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一発殴っておけばよかった(3)

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父親は自分勝手で調子のいいやつだった。担当してくれた看護師さんから聞いた話を踏まえ、そう結論付けることにした。

一つ目の話は、昨年から入退院を繰り返す中で「家族や兄弟に連絡をしたほうがいいんじゃないですか?」と看護師さんは何度も提案したくれていたらしい。しかし、なんだかんだ言って連絡はしなかったそうだ。なぜしなかったのか、その理由は今となっては知るすべもないし、勝手な想像で答えを考えてもしかたがないが、最終的に連絡するならもう少し早く連絡してくれよと思わずにはいられない。いやいや、しなかったより良いじゃん?と思う人もいるかもしれないけど、いきなり黄泉の国から戻ってきたと思ったら、そっこーで黄泉の国に帰っていかれるのも、その存在を受け入れる側にとっては中々困難なものなんですよ。しかも突然なわけで、準備するためにバックオフィスがバタバタですよ。一泊二日の短期旅行じゃあるまいし、連絡したなら責任持ってもう少しこの世にいてくれよと嘆かずにはいられない。

二つ目は「息子さんのことはFacebookでご覧になっていたようですよ」という看護師さんの一言。おいwwちょwwお前Facebook見てたんかーい!もうそこまで息子のことを見てるならどうしてさっさと連絡してこんのかい。何ロム専決め込んでんだよ、メッセージ送れよ、メッセージ送れないならせめて「親父だよ、ウェイ」とか写真付きコメント残せよ。親父は遠くから温かい視線で見守っているからとか、そういう熱い眼差しいらないから。

そして三つ目は「息子にはそんなに嫌われていないと思うんだよね」という発言。もうね、、、、、今すぐ鬼籍から呼び戻したいですわ。閻魔様、そいつやり残したことあるんです!とっ捕まえてガチの説教させてください。そして、時間の経過とともに、なに勝手に許されちゃったモードになってるのかを問い詰めたい。いやまてよ、そいや家を出てった数日後がオレの誕生日だったにも関わらず、何も買ってなかったどころか「おめでとう」の一言も言わずに駅前で罵声を浴びてどこかに消えやがって、このやろおおぉぉぉぉ、とすっかり忘れた怒りの灯火にじゃぶじゃぶと灯油を注いでくれたおかげで怒りはマッドMAXですよ。看護師さんには秒で「いや、むちゃくちゃ嫌いですよ」と返答しましたからね。

まぁ、とは言っても自分自身も勇気がなく行動できなかったこともあり、父親ばかりを責めてもいられないというのが正直なところ。どうして最初の電話で父親を信じられなかったんだろう。短い電話の時にもっと話しておかなかったんだろう。そしてどうして会って、一発殴らなかったんだろう。とそのことを自問自答せずにはいられない。

父親よ、黄泉の国から急に帰ってくるものだから、準備もできなかったしその上久々に振り上げた拳をどこに降ろしていいかわからないよ。責任とってもう一回だけ帰ってきてくれないか?そして一発でいいから殴らせてくれないか?その後は、オレも成人して随分経つし、好きだったビールでも飲みながら生い立ちや、家を出てからの生活について話してくれよ。仕事を辞めてまでハマった競馬の魅力はなんだったのか、実際に今までどれくらいの万馬券を当てたことがあるのか、ヤバイところの借金はどうなったのか、再婚を考えなかったのか、もっと禿げてると思ったらなんでそんなに髪があるのか、そんなどうでもいい話を聞かせてくれよ。きっと話したところで、父親と息子という関係には戻れなかったと思う。それでも、少しでも一緒の時間を共有することで、許し合うことができたらまた違う関係になったのかもしれないのに。

連絡遅いよ、殴れなかったじゃん。

<おわり>

#父親 #家族

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