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なれないの 【ショートショート】

 十二月下旬の日曜日、私は必ず妹の家に遊びに行く。かわいい姪っ子にクリスマスプレゼントを渡すためだ。今年も例に洩れず姪っ子との至福の時間を楽しんでいる。

「おーちゃん、おーちゃん、わたしからもねプレゼントあるの」
「ほんと? おじちゃんマジでうれしいわ」
「いまもってくる」
 たったったっと自室に戻っていく姿が愛おしすぎてたまらない。一生そのままでいて欲しいと思ってしまう。
「お兄ちゃん、今だけよ。みーちゃんが、「おーちゃん」って遊んでくれるの」
「知ってるよ、だから邪魔すんなよ。みーちゃんの清さでストレスというストレスを浄化してるんだから」
「はいはい」
 子供を産むと女性は強くなると聞くが、妹も間違いなくそうだろう。一回り二回りほど精神年齢が高くなっている。あの子を産んですぐに離婚したことも大きな要因だろう。
「てか、早く結婚して子供作ればいいじゃない。誰かいないの? 職場とか」
「余計なお世話。母親か、おまえは。いたとしても結婚するって話になるまで紹介はしないよ」
「ふーん。……じゃあ、当分ロリコンのままか」
「おい! ロリコンは止めい。ロリコンは」
 人をからかってケラケラ笑うところは変わらない。兄を兄として見ず、隙あらばいじってくる。こっちはこっちでいじられるのが当然という性格になってしまった。
 ん、だからか? 良いなと思う人はみんな明るくてちょっとSっ気のある人ばかりだ。女性の好みは妹によって決められた? というか妹みたいな人がタイプ?
 いや、考えるのをやめよう。変な方向へ行きそうだ。これは気付いてはいけないことだ。
「ママ、おーちゃん、なんのおはなし?」
「おーちゃんのお嫁さんになってくれる人がだーれもいないってお話」
「ちょっ、誰もってことはないぞ」
「ん? じゃあいるんだ、彼女」
「いや……、いないけど」
「ほらいないじゃん」
 妹とのやり取りをニィっと笑いながら見ているみーちゃんには、間違いなく妹の悪いところが遺伝している。いや、良いところか。男を手玉にとれる女は間違いなくモテる。あとは男を見る目を養ってくれれば妹のような悲しい悔しい目には……。
「おーちゃん、ずっとひとり?」
「違うよ、ママもみーちゃんもいるから一人じゃないよ」
「うん」
 やっぱりかわいい。天使だ。間違いなく天使だ。
「おーちゃん、プレゼント」
 渡されたのは幼稚園で描いたであろう絵だった。私と妹とみーちゃんが手をつないでいる。本来父親がいないといけないポジションに私が描かれていることに複雑な思いはあるが、嬉しいことに変わりはない。
 ずっと守っていこう。この二人を。もう辛い目に合わせたくない。
「みーちゃん、ありがと。大切にするよ」
 みーちゃんがにっこり笑って近づいてくる。抱きついてくれるのか、と期待したのだが違うみたいだ。
「わたしね、おーちゃんのことすきだけど、およめさんにはなれないの。だってもっとすきなこいるんだもん」
 耳元で囁きたかったであろうその言葉はしっかりと洩れていて、笑われフラれと私はダブルショックを受けたのであった。

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