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転職活動記#3 お爺さん記者ばかりの業界新聞

2023年も間もなく終わろうという12月の末。
私がタクシー業界の専門紙の面接を受けたときの話をしようと思う。

それは転職サイトで見つけた求人で、給料がかなりいい数字だったこともあり興味を惹かれたのだ。
そんな不純な動機でエントリーしたがすぐ面接試験に進めることになった。先方からきたメールには「面接予定時間:90分」とある。これだけ面接時間が長いということはこれはもしかしたら、誰でもいいから人を募集していて、採用を前提にしたものかな?と、何でも自分の都合のいいように解釈する僕はそう考えた。

とは言っても、そこが出してる紙面ぐらいは読んでおいた方がよかろうと、国会図書館でK新聞のバックナンバーを何号かコピーし、面接で聞かれたときのネタも用意しておいた方がよかろうと、ライドシェアに関する全国紙の主要な記事をピックアップし「あなたはうちでどんな記事が書きたいの?」と聞かれても、ちゃんと答えられるレベルにはなった。と思う。

こうして僕は万全の準備で面接当日を迎えた。オフィスは渋谷駅から徒歩10分ほどの位置にあるアパートの一室にあり、ベルを鳴らすと社長が出迎えてくれた。社長は60代ぐらいで上背もありガタイもいい。そこは居間にあたる部分が事務所になっており、そこに事務のおばちゃんと70代くらいのおじいさんが仕事をしていた。
まず、1時間の筆記試験を受けるようにと指示される。漢字の読み書きの問題や慣用句の意味を答えさせる問題、そして作文。作文は時事ネタに関することであればテーマは自由。文字数も指定はなかった。

僕は漢字問題を素早く終わらせて、作文に取り掛かった。
テーマは何にしようかな?そうだ!昨日国会図書館で調べたライドシェアにしよう!
そう決めて、書き始めるとすらすらと筆が進んだ。
しかし、僕が試験問題を解いている間、隣のお爺さんはずっと誰かと電話で話している。

「うんうん、明日の待ち合わせ? うんうんわかったわかった、、」
うるさいなーと思いつつも作文に集中集中と言い聞かせていると、突然
「横で筆記試験をやっているのに、君も気が利かないやつだな!」と後ろにいる社長がおじいさんを一喝した。
それは、その瞬間僕は次に自分が何を書こうとしていたのか一瞬忘れてしまう程の衝撃だった。「気が利かない」のは社長も同じじゃないかと思いつつ
筆記試験はなんとか終わらせた。

筆記試験が終わると30分の面接だった。
社長によると今回人を募集しているのは、現状65歳の自分と70代の記者2人しかいないので、若い人を入れて後継者を育てたいとのことらしい。
これを聞いた時点で、この会社の社長候補なんて荷が重すぎると思った。
そこは悟られないように平静を装ったが、向こうも「コイツに社長は無理だな」と思ったに違いない。

そして数日後、僕は2023年の暮れにお祈りメールを受け取ったのであった。

つづく


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