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余情

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小説。 あなたに一目会うために十年を繰り返すわたしのお話し。
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2022年11月の記事一覧

余情 52〈小説〉

 母に連絡を入れて、今の自分の状況を説明した。彼女のことを聞かれたが、詳しくは話をしなか…

とし総子
1年前
3

余情 51〈小説〉

 私の中で、あなたが笑ってくれることがあった。やさしい笑顔で、目を細めて、うすい唇は光る…

とし総子
1年前
3

余情 50〈小説〉

 私は結局大学を卒業後、声を掛けて貰った書店で働くことにした。彼女はその頃就活の追い込み…

とし総子
1年前
1

余情 49〈小説〉

 空は透けて、風が一陣強く吹いた。朝の講義の後、私は大学内のコンビニに寄った。彩りの柔ら…

とし総子
1年前
4

余情 48〈小説〉

 新学期は穏やかに始まった。 最近は、講義でいっしょになった数人と、大学内のカフェや食堂…

とし総子
1年前
3

余情 47〈小説〉

 お正月の間、私がバイトに出てしまう以外の時間を、彼女と私は大体いっしょに過ごすことにな…

とし総子
1年前
3

余情 46〈小説〉

 あなたがこの詩集の作者のことを、話してくれたことはなかった。どうしてこの詩をあんなにも大切にしていたのかも、私は知らない。  知らなくてもいいと、思っていたのだ。あなたを、あなたという存在を知っていれば、その中身すべてなんて求める必要もなかった。私が知っていることだけで、十分にあなたは立体的だと思い込んでいた。  今更、知りたいと願ったところで、あなたはいないのだ。この詩のどの言葉に惹かれたのか。この作者の他の詩は読んだのか。どうやってこの本に出会って、そして、どうして私に

余情 45〈小説〉

 クリスマス当日は、私のバイトが終わってから、いつもよりも少し良いものを互いに持ち寄って…

とし総子
1年前
4

余情 44〈小説〉

 彼女のコートは、結局クリスマスプレゼントに私が半分を持つことで買うことになった。彼女は…

とし総子
1年前
5

余情 43〈小説〉

 クリスマスから年始にかけて、本屋は忙しかった。包装を頼まれることが増え、また図書券もよ…

とし総子
1年前
6

余情 42〈小説〉

 彼女との日々は、たゆまず続いていた。 季節は流れ、少しずつ寒さが増していく頃、彼女が新…

とし総子
1年前
4

余情 41〈小説〉

 あなたの病室の夢を見た。  私は空っぽのその中で、立ち尽くし、そして窓から溢れる空を見…

とし総子
1年前
5

余情 40〈小説〉

 夏の暑さに、窓を開けて過ごすことを諦めたのは七月の終わりだった。この夏の猛暑はあなたが…

とし総子
1年前
4

余情 39〈小説〉

 ずっと他人がいるという生活は、始まってみると思っていたほど大変ではなかった。  初日に無事全ての家具、家電は届き、それぞれの部屋での荷解きも数時間で終わってしまった。夕食の買い出しに、二人でスーパーへ出た時には、お互いの料理の腕前を白状しあい、自炊はご飯を炊くところからはじめようと決めた。できあいもののメインと、サラダは自分達で用意し、食卓としたローテーブルの上は、十分な夕食の状態をつくつることができた。朝と昼は好きにとり、夜は出来るだけ一緒に用意をし、テーブルを囲むことを