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覚悟を決めた人

看護師をしていれば
様々な方の選択肢を目にします。

治療よりも余生を選ぶ人
家族との時間のために、治療を選ぶ人
選択肢がなく、受け入れようとする人
様々な人の選択の中には
その人たちなりの、覚悟が見えます。

今日ここに書くのは
ある覚悟を決めた、1人の患者さんのこと。
私には、心や魂を揺さぶられるような
そんな経験でした。

大型車の運転手をしていたその方は、
記憶障害を主訴に来院し、病名告知を受け
入院されました。
心配するご家族とは対比するように
その方は何を聞きても「大丈夫」
と答えるだけで、ニコニコしていました。

手術前から少し塞ぎ込んだ様子が見られはじめ、
手術は「やりたくない」と言うようになりました。家族が説得し、手術を受けられましたが、
術後の合併症で半身に不全麻痺が残りました。

術後日々過ごしていく中で、
鬱々としていくようになり
食事を全くとらなくなりました。

全くです。

水道水は飲むにしても
ジュースやお茶も摂られず
薬も飲まなくなりました。

「こんな形では生きていても仕方ない」
「人に迷惑をかけるぐらいなら、逝っちゃった方がいいんだよ」
と涙を流され、ガンとして貫き通されました。

治療の効果はあり、医師はすぐに亡くなるような病状ではない…と話されても

「こんな自分では生きている意味がない」
そう話され、曲げることはありませんでした。

家族は頑張って欲しい
医師はよくなっているのに、勿体無い
このギャップが、逆にその方を苦しめていました。

私達医療者は、このような状態を

不穏
せん妄   などと、何かの枠組みに当て嵌め、
本来のニーズから目を逸らそうとする傾向があります。

この方のこの命をかけた覚悟を
当初は精神科介入し、
器質性精神障害などという診断名をつけ、
抗精神病薬の投与が検討されました。

本当にそうでしょうか?

なんとかして食べさせよう
なんとかして薬を飲ませよう

そう傾くベクトルを、誰が変えてくれるのでしょうか?

医療者の持つバイアスは、
その人の人生を変えてしまうことにも
繋がりかねない。

この方のその後は
いい方に傾きましたが、
それは、スタッフ達が
自分達の抱えるバイアスと向き合い、
その方の意思を尊重した事で
アウトカム設定を考え直す結果につながったことが、良い方向にベクトルを向けるきっかけとなりました。

結果だけでなく、私はこうも思うのです。
その方が
私たちに、本音を話してくださったこと。
これは、日々の関わりの中で
私たちを信頼してくださった証でもあります。
自分の選択肢を、心を閉ざさず
打ち明けてくれた事で
私達は本当の意味でその方と向き合う事が出来た。

何も口にしない
治療を拒否するその方の前で
自分達の無力さを嘆くばかりでしたが、
そうではなかったと。

人の人生に、向き合う事は
何か問題が起きた時だけでなく
日頃の姿勢から、もうはじまっているのです。

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