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想定外の状況にもパニックならない対応力

ジャイアントキリングの裏側

スポーツでは、ジャイアントキリングという番狂せがある。日本代表が強豪国に勝利して歓喜したことがあるだろう。番狂わせで勝利した側は、緻密な作戦を立てて勝利を狙っていたのだろう。まさに、ジャイアントキリングはスポーツの醍醐味といえる。
しかし、負けた側の視点で見ると「そんなはずはない」と侮っていたことで「想定外」の状況になってしまい、慌てて自分たちのプレーが出来なくなった状態と陥ってしまったと想像できる。スポーツでしっかり勝ち切るためには「想定外」という緊急事態でも冷静に対応できるように、チーム内で「想定外」という状況の理解を深めておくことが大切である。

求められる想定外への対応力

「想定外」の状況は、スポーツだけでなく、仕事や生活でも起こりうるため、社会生活やビジネスでも「想定外」への対応力が求められる。不景気、地震などの災害、感染症、技術革新、テロや戦争も含めて、数十年に1度や観測史上初という言葉は、意外と頻繁に耳にする。想定範囲内の平時とは別に、想定外が起きた場合の有事、もしくは緊急時において、どう対処するか?は非常に重要である。

リクルートのマネジメント研修の中でも「想定外」の状況を考える研修があった。「エベレスト 3D」という映画にもなった「1996年のエベレスト大量遭難事故」を題材にしたケーススタディだ。想定外が重なることで大きなトラブルに発展していく緊急事態の状況であるの中で、マネジャーはどう振る舞うべきか?を考える内容だった。
最近ではBCP(Business Continuity Plan 事業継続性計画)の策定なとが語られ、企業の中でも「想定外」のマネジメントが意識されるようになってきている。

スポーツで「想定外」を学ぶ

緊急時の対応は、平時の対応よりも難しい。少ない情報で、早く決断しなければならない状況的な難しさもある。更に、焦ったり、慌ててしまうという心理的な難しさも相まって、間違った判断をしてしまう確率が高まってしまう。この状況的難しさと心理的難しさが掛合わさって、更にひどい状況に陥って、手に負えなくなりパニックになってしまうことがある。

緊急時にパニックにならないようにする能力は、重要なマネジメント能力の一つだと言える。そして、スポーツは想定外が頻繁に起きるが致命傷にはならないと特徴があるから、スポーツを通じて想定外の緊急時の考え方や対応力を学べるのではと考える。むしろ、スポーツ経験を通じで、学ぶべき能力、教えるべき能力だと思う。

緊急時の思考法

考えるべきことを考える

過去や現実は変えられないので、状況的な難しさは受けいれるしかない。バスケのシーンで例えると、格下の相手に、残り1分の時点で逆転されてしまったという状態になれば、それは事実であり、今から事実を変えることはできない。自分達で変えられるのは残り時間であり、未来に目を向けて、どうすべきかを考えなければならない。

ビジネスで「サンクコスト」という考え方がある。同じく未来の意思決定のために過去の事実に影響を受けないのが正しいという考え方である。過去に10億円を投資したがうまくいかないプロジェクトに対して「これまでの投資が水の泡になるのは勿体無いので、もう1億円を追加投資すべきだ!」と誤った判断してしまう問題である。10億円の投資は過去の話なので返ってはこない。リセットして、1億円の追加投資から十分なリターンがあるかの未来の話だけで投資判断をすべきという考え方である。

想定外の状況で一番起こるのは「こんな状況になったのはあのプレーのせいだ!」「あの時のフリースローを決めていれば」と指摘し合う状態だ。振り返って原因を探ることは大切なので、それが正義だと思っている人は多い。実際に振り返りは重要だ。しかし、まだ試合の最中であれば、優先すべきで会話ではない。練習試合であれば有意義かもしれないが、ここ1番の大会では絶対に優先すべではない。

マインドシェアも奪われない

最近のスポーツやビジネスでは、自分の中で振り返るという内省力(リフレクション)が、重要と言われる。「あの知識があれば解決したのに」「あの経験があれば自分自身で振り返る自己反省の能力だ。しかし、緊急事態の瞬間を考えると、内省の対象は変えられない過去話だ。まだ残り時間があるならば内省している場合ではない。
全ての準備ができる訳ではないので、悔しがっているのではなく現状を受け入れて、冷静に考えるメンタリティが重要といえる。振り返るべき時にに振り返れば良いのだ。会話していなくとも、本人達が過去にマインドシェアを奪われて、くよくよしていては駄目だ。マインドシェアは未来に向ける必要がある。

未来へのモチベーションを消さない

更に、試合中に、起きたミスは誰の責任か?と犯人探しの会話になることがある。これは絶対にすべきではない。パニック映画でよくあるシーンを思い出して欲しい。緊急時で責任を追及しているキャラクターは雑魚キャラ止まりだ。
話し合っても意味がない過去の話に時間やマインドシェアを奪われるだけでなく、残りの時間に自分達はどうすべきか?に考え、チームがまとまっていかなければならない時に、モチベーションを大きく下げることになる。緊急事態において、なんとかしたい!という未来に向けたモチベーションが光である。コーチやマネジャーがそれを消してはいけないし、他の選手が消しそうなになれば、食い止めなければならない。

日頃から緊急事態に備える

いったん緊急事態となれば、未来を向いてどう対応するか?を考えるべきだが、日頃から幅広く状態を想定して対策して備えることはできる。「冷静に考えるべき」と客観的に言うと簡単だが、渦中の当事者となると冷静になるのは難しい。だから、事前に緊急事態を想定して、想定外を減らしておくことが有効となる。強いチームならば、レギュラーの怪我、当日のシュートタッチの良し悪し、審判との相性、コートやゴールの慣れなどの想定外を広く想定しておくべきである。

緊急事態の事前対応として、日本人として一番身近に感じるのは「避難訓練」だと思う。小中高でも行ったし、会社に入っても避難訓練は行う。もちろん、との時は、面倒くさいなーと思ってやっているのだが、一度やっておくと、非常口がどこにあるのか?どこに逃げることになっているのか?を確認することができる。全員が覚えてなくても、大部分がその動きを取れば、全体としては計画した通りに動くことができる。
システムのメンテナンスや、WEBサービスのリニューアルでは、新しいシステムが動かない場合を想定して、コンティンジェンシープランを策定しておく。コンティンジェンシープランとは、不測の事態が起こった時にできる限り迅速に復旧させその被害を最小限に留める計画のことを言う。コンティジェンシープランなしで、新しいサービスをリリースすることはできない。このように、緊急事態の対応は、通常とは違う想定外を設定して、その状況における対処を予め決めておき、チームメイトや関係者がそれを認識しておくことが定石と言える。

試合以前の想定外

バスケにおいての想定外とは何があるか? 選手の病気や怪我はあり得る。怪我については、スポーツをしている以上、不可避であり、かなりの確率で起こりうる。例えば、ベストメンバー5人だけでセットプレーの練習をし続けて、練度を上げた上で、試合前日の練習でキャプテンが捻挫してしまい、補欠メンバーが出たら上手くセットプレーができなくて負けてしまったというケースを想像する。この時、上手くプレーできなかった補欠メンバーが悪いのか?、怪我したしたキャプテンが悪いのか?というと、そうではないだろう。コーチとして、一定の想定外が起こることに備えていなかったマネジメントの問題と言える。

試合の中での想定外

上の例は試合以前の想定外トラブルだが、試合中にも想定外は起きるので、それについても備えておきたい。例えば、バスケのセットプレーや連携プレーをチームで決めておくことは、特定のシチュエーションで使うプレーであるので、同様の考えだ。想定外とおくならば、特に、残り数秒で確実に2点を取る方法については、チームの中で決めておいて、一定の練習をしておくのが必要である。実際に、試合中のわずかな時間で、全く指導していない動きを指示をするのは難しい。特に小学生は確実に無理で、パス出して決めてこい!ぐらいの指示しかできない。私のチームでは、大会前の練習でエンドラインとサイドラインから数秒2点をとる動き練習を入れる。長い練習時間を取らないが、想定外に備えて練習している。

プレー中での想定外

試合を決めるプレーでなく、エンドラインからのボールインなど試合中に何度も起こるセットプレーでも想定外は起こる。チームで決めているセットプレーを、全員で連動して理想的な形で得点できれば最高である。しかし、同じシチュエーションになると、強いチームは、ディフェンスが動きに対応してくるので、うまくボールが出せないことがある。点を取るためのセットプレーしか指導していないと、これも想定外を考えられていないことになる。私のチームでは、第1選択肢が消えてしまった時に、第2、第3、第4まで準備してあり、子どもたちはセットプレーをシュートを決めるプロセスではなく、状況を見て、順番に選択肢を選んでいくプロセスと教えている。

想定外の本質

想定外はゼロにできない

しかし、実際には想定外なので、言葉通り、全てを想定すること事態が不可能だ。想定できている全てのパターンを対して、全ての対策を施すのは非常に難しい。練習時間も制限されているし、コーチや選手の記憶も無限ではない。実際には、発生する確率を考えて、妥協点をを考えておく必要がある。

スポーツで言うと、当然チームの目指したいゴール感によって変わってくる。高いレベルを目指すチームはできるだけ様々なケースに備えるべきだし、発生確率が低いから気にしない。確率なので運が悪いと続くことはある。対策の練習をするよりもチームの練度を上げる練習をする。楽しくやれる練習をする。はチームそれぞれの考え方である。

一方で、仕事で考えると取り扱う対象によってどこまで対策するのかは?は難しい。文頭の「エベレスでの遭難」を題材にすると人命に関わるので、極限まで想定外を考える必要があるだろう。ITサービスや通信サービスでは、100%トラブルなしで提供することを保証できないので、サービス稼働率を規定して、その稼動率を保証するかたちを取っている。

未来から分析するのは簡単

ケーススタディという過去事例を用いた学習は、理論を学ぶよりも実践的ではある。ケーススタディを用いれば、二度と緊急事態やトラブルを起こさないために、再発防止策を冷静に考えやすい。しかし、過去事例を扱うので、顛末は分かっており、冷静に対策を考えられるのは当然であることを意識してなければならない。
後から考えると「ちゃんと準備をするべきだった。」「ちゃんと想定しておくべきだった。」という評価ができる。しかし、実際の当事者としては、何かをサボっていた訳ではなく、想定外の事態に巻き込まれて必死にジタバタしたはずである。渦中の当事者の目線で主観的に考えると、未来から評価・批判できるほど簡単な話ではないことが想像できる。となると、このケーススタディで考えるべき論点は「想定外の事態が起こった時、あなたはどう振る舞えるか?」という人間性やメンタリティに関する問いとなる。

「冷静になれ!」と言うが簡単ではない

この想定外のケースで考えるべきは、考え尽くした再発防止策を、更に越えた想定外の事態をどう考えるか?という問いなのである。冷静な視点で、再発防止策を列挙することが目的ではない。当事者として主観的に考えた場合、どう振る舞うのか?という問いを考えることが重要になる。
答えは「冷静になる」に尽きるのだが、この「冷静になる」も厄介である。本人は、自分自身を冷静だと思い込んでいるが実際には慌てている場合は、意味がない。むしろ「冷静にならなければ」と焦りを増幅させる可能性が高い。
であれば、「自分はパニックに陥っているのでは?」と疑ってみることが有効な視点かもしれない。この問いを持つことで、自分の心理的な混乱を自覚しやすくなる。自覚できれば、「冷静なろう」とリセットしやすくなる。

パニックにならないために

想定外のトラブルは一定の確率でおき、ゼロにすることは不可能だ。想定外の状況で、組織をリードできるか?はマネジメントやコーチに不可欠な能力だし、スポーツを通じて学ぶべき能力の一つだと思う。
起きてしまった状況は受け入れ難くとも事実として捉える必要があり、いかに冷静で判断できるか?という心理状態のコントロールが重要と言える。冷静さを失えば、判断を間違える可能性が上昇し、より困難な状態に陥ってしまう。
そのためには、日頃から想定を広げ、発生確率の高いトラブルに対しては、対応策を考えることが有効である。しかし、全てを想定することも、全てに対策を準備しておくことも不可能であり、組織やチームの中で妥協点を見つけることになる。それほど備えても、更に想定外のことが起こりうる。想定外に状況において冷静になることが重要だが、冷静にならなければという心理によって冷静さを失うこともある。「自分はパニックに陥っているかも?」と自認してから、冷静になってみることが有効と考える。

このように、想定外への対処について、チーム内で議論しておくことは良いチームを作る上で重要であり、スポーツを通じで教えていきたいことだと思う。







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