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病気の一枚 4

う~・・・痛い・・・。

痛みで目が覚めた。というか、痛くてほとんど眠れなかった。ここは・・・病院か。気は確かみたいだ。が、・・・痛い~!!いや、痛み止めは飲んでいたものの、病院お勧めのロキソニンは身体に合わず、子供でも飲めるカロナールを飲んでいた。強い薬じゃないから、痛みがなかなかねぇ~と看護師さんに言われていた。

昨年夏、右胸のしこりに激痛を感じ、秋に乳がん、悪性腫瘍と診断され、11月某日右胸全摘および右脇下のリンパ切除手術を受けた。そう、ガンがリンパまで転移していたのだ。幸い他の臓器や骨などには転移はなかった。ちなみに治療はまだ現在進行形である。

話を元に戻そう。時は手術を受けた翌朝に至る。痛いし、なんか首から袋がぶら下がっているし・・・え?何の袋?そう思った瞬間に看護師さんが朝の検温にやってきた。それ、何ですか?身体の中に血液が溜まらないように管が入ってて、その血液を溜めるための袋だと。

身体に管が入っている・・・。

そのうえ左手首には、まだいつでも点滴ができるように管がついている。注射嫌いの私には身体に何かが入っているだけでも、気を失いそうになるほどの事件である。

さあ、トイレは行けるのか?歯磨きは?洗顔は?ご飯は食べることができるのか?とにかく一つずつクリアしていくしかない。よし、まずはトイレだな。起き上がって、いや正確にはベッドに起こしてもらい、体の向きを変えて・・・痛い~!!

そして、起き上がってから気づいたのだが、右腕が上に上がらない。五十肩とどっちが上がらないかって、たぶん今の私の方が上がらない。角度で言うと15度も上がっていないのではなかろうか。腕を横から上げようとしても、こちらは全然上がらない。

参ったな・・・。

リンパ切除したからだ。おまけに右脇周辺も痺れてまったく感覚がない。詳しいメカニズムはきっとネットで解説されているだろうから、そちらを参照していただきたいのだが、右腕が不自由になったのだけは確かだった。

この日から、右腕との格闘が始まった。ご飯はなんとか箸で食べることができる。しかし、お盆を思うように持つことができない。なので、同室の向かいのベッドのおばあちゃんが何度も食事のお盆をナースステーションまで下げてくださった。

入院中、同室のメンバーがいろいろ変わるが、退院するまで、この優しいおばあちゃんと一緒におしゃべりして、ご飯を食べて、廊下や売店を散歩したりしていた。おかげで、人生初の入院生活は充実していた。

手術から3日後。

いつものように朝から同室の人たちとおしゃべりで盛り上がっていたら、先生が病室に颯爽と現れて「ちょっと立ってみて」と言って立たされた。先生と向かい合わせて立ったら、いきなり運動機能?チェックが始まった。

「手を前から上に上げて~」先生!ここまでしか上がりません!角度は相変わらず15度も到達していなかった。
「じゃあ、横は?」横!?全然あがりませーん!痛い痛い。
「頭の後ろで手を組んで・・・」絶対無理!!なに、そのスゴ技!?手は後ろにも行かないし、そんなに高く上がらないし。

先生はそれで分かったと言って病室を出て行った。そっか・・・そんなに当たり前にできていたことが、できない腕になってるんだ。なんてこったい・・・。でも先生は言っていた。日常生活に支障がないようにして帰すから、と。

手術から7日後。

血抜きのための管をやっと抜くことになった。同じ日に手術した人は3,4日で抜けていたので、私はだいぶ時間がかかった方になる。時間はかかったがやっと管から解放される。私は自由の身だ~!

そう、手術からまだそんなに経っていなかった頃、甥っ子姪っ子が家族総出でお見舞いに来てくれた。調子はどげんね?どぎゃんもこぎゃんもなかたい。こんなことになるなんて、人生分からんね~、などと話をしていたら、看護師さんが袋に溜まった血液を抜きに来た。

大人たちはベッドから離れたが、4歳児と5歳児がベッドから離れようとしない。今から夜も眠れないぐらい恐ろしいことが始まるよ~と言っても「見る!」と言って離れない。

プチ社会科見学が始まった。私ですらまともに見たことがないこの作業を子供2人はじーっと見ている。袋に溜まった血を容器に移す。「血がたくさん出てるよ!」どうしてそんなに冷静に見ていられるのかしら、この子たちは・・・。うん、そんなこともあったな。

リハビリ始まる。

管が取れたら、右腕のリハビリが始まった。リハビリ室に毎日通って、作業療法士さんとひたすら腕を動かした。劇的に上がることはないが、少しずつ上がるようになっていった。

ちょうど同じ頃、同じ病棟で何人かが同じリハビリを受けていた。毎朝、同室のおばあちゃんと運動不足解消で朝食前の散歩に出かけると、その人たちに会う。そして、お互いリハビリの成果を披露する。讃えあう。励ましあう。これがあったからリハビリを頑張ることができたかもしれない。

腕のリハビリは2週間続いた。というか、腕が肩の高さに上がるまで、2週間かかったのだ。とにかく、まあなんとか服が一人で着れるようになったので、リハビリは卒業となった。と同時に退院となった。

再び結果発表。

退院してほっとしたのも束の間。手術で切除したしこりの病理検査の結果が出た。結果から言うと、ステージはⅡ。ガン細胞のグレード(顔つき)は1~3のうち2。サブタイプはルミナールB。そして、しこりの実際の大きさは2.1センチ。リンパは14個取ったうちの2個に転移があった。

その時にしこりの写真を見せてもらった。皮膚の上から触った時も石ころみたいだったが、見た目も綺麗な石ころみたいだった。こんなものが身体に入って育っていたなんてねえ・・・。

検査の結果、今後の治療は抗がん剤とホルモン剤治療をすることになった。放射線はしなくてもいいだろうということだった。治療が一つ減っただけでも気が軽くなった。この結果を聞いた後、気が緩んでしまい、夕食は外へ出かけた。

撮った!

手術がんばったね、というのと、抗がん剤治療がんばれよ、という意味を込めて、またリクエストに応えてもらった。カワハギの活き作り!本当はイカが食べたかったのだが、不漁でイカがなかったので、カワハギになった。

うん!美味しい!うまい!幸せだ~!カワハギの活き作りなんて初めてじゃなかろうか。肝もまたいいよね~。さあ、これで今度は抗がん剤治療を乗り越えなきゃ。はっ、・・・また、にんじんを目の前にぶら下げられた馬になってるし・・・。

抗がん剤もがんばるぞー!

追伸:病気の一枚は連載モノです。よかったら3もご覧ください。


記事を書くための栄養源にします(^^;)