"She will make him a good wife."の文型について調査しました

先日、She will make him a good wife.という文章に改めて触れる機会がありました。基本的な意味としては、「彼女は彼にとって良い妻になるだろう」です。そのとき、この表現にそれまで強く意識していなかった特異なものを感じました。

前提として、She will make a good wife.(彼女は良い妻になるだろう)に見られるように、makeには「〜になる」という意味があり、これは受験英語レベルでも学ぶ話です。ただ、ここで次のような疑問が生じます。She will make him a good wife.は、何文型なのかということです。

She will make him a good wife.の下地にある表現がShe will make a good wife.だとすると、ここでのmakeの用法はbecomeやbe動詞に近いということになります。She will make a good wife.は、事実意味的にはSVCということにもなるでしょう。makeをbecomeやbeとおよそ置換できるからです。それを踏まえて改めてShe will make him a good wife.を見てみると、She = a good wifeであることから、既存の文型には当てはまらない形ではないかということが考えられます。SVOX(S=X)という関係性になっているためです。この疑問を解決するべく、調査を行いました。以後、この分類不能の文型を、便宜上SVOX文型とします。


She will make him a good wife.はgrammatically correctか?

質問サイトのQuoraを用いてShe will make him a good wife.の非文性について調べたところ、ネイティブの感覚としては文法的には全く問題無く、とても自然な表現だということです。一部、ややオールドファッションな言い方だという意見もありましたが、基本的には問題無く一般的に用いる表現であることが確認できました。

ここで、He will make her a good husband.とは言わないという意見もありましたので、これについてもQuoraで質問をしてみました。すると、文法的には問題無い表現だということが確認できました(つまり、この回答者は頻度としてHe will make...はあまり聞かないということを言っていたと確認できました)。

このことから、makeのSVOX文型は、非文ではないこと、したがってある程度表現に柔軟性がある言い方であることを確かめることができました。ただし、基本的にはa good wifeやa good husbandといったような言い方になることが多いであろうとも考えられます。

ちなみにネットで検索してみると、She will make herself a good wife.のように、herselfが存在していたSVOCの文型からherselfが脱落してSVCだけが残った(makeの自動詞的意味が残った)といった説明もありましたが、herselfのような長い単語が省略されるに至った理由は説明されていませんし、仮に省略されただけだとすれば、表現は化石化に近くなり、柔軟な表現とは言えなくなるだろうことが想像されます。

先人の分類

ここで手元の文法書を紐解いてみると、このmakeを安藤貞雄氏は現代英文法講義の中でbuy型(SVOO[第4文型])と定めていて、ヘミングウェイからの引用でI'll make you a fine wife.を「あたし、素敵な妻になってあげるわ」と訳しています。つまり、ここではI = a fine wifeであることが、構文解釈には影響を与えていないのです。また、she/heを主語としていないSVOXの表現でもあるため、このmakeの表現が完全に化石化したものではないことを示しています。

(また、Quoraへの回答でも、別のコンテキストでの表現が可能だという回答を得られています)

確かに、She will make him a good wife.を第4文型のSVOOとして解釈することは可能でしょう。しかしそうすると、She will make a good wife.という表現を第2文型として解釈して良いのかという疑問が生まれます。She will make hime a good wife.は、She will make a good wife for him.のパラフレーズであり、buy型の動詞はforによってSVO[第3文型](より正確にはSVOA)に書き換えることが可能であって、然るにShe will make a good wife.はSVO[第3文型]であると考える方が文型の解釈としては理に適っているからです。

She will make a good wife.が第3文型だとした場合の含意

こうしてShe will make a good wife.のような文章をSVCと解釈するのはあくまで意味的解釈によるものであると考えると、このとき、makeの本質的意味は「〜になる」ではないことが明らかになります。She will make a good wife.をSVOとして解釈することが可能なのは、「彼女は、"良い妻"というものを実現できる」というように考えれば、makeの「〜を作る」の意義から敷衍して考えることが可能です。

このことは、makeを使うとき、(getやbecome、will beのように)主語が変質/変化することが含有されていない可能性があることを示しています。こう言った場面でのmakeを「〜になる」で訳すのは苦肉の策であって、その本質は日本語には現れていない可能性が示唆されていることになります。また、make a good wifeのような表現のとき、主語は「a good wifeとなる資質や能力を有していることが含意されている」という説明も、これと無関係ではないでしょう。

以上から、She will make a good wife.のような表現を単純にSVCと解釈することには問題がある可能性があること、She will make him a good wife.のような表現は第4文型で説明が可能であること、これを踏まえるとmakeに「〜になる」という訳語を単純に当てはめることに語弊やズレが生じる可能性があること(makeは第2文型を作る動詞であると説明すると不都合があること)が確認されました。とは言え、ではShe will make a good wife.という文章をbecome的意味と差別化して日本語にするにはどうすれば良いかというと難しそうです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?