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親友の話 ~恩返し~

私が失恋したとき、一晩中無言でそばにいてくれ、救ってくれた私の不良の友人が、窮地に陥った。


彼の属していた不良グループが、巷で問題を起こし、その時関わっていなかった、彼の家にも、調査の手が伸びた。


不良グループの仲間が、彼を裏切り、彼を売ったのだ。問題は、その後ー。彼の母親が、「あんな子達とつるむからよ!あんな不良と!あんたもどうせやったんでしょ?警察にでも何でもいっちゃいなよ!」


彼は家を飛び出した。悲しかったのだ。彼の大切に思う、母親が、周りの情報だけを信じ、自分の話を聞かず、自分のことを信じなかったことをー。


彼は以前言っていた、「俺が働けるになったら、めいっぱい働いて、たくさん稼いで、母ちゃん楽にさせるんだ。良い生活たくさんしてもらうんだ。俺、今まで苦労かけてるから」、その母親が自分のこと信じてくれない。


彼の行動は刹那的だった。どこから持ってきたのか、木刀を持ち出し、家のドアや壁を散々に叩き、穴を開け、ボロボロにしていった。彼の心の中を、表現するかのように。


彼はどこからか、離婚して出て行った彼の父親に使っていたワープロを取り出し、文章を書いていた。文章にはこう書いてあったー。


「俺は堕天使。羽のない、堕ちた天使。もう望みは無い。この世界は闇だ。」


悲しかったろう、辛かったろう。今こそ自分があの時の恩返しをしなくてはならない。そう感じ、私は、彼が嫌がるのも気にせず、彼の家にあがりこんだ。


学校も何日か休んだ。彼と一緒に。私は、彼と一緒に過ごした。無言で。漫画を読んだり、テレビゲームをしたり。これが正解かはわからない。


ーただ私は、こうせずにはいられなかった。私の大切な人を、私の命の恩人を、今一緒になければ、失う気がしていた。


学校なんて何日休んでも構わなかった。誰に何を言われようと構わなかった。私はこの時、ただただ、彼のそばにいたかった。何もできないけれど、彼のそばにいたかった。


何日経ったろうかー。彼はおもむろに、「わかったよ。行こうぜ」と言って、外に出て行った。私はついていった。彼は、「コンビニで飯買ったら行こうぜ」


時間は朝6時。あ、学校に行くんだ!そう気づいた。


彼は、今まで休んでいたなんて、全然感じさせないように、普段通り仲間と接し、普段通り、授業は居眠りをしていた。


その普段通りが、私は嬉しかった。やっと少し動き始めたんだと。彼の時間は、少しずつ動き始めることができた。


学校から帰る時も、私は彼と一緒に帰った。「今日は自分ち帰るわ」そう彼に伝えると、「おう、わかった。じゃあな」


彼と別れようとすると、彼は私を呼び止めた。「あの時は…ありがとな」うつむき加減に、彼はそう私に伝えた。「おう」私は答えた。


もう何を言わなくても、すべてが伝わった。とりあえずもう大丈夫、私は安心して帰宅した。


今回の事が、恩返しになったかはわからない。ただ言えるのは、私がそれをやらずにはいれず、ただひたすらに、私のこみ上げる感情に沿って、ただただ彼の隣にいたというだけ。


だけど、あえてこのタイトルを「恩返し」とつけておきたい。少なくとも私は、この時はきっと彼にあの時の恩を返そうと必死だったはずだからだ。

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