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すきなもののこと

「アイスクリームの誘惑」

わたしの恋人は、根っからの甘党。

そんなにたくさん食べるというわけでもないのに、食後のデザートは嬉しそうに食べるし、あまいカフェオレやミルクティが好き。お酒をのんでいるのにチョコレートケーキのような甘ったるいお菓子を平気で食べているときもあるのだから、ついつい、わたしは驚いてしまう。
わたしはあまり、甘いものは食べない。これは常々思っているのだけれど、甘いものを食べない女のひとは、どうしたって我慢弱くて、少し怒りっぽい。(わたしだけだとしたら、本当に申し訳ないのだけれど。)だから、そばに寛容な男のひとが必要なのだ。寛容であまい男のひとは、わたしに、シュークリームやチョコレートタルトなんかよりもずっと甘美で、ずっと穏やかな毎日をくれる、とわたしは思っている。つまり、わたしの恋人も、そうなのだ。

ところで、そんなわたしには、どうしてもアイスクリームが食べたい、と思う瞬間がある。

いったい、わたしは、『ム』だとか『ル』だとかで終わる単語がすきだ。
アイスクリーム、シュークリーム、アムステルダム。キャラメル、とか、ボイル、とか、ケトル、とか。カロナール(熱が軽くなる、という意味の関西弁が由来だとか言われる、あの、医薬品)でさえ、魅力的な単語にみえてしまう。

その中でも、アイスクリームは特別。
以前、恋人と晩酌をしているときに、ふと、アイスクリームが食べたくなったことがある。
「ねえ、アイスクリームが食べたい」
とわたしが言うと、恋人はすぐに立ち上がって、ピンク色のアイスクリームを持ってきてくれた。もう、本当にすぐに。
わたしが少しばかりのわがままを言うと、恋人はとても満ち足りた表情をする。おそらくわたしにしか魅せない、その満ち足りたあまいほほえみが、わたしはとてもすきだ。

それに、アイスクリームって、恋愛みたい。甘くて、温めたらとろとろと溶けてしまうけれど、決して消えない。ほんとうに溶けてしまって、跡形も無くなっても、べたべたといつまでもそこに残っている。ちなみに、再び冷やし固めても、もう決して、元通りの美味しさには戻らない、というところも。
 人って、冷たいときの方が甘さを感じにくいから、溶けた後の温かいアイスクリームを舐めるといつもの何倍も甘く感じるんだよ、と教えてもらったことがある。温かいと甘さを感じやすいですって!わたしは恐ろしくて、ぞっとしてしまう。

わたしにとってアイスクリームは特別。アイスクリームの誘惑には、勝てない。恋人の、アイスクリームよりとろとろに甘いほほえみに、到底わたしは勝てないでいる。


#恋愛  #エッセイ #日記

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