竜とそばかすの姫「ガチネタバレになってもあれこれ言いたいこともあるんじゃ―!」編その1
前回、上記のnoteで「竜とそばかすの姫」についてレビューしています。ほぼネタバレなしなので、未視聴の方は上の記事だけご覧になることをおすすめします。
今回は容赦なくネタバレしていきますので、視聴済みの方向けです。
なお、かなり辛口なことを書いていきますがあくまで個人の見解であり、細田守監督のことも同郷の方として応援したい気持ちの方が強いです。
大丈夫ですか?
ネタバレガチこみ感想スタートです
「竜とそばかすの姫」は映画館で観るべきか?
これにつきましては、映像美と音楽は映画館で観る価値あり。
大スクリーンでみるからこそ、仮想空間<U>の素晴らしさが体感できます。3Dではないのに、<U>の世界を目の前に感じるはずです。
音楽も、歌は本当に聞きごたえがあって全集中すること間違いなし。
私は歌を聞いてマクロスFのシェリル・ノームを思い出しました。それくらい歌声が力強かったのです。
しかしストーリーに「ジブリ」や「ディズニー」レベルの完成度を期待していくと伏線回収率の悪さにもやっと感が残ります。
ストーリーについての評価
ストーリーの評価について探りを入れると二極化していることがわかります。
・考察してストーリーを深く味わうことが好きなタイプには高評価が多い
・純粋にストーリーを楽しんでラストに満たされたいタイプには低評価が多い
ストレートに言ってしまうと「竜とそばかすの姫」は王道ストーリーから外れまくっているので、大衆向け作品として仕上がっていないように思います。
意図して王道から外したのかもしれませんが、数十年たっても愛される作品となるかどうかは微妙です。
「竜とそばかすの姫」の構成
第一幕 碇シンジがシェリル・ノームになって歌姫無双する
ネガティブでトラウマのせいで歌えなくなった鈴が、仮想世界で世界的な歌姫ベルとして注目されまくる
第二幕 いきなりまんま美女と野獣が始まる
・歌姫ベルのコンサートに醜い嫌われ者の竜が乱入、仮想世界で治安部隊ごっこをしている正義の人が『50億人以上が集うインターネット上』で竜の中の人の正体を晒そうとする
・竜の正体が気になったベルが、竜と心を通わせたくて歌って踊る
第三幕 児童虐待の現場に女子高生が単身で乗り込んでいく
・『50億人以上が集うインターネット上』で竜の正体が晒される前に救済しようとする鈴たち
・竜の正体が虐待を受けている子供だとわかり、虐待現場に女子高生の鈴が単身で乗りこむ
・虐待親と対峙して虐待されていた子供たちと抱き合って涙を流す鈴
「竜とそばかすの姫」で監督が伝えたかったことはいったいなんだったのか?
「竜」の正体とラストの流れで児童虐待がテーマだと思っている方も多いようですが、私は違うと思っています。
児童虐待をテーマにするなら、もっとそこに焦点を当ててストーリーを作っていたはずです。
今作におけるメインストーリーは「見ず知らずの子供を助けて死んでしまった母親と同じ立場に立つことで、鈴が母親の死を乗り越えて自己肯定感を取り戻し、生きる力も取り戻すこと」です。
鈴にしてみれば母親が他人の子供を助けるために自分を置き去りにしたわけですから、鈴の心の傷は相当なものだったはず。
母親が自分よりも他人を選んで死んでしまい、ネット上では子供の命を救って死んだことを「自業自得」「馬鹿な行動」と中傷するコメントが並び、鈴はますます「母親の行い」について苦悩します。
母親はなんのために見ず知らずの子供を助けて死んでしまったのか?
ネット上の中傷コメントと自分を置いていった母親に対する恨みつらみもあったはずです。
母親の死が鈴に与えた傷は「自分が無価値なのではないか?」との思い。アイデンティティの根底が揺らいでしまいます。
母親の死を自己責任論、自業自得論で扱われるということは母親の行いは無駄死にだったといわれるようなものです。
しかも鈴は「行かないで」と母親に泣いて縋っていたのに、母親はその言葉を振り切って他人を助けにいってしまいます。
この過程で、母親は実の娘ではなく見ず知らずの子供を選んだことにもなるわけです。これだけの仕打ちを受けたら子供の自己肯定感がズタボロになっても仕方ありません。
そんな鈴が母親と同じように、見ず知らずの虐待子を助けるために児童虐待の現場に単身で乗り込んで行き、虐待親から虐待子を守ってフィナーレとなった時、言葉では言いあらわせないほどのやるせなさが残りました。
ああ、メインテーマの他にいろいろ詰めこみすぎてまとめられなくなったんだな…と。
おそらく細田守監督は「ひとりぼっちじゃないから大丈夫だよ」と苦しんでいる子供たちにエールを贈りたかったのだと思います。
すでにメッセージは劇場用ポスターに書かれていたのです。
ですがテーマとしては漠然とし過ぎている上に、伝えたいことも多い。
結果、主軸が定まらず行き当たりばったり感の否めない仕上がりになってしまったような気がしてなりません。
他にも伏線回収率の悪さが痛手となったことは言うまでもありません。
それでもこれだけオマージュしていろいろ組み合わせても、駄作だとは思わせないところが細田守監督のすごいところだと思います。
次回に続く…かも
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