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秋を病む。

1.彼女について
本当は全編公開でもいい気がするけど、まぁ、その子にわずかでも還元できるならという思いで一部だけ無料公開とします。あまり外側に向けた話でもないし、誰彼かまわず読めても困るだろうから、そういうことでお願いします。

彼女とは幼いころから縁があった。それをどういった名前で表せばいいのか言葉は見つからないけど、とにかく、彼女が生まれる前から自分は彼女のことを知っていた。それくらい長い付き合いだ。

彼女は昔から人の機微に疎い子だった。疎いというより、敏感が故に厄介だったのかもしれない。いわゆるスクールカーストの最上位で、悪くも酷くも暮らすの中心人物で、いじめの首謀者だった。被害者は彼女の幼なじみだ。どこで糸が絡んで、どこに綻びがあったのかはわからないけれど、そこに淀みはあった。

正確な日は覚えていない。そもそも、最初から知っていたかは定かでないけど、彼女の幼なじみがトラックに轢かれたそうだ。視界を遮るようなものなんてない片田舎で轢死。トラックが迫っていることなんて気付きそうなものなのに、だから、自殺なのか事故なのかは本人にしかわからない。本音を訊ねる相手はもうこの世にいないけど。

結果がどうであれ、死の終着点は彼女に向けられる。彼女のいじめがあったから。どこいも居場所がなかったから。だから幼なじみはトラックに飛び込んだのだと。誰も言わないけれど誰もがそう思っていた。思っていたと思い込んでいただけかもしれないけれど。彼女を非難する同級生達も同罪だろ。とは口が裂けても言えない。

「因果応報は全自動ではない」とは誰の言葉だったか。幼なじみを亡くした遠因を作った彼女に、報いを与えるための歯車になった同級生達が今度は彼女を恨む。「自分は主犯じゃないから」「自分は見てただけだから」と正当化するために。これも妄想なのかもだけど。いつからか中学校に行かなくなった彼女は、ある日「面白い遊びがあるの」と一緒に図書館へ赴く。内心「図書館は本を読むだけの場所だろ」と思いながら机に座る。

「相手が好きそうな本を選んで相手に渡す。渡された本の中から、相手が好きそうな文章を教えて伝える。たぶん、他のどの言葉よりも好きになるよ」と彼女から提案されて、なんとなく彼女が好きそうな本を抜き出す。小説なんて好きじゃないのに。

今となっては作者もタイトルも思い出せない本を渡して、渡されて。その中から彼女が好きそうな文章を伝えて、伝えられる。このときからしっかりと日記を付けていれば思い出せたかもしれないのに。当時は思い出になんかするつもりはなかったけど。

「この文章、ずっと覚えててね。なんか私が秋助君に思っている感情と同じ気持ちだから」と言われた文章は、もうとっくに忘れている。探しても探しても探しても、夏休み最終日の日記帳みたいに、記憶はどのページも白紙だらけだった。

2.彼女の自殺
ある夜、彼女から電話がかかってくる。他愛もない話をして、ふと「月、すごく綺麗」と少し高くなる声に釣られて夜空を見ても、その日は曇り空で月が見えなかったことはなぜか鮮明に覚えている。「私っておかしいのかなぁ」「おかしいよ」「死んだ方がいいのかも」そう言って、ころころと笑っていたから冗談だと勘違いしてしまう。

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652