見出し画像

素うどんは何か?

リクルートでの新規事業開発で、よく聞かれる問いに「素うどんは何か?」というのがある。これは「何が一番重要なのか?」という意味の問いである。

事業開発で大切なこと

新規事業開発の初期の段階では、何が顧客に受けるのか?が分からない状態である。そこで、試作品や簡易なサービスを作って、顧客に利用してもらい検証しながら進めるのが一般的である。しかし「あの顧客にはこういう機能も欲しいと言われた。」「競合も提供しているので、この機能も必須でつける必要がある」という議論になり、検証段階にも関わらず、たくさんの機能を追加したくなる欲望に駆られるのが普通である。
しかし、新サービスや新商品が顧客に受け入れられるか?を検証していくという考え方を従うと、たくさんの機能が付いているのは不適切である。何が評価されて何が評価されなかったのか分からなくなってしまい、検証結果が曖昧になってしまうからだ。そこで、検証の初期段階では、いろいろな機能を盛り込むべきではない。ここに事業開発の難しさがある。

素うどんは何か?

うどんを注文した際、天ぷら、ちくわ、揚、かまぼこ、ネギなどのトッピングを乗せることがある。たくさん乗せると、嬉しい気がするが、素うどん自体の味が分からなくなるという問題がある。ベースとなる素うどんが美味しくなければ、どんなにトッピングを乗せてもごまかせない。ならば、素うどんだけで勝負するのが良い。そんな考え方から「素うどんは何か?」という問いが来ている。

情報を絞る方が伝わる

「素うどんは何か?」という問いは、新規事業以外にも適用できる。上司に何かを報告して「要点は何?」と聞かれるのと同じである。短時間で多くの情報を処理しなければならない上司には、要点と付加情報、素素うどんとトッピングを分けて伝える必要がある。
また、ポスターや広告バナーを作る場合でも「素うどんは何か?」を問う必要がある。上司であれば、報告が分からなければ「素うどんは何?」「要点は?」と聞き返してくれるが、不特定多数の顧客や従業に告知する場合は、フィードバックが貰えない。その場合は、対象者に情報や告知は伝わらず、リアクションすらもらえない。広告バナーであればクリックされないし、ポスターであれば認知されない結果になるだろう。
始めて訪れた駅の案内や看板でも情報が多すぎて迷うことがある。首都高速の入口という瞬間で判断しなればならない状況においても、情報過多の告知を見ることがある。注意書きなどは「言いましたよね?」という情報の送り手側のエクスキューズでもあるが、情報の受け手にとっては迷惑である。

ミニバス指導で気にすべきこと

ミニバスは、小学生のバスケットボールである。ミニバスを指導する上で、「情報を絞る必要がある」ということを強く意識しなればならないと考えていた。

ゴールデンエイジ

運動を指導していると「ゴールデンエイジ」というのを聞く。ゴールデンエイジとは、9歳から12歳までの時期を指し、一生のうちで最も運動神経を良くすることができる時期と言われている。スキャモンの発育曲線で、脳・神経系は12歳ぐらいでほぼ大人と同じぐらいまで成長すると示されている。つまり、ゴールデンエイジは脳神経の成長の仕上げの段階であるということと理解できる。

9歳の壁

ゴールデンエイジを脳神経の成長で言うならばスポーツに限らないだろう。音楽の絶対音感や英語の発音を聞き分ける聴力なども、その時期がもっとも習得ができる時期なのだろう。
もっと広く捉えると、この時期に、小学校高学年の学習力や認知力にも大く変化が起きる。この時期に大きな個人差が生まれる。文部科学省も「9歳の壁」と明示している。スポーツの指導では、ゴールデンエイジは広く知られるが、この「9歳の壁」は認知は低いのでは?と思う。

9歳以降の小学校高学年の時期には、幼児 期を離れ、物事をある程度対象化して認識することができるようになる。対象との間に 距離をおいた分析ができるようになり、知的な活動においてもより分化した追求が可能 となる。自分のことも客観的にとらえられるようになるが、一方、発達の個人差も顕著 になる(いわゆる「9歳の壁」 ) 。身体も大きく成長し、自己肯定感を持ちはじめる時期 であるが、反面、発達の個人差も大きく見られることから、自己に対する肯定的な意識 を持てず、劣等感を持ちやすくなる時期でもある。

文部科学省|子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/053/shiryo/attach/1282789.htm

子供達の理解度のバラツキ

大人であっても、情報が多すぎると処理できないことがある。やることが多すぎて、慌ててしまったり、パニックなってしまった経験がある人もいるのでは?と思う。更に、脳神経の発育段階で、まだ大人のレベルに達していないならば、なおさらである。
ミニバスでは、6年生を上級生として、4年生も含めてチームになることがある。メンバーが少なければ1年生を入れることもあるだろう。更に、同じ学年であっても発達タイミングは、個人によって異なるので、コーチの指導の理解度に大きなばらつきが生じることは大前提である。
バスケのコーチが、特定の選手に「何度言ったら分かるんだ!」ということがある。しかし、ミニバスに所属する小学生は、理解や認知の発育でバラツキがあるのは当然であり、まだ発達段階に至っていない子供には「何度言っても分からない」ということは、まさにコーチがマネージメントする問題そのものだと言える。

良かれと思って指導していく経験者コーチ

バスケの経験者コーチや、現役でプレーしている高校生や大学生が、ミニバスを指導する場合、この子供の発達段階を理解していないケースがある。
指導をしていて、皆が指導したプレーができるようになって見えたので、これも覚えるようにしよう!と指導内容を追加していくことがある。ここが難しいポイントだ。経験豊富なコーチが、好奇心旺盛な子供達に、どんどん教えていくことは悪いことではない。技術指導のバスケ教室では正しい指導だと思う。しかし、バスケチームとして試合や大会に出場するチームでは、うまく機能しない場合があることを理解する必要がある。
これは、ゴールデンエイジに入って運動神経が伸び盛りの子供と、まだプレゴールデンエイジの子供の差という問題ではない。どちらかというと「9歳の壁」と呼ばれる理解や認知の差が問題といえる。まだ理解力や認知力が発達段階に至っていない小学生に、大量の情報を入れると、多くの場合は、最後に教えられた情報だけが残る。つまり、最初に教えた基礎の方が抜けていくのが普通である。追加の指導は9歳の壁を越えてゴールデンエイジに入った子供達には有効だが、チーム全体を考えると、チームの基礎力アップに繋がらないことがある。踏まえると、情報量を多くし過ぎないことが小学生チームの指導として重要と言える。

チーム内で作る共通認識

アシスタントコーチとの関係

僕はバスケの素人としてヘッドコーチをしているが、バスケ未経験のコーチであることが強みであると思っている。つまり、分からなくなるかもしれない情報量には敏感である能力が高い。
小中高大から社会人までバスケをやりこんできたコーチは、初心者から始めた小学生の視点に立つ点で鈍感担ってしまっていることがある。特に、高いレベルでやってきた選手ほど陥りやすい。

僕のチームにも経験のあるアシスタント・コーチはいるが、お互いに連携して目線合わせをすることに注意を払っている。
基本的には、僕が実演できないので、経験豊富なアシスタントコーチに指導をお任せするが、僕が指導を聞いていて、分かりづらいな?と思ったら、一度止めさせてもらい「こういう意味かな?」「こういう違いかな?」とアシスタントコーチに確認している。この確認を踏まえて「ここが気をつけるポイントということだね」と子供達の理解を補助している。この解釈や言語化がチーム内で目線合わせをする大切な役割を担っている。(鬱陶しがらずに説明してくれるアシスタントコーチ感謝)

場合によっては、練習後に、アシスタントコーチと「この練習はアドバンス過ぎないか?」と議論するようにしている。場合によっては、新しく指導してくれたドリルを中止にしてもらうこともある。もちろん、アシスタントコーチは、過去に指導を受けて良かったと思うことを追加的に指導してくれているので悪い内容ではない。僕も指導やドリルそのものを否定することはない。ただ、今のチームに、この技術レベルが必要か?ということを議論し、目線をあわせをしている。これは、子供達が処理できる情報は限られている前提に立って、チームのレベルと指導の難易度の認識を揃えているからだ。

基礎プレーと発展プレー

アシスタントコーチとは、チーム全体として指導する「基礎プレー」と、上級者だけが身につけると良い「発展プレー」の仕分けの話を頻繁にする。
コーチが、チーム全体に、繰り返しのドリルとして指導するのは「基本プレー」に絞ることにしている。これは、チームの全員が知っている「お約束の動き」という意味では、徹底して繰り返し練習させる。更に、なぜこの練習をするのか?の目的の説明もしっかり行う。5・6年生で、すでに理解がある子供達が、新しく練習に参加した3・4年生に、練習の目的ややり方の説明をしてもらう。何度もやっているので、多くの子は覚えているが、時々、「この練習の目的は?」とあえて質問して、チーム全員で再確認する。チームとしては、この「基礎プレー」や「チームの約束事」をコート上の5人、レギュラーで出る10人、ベンチ入りする15人、一緒に練習している上級生にきっちり指導することが重要だと考えている。これがチームの伝統になると思っている。

逆に、発展プレーは、情報を増やしても「基礎プレー」の徹底に悪影響がないゴールデンエイジの真っ只中で、9歳の壁を越えている選手だけに、指導するようにしている。更にいうと、アシスタントコーチから、個別に「お前だけに教えるけど、これをこうすると、もっと良くなるぞ」という形で情報を入れてもらっている。個別に伝えることで、期待されいている感じが伝わるし、実際にチャレンジしようとする。これは「健全なえこひいき」だと思っている。

まとめ

今回の投稿では、リクルートでよく言われる「素うどんは何か?」という問いから、情報の選択と集中の重要性に説明した。中でも、ミニバスなどの小学生指導においては、受け手の能力差があることを踏まえないといけないことを説明した。これは、会社の組織でも新人からベテラン、経験者から未経験者もいる状況のマネジメントでも同じことが言える。
また、情報の選択によって絞られてた、チームや組織の「基礎」や「お約束」は、徹底されるようにする共通認識化して、反復によって浸透させることが重要であると説明した。そのためには「発展」にあたる指導を抑制して、情報過多で消化できない状態を減らすことの重要性を示した。

人は万能ではないので、「素うどんは何か?」と考え、情報を絞ることが本当に重要だと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?