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「森のにぎわい」【詩】

きみが暮らしている東京よりも、
この森のほうがずいぶんにぎやかだよ、
とかれはいった
かれはよく酒を飲み、
ろくに働きもしないやつだが、
つまらない冗談をいうやつではない
ぼくはすっかり気を許してしまって、
耳をすましてみる
……はるかな空から
一枚の葉が落ちる
鳥の声は
それぞれが
すこしずつ異なる個性をもち
羽ばたきは通奏低音のこころよさ
初秋の風は
つつしみぶかく峠をわたり
虫の声は
まるで雪のように
そこらじゅうに降っては溶ける
なるほど
たしかに
いのちがにぎやかだ
……かれは遠くの川の流れに
はるかな夢をみるような目をして、
時間の橋から降りる

ぼくたちはしばらくのあいだ、
言葉もなかった。

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