アキザクラ図書館 4冊目『死神の浮力』

『死神の浮力/伊坂幸太郎』

【あらすじ】
娘を残虐に殺された小説家の山野辺は苦しみのなかにいた。著名人であるが故にマスコミからの心無い取材に晒され、さらに犯人とされていた男・本城が第一審で無罪になったのだ。

しかし、山野辺は彼が犯人であることを「知っていた」。 彼はサイコパスと呼ばれる反社会的人格者で、 自分が犯人である証拠を、山野辺宛てに送ってきていたのだった――。

控訴の猶予期間は二週間。山野辺とその妻、美樹は一時的に自由の身になった本城を探し、動き始める。そこに千葉という男が現れ「本城の居場所を知っている」と言う。

山野辺夫妻は半信半疑ながらも、この妙な男と行動を共にすることにする。山野辺夫妻・千葉チーム対サイコパス本城の勝負の行方は? 今回、千葉が「担当している」のは誰なのか? そして調査の結果は?

【感想】
『死神の精度』の続編。とは言うものの、物語の主人公(狂言回し?)である死神の千葉が引き続き登場するくらいで、前作を読んでいなくても話はわかる。「あぁ、あのときのあの人ね」と繋がりに嬉しくなることはあれど置いていかれることはない。私も前作を読んだが恥ずかしいことに内容は覚えていない。それでも十分に楽しめたのでまぁ大丈夫だろう。

さて、本を開くと文字がびっしりと埋まっている。これだけで『読書』が生活の一部でない人は嫌気が差してくるはず。それでもめげずにたったの数行ほど読んでほしい。すぐに会話の軽妙さ、犯人への怒りによる登場人物への感情移入。伊坂幸太郎なら「必ず最後に爽快感を与えてくれる」というカタルシスの信頼。あっという間に物語が進んでいく感覚は、まるで自分が読書家になった気分になって最高だ。

25人に1人のサイコパスが仕掛ける支配ゲーム。それに立ち向かう娘を殺された夫婦。弱みを握られた者、小説家のファン、スクープを狙う者。様々な人間が、様々な立場で、様々な思惑を持って一つの『結末』に収束する。

次の言葉を。次の物語をとページをめくる手が止まらなくなる。犯人の結末はある意味で残酷だったが、それでもどこか爽快感を覚えてしまうのが怖くなった。自分の中の道徳や死生観の標識が間違っているんじゃないか。人が人を裁く恐ろしさと覚悟をまざまざと見せつけられてしまった。

読み終わったあとで思ったのが、この小説は1週間の出来事が1日1章で描かれている。逸る気持ちを抑えて1日1章で読むのを終えて、1週間後にちょうど読み終わるのも面白かったかもしれない。とにかくそれほどまでに物語への没入感が凄まじいのだ。

集中して、集中して、集中して。読後には気持ちのいい倦怠感が訪れる。死神に魂が抜かれたようにふわふわする感覚は、まさに『死神の浮力』なのかもしれない。

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652