は両親が医者なので、自分はメディカルの分野に進んで、お金を稼ぎ、早めにリタイアして、漫画を描くんだと。理由は「自分が死んだ後も残るものを作りたい」と。できるかできないかはともかく、何がしたいかがはっきりしている。

ジャスパーは小学生の時にリュックに缶コーラをたくさん入れて登校した、ランチタイムにそれを割高で友達に売りさばいた。そしてコーラを買うお金がない子には利子付きでお金を貸して、ちょっとしたジャスパー銀行も開いた(私はその貸し出し帳を見せてもらった)。さすがにそれが学校にバレて止められた。友達と一緒に商店街でクラリネットを吹いてお金を稼いだこともある(私はその様子をビデオに撮った)。捨てられているものを拾っては自分で修理して使う。それを自慢げに見せてくれる。両親は医者なのでお金には困っていないが、自分で工夫してお金を稼いだり、壊れたものを直して使ったりするのが好きなのだ。その気持ちはよくわかる。

私がそのことを15歳に伝えると「どうすればそんなアイディアが出るんでしょうねぇ」という。「あんまり、学校の言うことをちゃんと聞かないことだね」と私は即答。「それはダメでしょう」と追っかけるように15歳は言う。

私「ねえ、君の学校にはジャスパーみたいな子はいないの?」
15歳「あ、このまえ学校で動物園に行った時に、キリンの柵に入った男子がいました。かなり問題になった」
私「いいねえ。それくらいやる元気がないとね」
15歳「いや、ダメでしょう。彼はそれから”キリン”とあだ名が付いた」
私「”カバ”とかじゃなくてよかったね、”キリン”だとまだ格好がつく」
15歳「そうですね」
私(返事が真面目〜)

少なくとも、名古屋の私立高校には”キリン”がいると知ってホッとした。日本には、賢くて元気のある子がまだいるのだ。

「古文と漢文を習う意味があるんですかね〜」と15歳が行った時に思い出した人がいた。インターンでうちの高校に古文を教えに来ていた女性。名前忘れちゃったけど、彼女は学校に着てくる服が2種類しかなかった。一つは胸元にフリルがいっぱいついた白いブラウスとタイトスカート(フォーマル用)。もう一つはオーバーオールのジーンズに綿のトップ(カジュアル用)。二つを交互に着てきた。そうだ、宮古の出身だったような気がする。ちょっと訛りがあった。そして八重歯と垂れ目とショートヘアが愛くるしい笑顔。ものすごい勢いで、カンッ・カンッ・カンッ・カンッとチョークを黒板に叩きつけて大量の文字を書いた。授業で何を習ったかは全く覚えていないが、こう言う勢いのある女性が、先生になって教えたいと思うくらい好きになる何かが、古文にはあるんだと言うことはよくわかった。熱意だけは伝わったからだ。私が交流を持っていた「映画研究会」の集まりに、その古文の先生が突如現れた。その後2〜3回参加してこなくなったけど、彼女は教室で見る時と同じだった。「この人は裏表のない・いい人だな」と感じた。元気にしてるかなぁ、古文の先生。服の種類増えたかな。

あなたの想像力がわたしの武器。今日も読んでくれてありがとう。

えんぴつ画・MUJI B5 ノートブック

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