書評(2021年1月〜2月)

1.ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

山口周さんらしいというか、「ニュータイプの時代」にも通ずる本。個人的には共感できる部分が多く一気に読むことができた。現状を独特の分析方法でしっかり捉え、古典的な名言を交えながらの論考は納得感がある。

現在は資本主義の役目は終わり、高原の地にたどり着いた。経済合理性の限界曲線内で解決できる課題はし尽くされ、曲線外の課題を今後解決していくためには、アート思考ともいえるある種の衝動が必要。そのためには、従来の「未来のために現在を手段化する」と考えるインストルメンタル的な思考ではなく、この瞬間のために生きるコンサマトリーな思考が必要。仕事によって得られる何かよりも仕事そのものが報酬となっている。この点こそがインタビューした全ての創造的な人々に共通する唯一の点だった。

私は仕事が変わるとまず新しい仕事に関わる本を何冊か読む。その中でこの仕事の目指すもの、本質を見出し、自分として携われる範囲、生み出せる価値を考える。その結果、仕事に愛情が湧き、名声や金銭ではなく楽しみが感じられる。

2.宝塚歌劇団の経営学

宝塚歌劇団のブランド戦略についてマーケティングを用いながら分析している。100年も前からある、阪急電鉄の創始者小林一三翁が作り上げたいわゆる沿線価値向上のビジネスモデルであるが、クローズな熱狂を生むビジネスモデルはかなり今っぽい。

宝塚歌劇団は劇団四季などと比較されることが度々あるが、最大の差別化要素は、「女性が演じる虚構=実在しない理想の男性像」である。ある時期、劇団としてのクオリティを上げるために賞などを狙いに行ったそうだが、ファンが離れてしまう。ファンが求めているのは、高いクオリティではない。一少女がスターに成り上がっていく成長を応援するプロセスエコノミーと、多少の不安定さを包摂したリアリティ。

企業競争の根本が品質、価格といった完成品からプロセス、世界観といった未完成品にシフトしている現代をよく表現している。STPなどを用いながらややマーケティングの講習みたいになっているところは少し期待外れ。ただ、運営主体とファンとの共創をお互いがWIN-WINになる形でよくできた設計になっている点は参考になった。

3.ランキング 私たちはなぜ順位が気になるのか?

情報溢れるデジタル社会において、一定の比較基準に基づくランキングの有効性は承知の通り。である一方、客観的なものは存在しない。主観がある程度存在したものであるという認識を持つべき。という本。

何事も可能性を鵜呑みにするのではなく、限界を知った上でうまく使っていくことは重要。本書は歴史の古いたくさんの事例を紹介してくれているが、少し本題以外の要素が多い。現代のランキングとビジネスの話があれば個人的にはもう少し満足度は高かった。

4.意思決定のための「分析の技術」

私の仕事において分析は必要不可欠。今までなんとなくやっていた分析を体系化してくれいている本。自然とできているところももちろんあるが、足りていない視点を浮き彫りにしてくれるのでバイブルとして活用できそう。従事している仕事が変わった時に読めばまた新たな発見がありそう。特に今の時代は、第8章.不確定/あやふやなものを考える能力がより必要となっているように感じる。

​判断根拠をその信頼性のレベルに応じて「法則、事実」「経験則」「推定」「意見」「想像」に分け、ある情報がどのカテゴリーに属しているのか意識する。そのうちどの種類の情報を組み合わせ、どの情報を有力な根拠として判断がなされているかを自覚すると、判断自体に幅を持たすことができる。

上記のように情報をレベルに基づいて分ける思考のクセが、今後ますます必要になると感じる。

5.人事屋が書いた経理の本

経理のプロが書いたのではなく、企業の人材研修担当者が書いたということで難しい表現は一切ない。また1978年出版の本が今なお残っているだけあってわかりやすい。P/LもB/Sも何が書いてあるのかはわかっていたつもりであるが、どう読みといていくかまでは理解できていなかったので、非常に勉強になった。

B/S、P/L、キャッシュフロー計算書がどのように関わっているのか、B/Sのどこに着目して見るべきなのかというのは長年変わっていない。図やイラストが多くイメージしやすいので初級者にはおすすめの一冊。

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