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親友の話 ~そこにいてくれるだけで~

私が中学時代、一般的には不良と言われる人だったけど、とても仲良くなり、親友と呼べる間柄となった。


その友達は、私が失恋した時、いきなり電話をかけてきて、「今から行くわ」と言って、深夜にもかかわらず、家に来てくれ、一晩中自分のそばにいてくれた。


その親友は、自宅にきても、テレビゲームしたり、漫画を読んだりするだけで、特に私に話も聞かなかったし、ほんとにただいるだけだった。


でも、私はそれが嬉しかったのだ。おそらく、話し合って解決しない事はわかっていて、あえて聞かず、ただひたすらそこにいてくれたんだろう。


その翌日、学校休みだったが、朝からたたき起こされ、「おい行くぞ」と。ついていくと、そこは学校のグランド。彼がサッカーボールを出して、「今日は1日中サッカーするぞ。」と言って、サッカーする用意を始めた。


私は何も聞いていなかったので、サッカーの道具、何も持っていないことを伝えると、「なんで使えねぇな」と言いながら、「それやる」と言って、使い古したスパイクを私に渡してきた。


そのスパイクは、かなり人気のモデルで、彼が気に入ってよく手入れをしていたものだった。「大切に使えよ」彼はにこっと笑うと、「早く来いよ!」コートのほうに駆け出していった。


私は、彼の優しさが染みた。彼は無言で、「大丈夫、お前がだめな時は俺がいる」と言ってくれているようだった。


その日は本当に、昼食を食べるのも忘れ、夕方まで、ボールを追いかけた。途中、サッカー部の仲間も合流し、ゲームもできた。


私の普段着は泥だらけになった。でも、気持ちはすがすがしかった。ーそうだ、僕には仲間がいる。心からそう実感できた。


友達に辛いことがあったりすると、すぐに大丈夫と言ったり、慰めたりするけれど、何も聞かれたくない時ってあると思う。


今の自分にとっても、その見極めは難しいけど、彼は、その時の私の状況を見て、無言で、「ただいるだけ」をしてくれた。


それは、私の消え入りそうな気持ちを、やさしく包みこみ、そっと、大丈夫だぞと伝えてくれたようであった。

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