大切なものを探しに(中編)
10月9日、ナントから長距離バスでボルドーへ向かった。40人乗りほどのバスには私も含め客は20人ほど。観光、仕事、さまざまな目的でボルドーへと向かう顔ぶれはさまざまだった。
ぶどう畑を横目にボルドーへ、昨日までの興奮がまだまぶたに残る。アルゼンチンとの試合で勝っていれば、今頃マルセイユだった。何がどうなるかわからないこのW杯取材。決勝トーナメントは、あえてパリを選んだ。マルセイユに向かえばきっと「ここで日本代表が戦っていたら」と思うはず。ないものをねだってもしょうがない。ボルドーでゆっくりする、つもりだった。
ボルドーの中央駅にあたるSaint Jeanからバスで20分ほど、中庭が素敵なドミトリー(Bloom Hostel Bar & Garden)で決勝トーナメントが始まるまでの5日間を過ごすことにした。
写真の整理、コラムの執筆、昼間から少しだけビールを飲みながら約1ヶ月の戦いの記録を整理する。プール予選は日本戦を含めて12試合を撮影した。どれも昨日の様に思い出すことができる試合ばかりだった。
あの時ああすれば、この時こうすれば…
ボルドーの青空の下で、写真を眺めているうちに、ラグビーが撮りたくなった。この1ヶ月間、5日も何も撮らない日はなかった。X(旧ツイッター)で「Bordeaux」「Rugby」と入れると、UBB(Union Bordeaux Bègles)のアカウントを見つけた。
ポストを読み進めていくとその日に市内のオフィシャルショップで選手のサイン会が行われることを知った。宿にいると快適すぎてなかなか外に出る機会を失う。ボルドー散策も兼ねてショップへと向かった。
ガロンヌ川沿いのショッピングモールにそのお店はあった。カフェとバーを併設した居心地の良いショップで買い物を済ませて、バーでビールを頼んだ。それが当たり前と言わんばかりに、大きな店員と小さな店員がカウンターの中でボールをパスしている。グラスに当てたら大変だろうなと思いながら、笑っていると選手のサイン会が始まっていた。
サインをもらうと列をなす親子連れの目は輝いてた。憧れの選手が目の前にいる。それだけで夢の様な時間だ。気さくにサインと記念写真の撮影に応じるThomas Jolmes選手とLekso Kaulashvili選手。平日の夕方にこんな身近な場所で選手と会える。ラグビーとの距離の近さを感じた。
サインが書かれた旗を嬉しそうに振りながらガロンヌ川沿いの遊歩道を走る男の子。こういう嬉しい記憶がきっとスタジアムに足を運ぶきっかけになる。そう思った。
「試合にはいくの?」
バーで2杯目のビールを飲んでいると大きな店員(Bastienさん)に聞かれた。試合とは…、調べると13日、ボルドーを発つ前日夜にTOP14のUBBとRacing 92の強化試合があるとのこと。UBBには8月、東京サントリーサンゴリアスからテビタ・タタフが移籍していた。未来の日本代表を担う可能性を秘めた選手だ。
もしかしたら出るかも…、何の根拠もなく不思議とそう思った。UBBのホームページから問い合わせ先を見つけ、タタフの出場可能性、そしてその場合の撮影の許可申請をメールで問い合わせた。10月10日午後7時のことだった。
これからも活動を続けていくため、よろしければサポートをお願いします!いただいたサポートは取材活動費に使わせていただきます!