マガジンのカバー画像

小説「ぼくと彼の夏休み」

18
運営しているクリエイター

2020年5月の記事一覧

ぼくと彼の夏休み(14)

 夕食が終わって、ぼくと祐人は部屋に戻った。一旦はそれぞれの部屋に戻ったものの、間もなく祐人がパジャマ姿でぼくの部屋にやって来た。
「フミ、何してる?」
 ぼくは机で、詩作の手帖を開いたままぼんやりしていた。何か新しいフレーズが出て来そうで、出て来ない。そんな時間が30分くらい続いていた。
「ぼんやりしてた……」
 ぼくは手帖を閉じながら祐人に言った。祐人は早速、ぼくのベッドにダイブする。
「今夜

もっとみる

ぼくと彼の夏休み(13)

 夕刻。屋敷に戻ると、さすがにみんな起きていた。昨夜はあれだけ乱痴気騒ぎしてたのに、今夜はみんなすきっとしている。いつもの日常的な夕飯だ。
 ぼくと祐人も席につく。
 昨夜の残り物を中心に出されているのに、盛り付け方やアレンジが違うからか、残り物には見えない。トウコさんはそういう工夫がとにかく上手なのだ。
 この屋敷は人里からかなり離れているので、食材も大切に使わないといけない。庭の一角に菜園や鶏

もっとみる

「ぼくと彼の夏休み(12)」

 正午を過ぎて食堂に下りたら、トウコさんがおにぎりを作っていた。「食べなさい」とふたり分を渡されたので、それをお弁当箱に詰める。
「祐人と遊んで来ます。」
 トウコさんはニコニコ笑いながら、塩まみれの手を振った。「いってらっしゃーい。」
 ぼくの手を取り祐人が先導する。
「この間の台風で倒れて、手当てしてる薔薇だけちょっと経過観察しておきたいんだ。」
 薔薇園の入り口にある石積みのアーチをくぐる。

もっとみる

「ぼくと彼の夏休み(11)」

 それから1時間ほどして、祐人も目を覚ました。今度こそ、ちゃんと。
「フミ、おはよう……」
「うん、2回目のおはよう!」
 祐人はまだ眠そうな目をこすりながら、大きなあくびをしている。普段、仕事のある日はかなり早朝から働いているのに、休日ともなるとこんな感じなんだな。
「とりあえず、シャワーでも浴びて来たら?」
「そうする……」
 祐人はよろよろと、部屋を出て行った。ぼくは足音を立てないようにそ

もっとみる