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【旅行】原付バイクでツーリング 北海道を目指す旅~新庄から田沢湖高原編【第4話】

こんにちは。

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【旅行】原付バイクでツーリング 北海道を目指す旅~米沢から新庄編【第3話】の続編となります。ご興味のある方はこちらからご覧いただければ流れがお分かりいただけると思います。

大学3年生(20歳)の夏、私は北海道で登山とヒッチハイクの旅を終え、次に目指したのは東京から北海道までの原付バイクでのツーリング。果たして無事辿り着けるのだろうか・・・

9月7日 新庄から田沢湖高原【4日目】

いったい何時間眠り続けたのだろうか。今何時なんだろう?そうか、まだ旅の途中だった。寝ぼけ眼のまま手探りで携帯電話を手繰り寄せた。朝5時半。既に夜が明けていた。

昨夜降り続いた雨は夜明け前に収まり、久しぶりに早朝の清々しい空気を吸いに着替え散歩に出かけた。結局昨日は空腹のまま深い眠りについてしまったため駅から少し歩いたところのコンビニでご飯を買って部屋で食べることにした。干しっぱなしのスニーカーは室内のエアコンのおかげでほとんど乾いていた。インスタントのドリップコーヒーを淹れ朝食を取り、洗濯物をたたみ身支度整えた。午前7時30分新庄のビジネスホテルをチェックアウトした。

いつものゴアテックスに身を包み、今日こそ山形県を脱出して秋田県に入りたい。雨上がりのアスファルトの匂いが懐かしい。エンジンをかけ空腹と睡眠を満たした身体とともに走り出した。

黄金色の稲穂が揺れる秋空の下

山形県の国道13号線を巻くように県道が続いている。この辺りは車の往来が少なくバイク旅にはちょうどよい道である。奥羽本線沿いの道はたびたび無人駅が現れる。鉄道好きな私は駅舎を撮ったりして寄り道をしながらののんびりバイク旅を楽しんだ。

9月の東北は既に黄金色に輝いた稲穂が揺れ、その光景に息を飲む。高い空と稲穂のコントラストが美しい。季節は確実に秋へと向かっていた。昨日の風雨とは打って変わって穏やかな空が広がっていた。

途中横手にある道の駅で休憩をした。道の駅には何でも揃っていた。東京では滅多にお目にかかれないその道の駅の屋台で焼きそばやフランクフルトなどを買いこみ、一人ベンチで食べた。ガソリンを入れなければ。そう思い動き出そうとしたが、思い立ってから2時間の間、うとうととベンチで眠ってしまっていた。

なぜだろう。秋の日差しは私の心身を安定させる効果でもあるのか。瞼が重くすぐに眠くなる。昨日の疲れが残っているのか、ふわふわとした身体で起き上がる。幸い周りには誰もいなかったのでそのまま空を見上げて仰向けになる。遠いところまで来たんだな、と。秋田の空が私の孤独感を少し和らげてくれるような気がした。今日も誰とも話していない。そして自ら率先して人がいないところを選んで走っている。

秋田県へ突入、日本一深い湖田沢湖へ

途中ガソリンを入れ、横手から大曲を巻いた旧羽州街道を走り角館へ入った。ここは城下町、角館。角館は昭和51年には重要伝統的建造物群保存地区にも選定されている人気の観光地であり、みちのくの小京都とも呼ばれている。武家屋敷が多く残っていて特に年配の旅行者に人気だった。秋田新幹線が開通するようになってからは、このエリアも東京から行きやすくなり秋田県でも田沢湖とセットで有名な観光地として知られることになった。

角館を観光する事なく田沢湖のシンボル、金色の辰子像へと走る。ここは昨年観光で来たところだった。ゴールデンウィークの混雑した日、田沢湖をぐるり20キロをレンタサイクルで周った。その頃と違い、全く人気がない田沢湖。お土産やさんもガラガラだった。

その時はJTBなどの観光バスで溢れかえっていた駐車場も今は寂しいものだった。だだっぴろい駐車場にポツンと私のリトルカブが佇んでいる。田沢湖は水深が423mもある日本一深い湖だ。この旅のハイライトである。

左手に神秘の湖を見ながら時速30キロで秋田駒ヶ岳の姿を眺めつつのんびりと走る。秋田駒ヶ岳は1,637mの十和田八幡平国立公園南端の名山だった。湖と山、今までの疲れは全部吹き飛んだ。このまま秋田駒ヶ岳に登りに行こうか。山用の装備など何一つ持っていないのにそんなことを考えるとテンションが上がる。

秘湯・乳頭温泉郷で温泉のハシゴ

田沢湖で遅い昼食を取り目指すは乳頭温泉郷だ。せっかくここまで来たのであれば温泉をハシゴしまくりたい。乳頭温泉といえば鶴の湯温泉だ。今日は鶴の湯温泉の湯治棟に泊まりたかったがあいにく満室だった。他の宿にも空きがないか電話をかけてみたが、どこも満室だった。連日宿に泊まっていたらお金が持たない。

気持ちの良い登り道を2速で走りながら高度を上げていく。空はどんどん青くなり、近づけば近づくほど高くなっていった。ようやく田沢湖高原温泉に到着した。この旅では温泉はケチらずどんどん入ろうと意気込んでいた。食事や宿代をケチっても、温泉代はケチりたくない。

ここでは3つの温泉に入った。まずは鶴の湯温泉、次に大釜温泉、そして少し戻って一番最奥にある孫六温泉の3つだ。孫六温泉まで来るともはや誰もお金を徴収しに来ない。そもそも誰もいないが無断入浴お断りの手書きのポスターが貼ってあった。受付っぽいところに行って待っていても誰も来ないので、仕方がなく入湯料をお皿に置いて帰った。

乳頭温泉郷はいい具合に鄙びた温泉群だった。まさに秘境といっても過言ではない。各温泉は一軒宿であり、それぞれに露天風呂がついている。標高は700mを超え周りに何もないまさに秘境そのものだ。これぞ風光明媚な温泉群といえる。情緒が溢れ出す!

残念ながら宿には泊まれず来た道を引き返す。さて今日はどこに泊まろうか。テントを持参していれば近くのキャンプ場に泊まるのだが、あいにく今回は持ってきていない。それに辺りは既に日が暮れて暗くなっていた。最悪下ったところにユースホステルがあるからそこに泊まればいいか、と田沢湖高原へ来た道を引き返した。

自動販売機しかない圏外のバス停にて

田沢湖高原温泉バス停に立ち寄りひと休みをする。バイクに乗っていると落ち着く暇がない。車と違って車中で寝ることもできない。ヘッドランプを取り出しながらツーリングマップルを眺める。今日の宿が決まっていないことに焦りを感じ始めた。

そういえば携帯電話はバッチリ圏外になっていた。公衆電話を探すも見つからない。私が今いるバス停はありがたいことに屋根がありお手洗いもある。ここに泊まれないだろうか?(そう考えること自体がおかしいのだが)周りに何もないとはいえ、屋根があるのはありがたい。2日目に野宿した夜は、落ち着かなくて結局眠れなかった。9月の東北の夜は思った以上に冷え込みが激しい。

ここで寝てしまおう。早速バスの運転手さんを見つけ出し、「旅をしているモノなんですけど、今日ここで寝泊まりしてもよいでしょうか」と交渉をする。ひとりでこのような場所に泊まるのは初めてだった。若干怖い気持ちも感じながらも、静まり返ったバス停で一晩明かすことがドキドキした。

バスの運転手さんは「本当に泊まる気ですか?別に構いませんけれど何もないですよ」と怪訝そうな顔をしてバスを走らせていった。これで疑いの余地もなく何とかバス会社としても承諾を得たということにしておこう。バス乗り場はスーパーハウスのようなプレハブ造りで、あたりには何もない。ジョージアの自動販売機がポツンとあるだけだった。早速110円の甘いジョージアの缶コーヒーを購入した。夜ごはんを準備していなかったため、手持ちのお菓子で飢えをしのぐ。明日の朝まで持つだろうか。

鈴虫の鳴き声と過ごす一人きりの4日目の夜

ベンチに寝袋とシュラフカバーをセッティングして、コーヒーを少しずつ飲みながら4日目の夜を振り返る。東北の人は冷たいというよりも、旅人に興味がない。それもそうだ。自分が普段生活しているところに旅人がいようといまいと関係がないのだから。北海道はいつも面白い旅人がいて、地元の人も宿の人も優しくて、いつも知らない人といろんな話で盛り上がった。東北はずっと一人きりだった。原付バイクなので誰かと一緒に走ることはないし、観光地に行っても温泉に行ってもずっと人と会うことはなかった。

一人きりのバス停、鈴虫の鳴き声の合唱と秋の星空の下、私は一人でいろいろなことを考えた。今まで一人が好きだと思っていたが、案外自分の脆さを突き付けられた夜だった。本当の孤独は本当に一人になってみないと分からないこと。自分は一人きりで生きているわけではないこと。いつの間にか周りの人に支えられて助けられて頼って生きてきたこと。今、自らの意思で旅に出て積極的な孤独を経験し、これからもずっとこの気持ちを抱えて生きていくんだろうと。携帯も通じない、誰も人が来ない、多少の身の危険を感じながら、この旅はきっと孤独との闘いの連続なのだと。そう思った。

何故だか分からないが、携帯電話が通じないということが心を安定させたような気がする。誰にも振り回されないし誰かを振り回すようなこともしない。自分の時間を邪魔する人は誰もいなかった。

明日のことは明日になったら考えよう。ツーリングマップルを閉じてヘッドランプを消し、寝袋に包まる。静寂な時間とともに1日が終わる。夜の風は冷たかった。明日はいよいよ青森だ。

~つづきます~

最後まで読んでくださりありがとうございました。


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