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関係性を贈られる_『センセイの鞄』

最近の文芸会で「イケオジ」や「枯れ専」という言葉が話題になりました。

面白いエッセイを書かれる彼女の、
一作が発端なのですが、
そこで紹介されていた『センセイの鞄』を読んだ方が
「すごく面白かった。泣いてしまった」
と感想を話しているところを見て、
これは私も読もう、ついに、と思ったのでした。


川上弘美さんの小説は、
こんな味がしたらいいなぁ、と思っていた味よりも少し上品で、
まったりと濃く、なのに舌にあっさりとした足あとを残す作品、
という印象です。
何作か読んでいて、そう感じていました。
今回の『センセイの鞄』もまさに。


昨日のnoteで、
書いている小説の方向というか、向かう方向というかが分かった、
と書いたのですが、その一端をこの一作が力を貸してくれました。

ああ、こんなふうに書こう。と。
文体とか、作風とか、そういうものではなくて、
空気感に混じる成分みたいなものに、
繋がるものがあるような気がしました。


高校の頃の先生と居酒屋でばったり出会い、
交流を深めていく私のお話である『センセイの鞄』は、
たくさんの美味しい料理と、
季節の空気と、
卸金、きのこ、桜、電池、センセイの元妻、
砂浜、
そういったすぐ近くにあるけれど、
時間をかけてたいせつにはなかなかできないもので出来ているように思いました。

センセイの言葉遣いがすきです。
ツキコさんの心の声がすきです。

やわらかなでこぼこを歩いていくようなお話を重ねて、
最後に贈られる関係性にじんわりと胸があたたかくなりました。

こんなふうに誰かと時間を過ごすことが出来たのならば、
これからの自分のどんな時間も彼女は大切にしていけるでしょう。

この本自体が、
贅沢なお酒を体に注いでもらったような存在でした。


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