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東フィル/ニューイヤーコンサート(+角野隼斗) 感想 (2022.1.2)

2022年の"書き初め"は、初コンサートの"聴き初め"の感想(笑)渋谷は14時時点で気温は8度、冬晴れの青空が美しい(ヘッダーはオーチャードホール正面入り口の横)。

初コンサートは、角野隼斗さんが出演する東京フィルハーモニー交響楽団(以下東フィルと略す)のニューイヤーコンサートで、渋谷のBunkamuraのオーチャードホールに行ってきた。以下敬称略。 

時間になって、入場してきたオケの女性の奏者の皆さんが色とりどりのドレスに身を纏い、舞台が一気に華やいだ。その後、角田マエストロは羽織袴姿で颯爽と登場した。オケの配置はドイツ式(チェロが内側)。

指揮:角田鋼亮
ピアノ:角野隼斗*
司会:朝岡聡

J.シュトラウスII:喜歌劇『こうもり』序曲
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 第1楽章*
エルガー:行進曲「威風堂々」第1番
ラヴェル:ボレロ
<お楽しみ福袋プログラム>ほか
東フィル HPより

J.シュトラウスII:喜歌劇『こうもり』序曲

羽織袴姿のマエストロが、早速指揮棒を振ったのはウィーンニューイヤーコンサートでもお馴染みの喜歌劇のこうもりの序曲。

年初めに相応しい、威勢の良い序奏の後、オーボエが柔和な旋律を奏で、喜歌劇の中に登場するさまざまな曲、アリアやポルカ、ワルツなどが次々と引用され、オペレッタの物語や実際の舞台が脳内に浮かんでくる。オケの女性奏者のカラフルなドレスが視覚的にも曲を盛り上げてくれる。途中、有名な鐘の音が6回(主人公が刑務所の所長と飲み明かして聞こえてくる朝6時を知らせるもの)が鳴ると、オペレッタの続きを思い出して、申し訳ないけど、笑ってしまった。

終盤はこれまで引用された旋律が賑やかに繰り返され、宴はまだ続く雰囲気の中で終わった。昨夜はテレビの画面からウィーンニューイヤーコンサートで序曲を観たが、今日は大ホールの左側ブロックの通路側、9列目(実質的に4列目)から観たので、迫ってくる音の波により感動した(以下は予習した動画の一つ)。

新年の挨拶

こうもりの序曲が終わった後、司会の朝岡が登場し、新年のあいさつ。結果を見届けられなかった観客に、駅伝の順位を10位まで読み上げ(会場も笑いの渦に・・・)、元アナウンサー魂を見せつけた。

角田マエストロは、羽織袴姿での指揮は初めてだったようだが、寅年ということでトラいしました、と挨拶(以下のツイートは公演後にマエストロがUP)し、会場から拍手が!袴は問題ないが、羽織りの方は袖が少し重く感じるようだ。確かに、指揮者は腕を上げたり下げたりするから、羽織の袖は通常のジャケットより負担になるだろう。でも、新年を盛り上げようとして下さった心意気が素敵!

ボロディン:歌劇『イーゴリ公』より”ダッタン人の踊り”

お楽しみ福袋プログラムで事前投票の結果、4位になった曲として、ダッタン人の踊りが紹介され、演奏された。オーボエの美しい旋律、フルートとオーボエとの掛け合い、素晴らしかった!大ホールでオケバージョンを聴けて嬉しかった。

ソリスト・角野の紹介

その後、司会者は角野の紹介をした。3歳からピアノを始め、開成中学高校を経て、東京大学と大学院に進学。本格的な音楽活動は大学院の時から。10月にはショパンコンクールに参加し、セミファイナリストになられました。と言ったような内容だったと記憶している。

(期待を込めて一瞬目をつぶってみたが)羽織袴姿ではなく、(ショパコンで見慣れた)タキシード姿で角野が舞台に登場し、万雷の拍手が湧き起こった。久しぶりの大ホールでのコンチェルトのためか、幾分緊張気味の面持ちに見えた。

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 第1楽章

アレグロ・ノン・トロッポ・エ・モルト・マエストーソ―アレグロ・コン・スピリート

チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番(以下チャイコンと略す)の生演奏を聴くのは、昨年8月の角野の読響との共演以来(この時の感想はこちら。チャイコンの曲の背景等にも触れている)。

ホルンの力強いフレーズで序奏が始まり、弦楽器も奏で始め、次に、角野が華奢な身体で、まるで大きな鐘そのものになったかように、全身の力を振り絞って、重厚な和音を大きく鳴らす。鐘の音とともに、私の目の前の第1ヴァイオリンと、ピアノ奥のチェロが主題の旋律を奏で始めると、高揚感が高まっていく。ウ国の民謡が引用されていると言われる第1主題と美しい旋律の第2主題が繰り返し登場し、曲が盛り上がっていく。第2主題のクラリネット、美しかった。しばらくして、角野の表情も少し柔らかくなったように見えた。ピアノが主で奏でられる部分は、角野らしく歌っていて、読響の時よりも力強い部分が増していた気がした。低音域は時々、チェロやバスのような低音弦楽器みたいな深みのある音色が出ていた。読響の時は、オケと並走する部分、ピアノの音量が少し小さい気がして聞こえにくく感じる時があったが、今日は角野のピアノの音量は、60人ものオケ勢に負けておらず、とても良いバランスだった。

展開部では前半より、角野のピアノと管弦楽との掛け合いが激しくなっていき、2つの主題が交互に現れ、荘厳なハーモニーが大ホールに充満していき、観客席も高揚感に包まれていった。こういう掛け合い部分は、角野が得意な部分と思うが、鍵盤を舞う手が見える席からは、オケと対等に渡り合っている緊張感がみなぎる瞬間がつぶさに見え、こちらも興奮して来る。

再現部では、角野は、繊細な音色、キラキラ輝くような高音も聴かせてくれ、あー、2楽章が聴けないのは残念すぎる。。と思いながら、ここで、2楽章分も含めて、角野の佇まい、指の動き、微弱音を堪能する。森の中の小鳥のさえずりのような高音域の音色を聴けた瞬間は極上のひとときだった。あまりに美しくて、まだ終わらないで!と祈ってしまったほど。

次第にピアノと管弦楽が並走して、壮大なカデンツァに入る。第1楽章の最大のピアノの聴きどころに入ったら、終わりを覚悟し、1音も逃さぬように聴きいる。先程の掛け合いよりさらに速度が上がっていくが、絶妙なバランスで合わせていく、時にオケを引っ張っていく(ように見えた)角野の姿に読響の時よりも余裕を感じた。

コーダの手前の美しいフルートの独奏の後、1番最後の駆け上がっていくところのオケとの最後の掛け合いはもう圧巻!!年初めに素晴らしいコンチェルトを聴かせて頂いた。

以下は予習動画例のAnna Fedorova (ウ国、2009年 ルービンシュタインコンクール優勝、2010年ショパコンでは2次予選まで)の演奏。アルゲリッチも認めた実力の持ち主。

司会者と角野のやりとり

大きな拍手に応え、何度か深々とお辞儀をし、袖に消えた後、しばらくして司会者とマイクを持って舞台に再登場。以下は記憶にある範囲でやりとりを再現してみた(話の順番の間違い、何かのやりとりの漏れがあるかもしれない)。《》内は私の感想。

司会: 角野さん、ペットボトルの水を半分くらい、一気飲みされていましたよね(会場から笑いが起こる)。

角野: すごく喉が乾くんですよ。全身を使って弾いたので。

司会: 年初めにチャイコフスキーのコンチェルト(以下チャイコンと略す)を弾けたのはいかがでしたか。

角野: チャイコンを弾いて、年初めを迎えられたのは最高でした。良い一年になると確信できた気がします。

司会: 角野さんはYouTubeでも活躍されていて、ショパンコンクールも世界に配信され、結果も瞬時に発表されたり(途中、記憶があやふや)。コンクールでの演奏はどんな感じでしたか。

角野: 普段から(YouTubeで配信を)やってはいますが、コンクールでは何万人も観ていると思うと、すごく緊張しました。

司会: コンクールでは、どんなことを意識して弾きましたか。

角野ありのままに弾きたいと思っていました。実際は難しいんですが、そういうことに挑戦できて良かったと思っています。

司会: ショパンコンクールに参加されてからの世界は変わりましたか。

角野: (頭を何度も横に振って)いえいえ、何も変わっていません。これからも、一歩一歩歩んで行きます《こういう控えめなところが、本当に素敵です》。

司会: マイクの持ち方も真っ直ぐで、大学院は理系だとお聞きしてますし、そのような持ち方も学ばれたのですか(会場から笑い)。

角野: (少し照れながら)いえ、昔から、マイクはこのように(真っすぐにしか)しか持てないんですが、(おっしゃって頂いたように)そうだった(大学院で学んだ)ことにさせて頂きます(会場から笑い)。

司会: 最近は紅白にも出られ(会場から拍手)、素晴らしかったですよね(会場から拍手)。ここでアンコールのお年玉をお願いしてもいいですか。

角野: いいですよ。

司会: 何を弾いてくださいますか。

角野: (少しだけ考えた感じで)チャイコフスキーつながりで「金平糖の踊り」を。

司会: くるみ割り人形のですね。それではよろしくお願いします!

アンコールお年玉: 金平糖の踊り

金平糖の踊りが始まると思いきや、「春の海」(参考動画はこちら)を弾きだす角野。普通には弾かない、何か面白いことをやってくれると思ったが、まさか冒頭から(笑)会場からは「え?」「何?」と言っているような、静かなどよめきが起こった(ような空気を感じた角野ファンは私だけではないだろう・・・)。暫くして「春の海」から「金平糖の踊り」にとても自然に繋げていき、途中からは控えめながら、Cateenはジャズっぽいアレンジも加え、時にリズムをレイドバックさせたり、自由に弾き始めたが、YouTubeの生配信の時よりは控えめ。まさか、こんなお年玉を聴けるとは!!

エルガー:行進曲「威風堂々」第1番

20分の休憩を挟み、お待ちかねのエルガー。私事で恐縮だが、2010年、英国の大学院に留学した際、幸運にも夏のクラシックコンサート「BBC Proms」の最終夜「Last Night of the Proms」のチケット(超高倍率の抽選)を当てたことがあり、そこの第2部の最後に、威風堂々(英国では「Land of Hope and Glory(希望と栄光の国)」と題される)を隣の方々と肩を組みながら歌ったことがあるため、この曲は非常に思い出深い。

マエストロは羽織を脱いできて、少しだけ身軽になって登場した。生の威風堂々は迫力があって、良かった。前向きになれる。以下は、2014年のBBC PromsのLast Nightの威風堂々の動画。

J.ウィリアムズ/スター・ウォーズよりメイン・タイトル

冒頭、司会の朝岡さんが、お楽しみ福袋プログラムの1-3位になった曲として、①パッヘルベルのカノン、②チャイコフスキーの花のワルツ、③スター・ウォーズを紹介し、観客には、①から③のうち、いずれかに、入場時に受け取ったサイリウムを振って欲しい、振られたサイリウムの数が多かった曲が演奏されると説明した。が、③の曲紹介の際、熱のこもった解説を付けたのもあってか(笑)、圧倒的多数で③に決まった。

映画音楽のオケバージョン、全体の壮大なハーモニーは言うまでもなく、管楽器や打楽器パートの迫力が素晴らしかった。

ラヴェル:ボレロ

ボレロというと、私(フラメンコ舞踊の経験有)の中では、シルビー・ギエムの最後の日本公演、スペイン国立のフラメンコ版の踊りの印象が強い。

スネアドラムの同じリズムが最後まで延々と繰り返されるなか、さまざまな楽器が2つの旋律を繰り返し弾いていく様子を、フルオケのバージョンで聴くのは久しぶりだった。楽器が増えて、壮大なハーモニーに発展していくのを聴くのは楽しかった。ラストで突然転調するところ、知っていても、オケ版で聴くとその唐突さに驚く。これを聴くと、3年以上、行けていないセビージャに行き、夜な夜なフラメンコを観る旅をしたくなった。以下の動画も前出のBBC Promsの演奏。

福袋の抽選会とラデツキー行進曲

さまざまな豪華な抽選会(八海山、商品券、豪華な旅など)の最後に、ラデツキー行進曲の指揮をする抽選会があり、ここに角野が呼ばれ、透明のボックスに入った抽選券の1枚を引くように言われる。司会から「オケとの2回目の共演です」と言われると、笑みを浮かべて「2回目の公演ですね!」と相槌を打ち、透明のボックスに片手を突っ込んだが最後、なかなか引こうとしない。この間、ドラム奏者は(内心、ま、まだかなぁと思いながら)効果音を鳴らし続け、観客席は角野のじらす姿に何でも大笑い。司会に「なかなか引きませんねぇ」と笑いながら声をかけられると、ようやく1枚引き出し、高く掲げて、その券に記載された席番号を読み上げた。1階席後方の方が当選されたようだ。

当選した男性が舞台に上がってきて、司会者の質問には「音楽にはあまり詳しくない」と謙遜して回答。マエストロから、2拍子の指揮棒の振り方を習った後、指揮台に上がり、ラデツキー行進曲の指揮を始めた。演奏の最中、マエストロは、舞台の上手から、観客席に手拍子のタイミングを知らせる役目、司会と角野は舞台の下手に立ち、演奏を見守る。手拍子のタイミングで、角野はまるでシンバルを打つかのような手拍子をしていて、その姿が何だかとても微笑ましかった。

終わりに

9列目(実質4列目)は前過ぎて、ほぼ傾斜のない前方席からはオケは前方しか見えず、管楽器や打楽器は、音で判断するしかなく、奏者の姿が見えない。読響の時の東京芸術劇場の方が傾斜がある分、オケがもう少し見えた記憶がある。

角野がソリストで出場される時は、鍵盤を舞う手も横顔も見たいので、ついつい前方席を取りがちだが、オケの音色をバランスよく聴くためには、本当は真ん中から後方や2階席前方がいいことは分かっている。。

角野のコンチェルトを聴くのは、昨年8月の蒲田で開催されたショパンピアノ協奏曲1番のコンサート以来だった。10月下旬にショパン国際ピアノコンクールでセミファイナリストとなり、その後はヨーロッパで会いたかった音楽家に会い、帰国後はさまざまな音楽家とのコラボ、テレビやラジオ、新聞や雑誌などメディアの露出が激増し、本当に多忙に見えた。が、集中力があり、時間の使い方も天才的なのだろう、また、ショパコンやその後の経験が自信につながり、8月以来のチャイコンを素晴らしい状態に仕上げて披露してくれ、改めて角野のすごさを実感し、私も前向きに自分がやるべきことをやっていこうと思えるようなパワーを貰えた。

以下は東フィルと角野のツイート。

(終わり)


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