三日坊主のクレーター【毎週ショートショートnote】
「よお、五郎さん。何やってんだ、もうすぐ日が暮れるぜ」
雨上がりの田んぼの畦道に座って煙草をふかしていた五郎は、ひょいと振り返った。
「何だい、五郎さんの田んぼ、あちこち穴だらけじゃねえか。猪が山から下りてきて掘りでもしたか」
五郎はぷっと煙草の煙を吐き出した。
「いや、猪じゃねえ。うちの孫だ」
「孫? ああ、都会から遊びに来てたっちゅう坊主かい」
「田んぼが珍しいのか、散々泥遊びしよってな。ちっこいスコップで穴掘ってこのザマよ。まあ子供のことだ、すぐに飽きちまったがな」
やがて日が暮れ、あたりは闇に包まれた。田舎の里だ、夜になると月明かり以外にあたりを照らすものとてない。
「ああ、今夜は満月か」
五郎は田んぼを見つめて呟いた。
あちこち掘られた穴に一日中降った雨がとっぷり溜まり、そのひとつひとつに空の月が浮かんでいる。泥だらけの昼間と違ってきらきらと光る田んぼは、まるで満月の花畑のようだ。
「いつかこいつを見せてやりてえな。また遊びに来いよ、サトル」
五郎は遠い夜空を見上げると、また煙をぷっと吐き出した。
(445字)
【あとがき】
甘口? ほう、そうですか。そう言えば、誰かが何やら仰ってましたね。「中華は辛いから無理と駄々をこねたら、韓国かエスニックが出てきた気分」って。何とも言い得て妙です。食べられるものだっただけ、まだマシってことかしら。
その甘口の表お題で、思わず唸っちゃうような作品がどばしゃーっっっと出ちゃったので、こそこそと裏の世界に入り込んだ秋しばです。
まずい、また沼に落ちる……。
*この記事は、以下の企画に参加しております。
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