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北の夏。雨の道筋。

宿命。俺の宿命! 人生とはおかしなものだ──虚しい目的のために、情け容赦のない筋道が、どういう具合にか用意される。人生に期待できるのは、せいぜい自分について何事かを悟れるということだけだが、それは常に遅ればせな悟りであって、つまりは悔やみきれない後悔を得ることでしかない。

「闇の奥」コンラッド

白神岬(しらかみみさき)は、北海道松前郡松前町に位置する北海道最南端の岬。

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ラッキーピエロは、有限会社ラッキーピエログループが本社を置く、札幌、旭川に次ぐ北海道第3の都市北海道函館市を中心とした道南地区で展開するハンバーガーショップチェーンである。

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北の夏は短い。

独居限界中年男性に残された時間も少ない。
人生を1日に例えるのならばおれは今、残照を浴びている最中だ。

雨の日にはバイクに乗らない。

そんなライダーも多いと聞くが、おれはバイクを軍馬だと思っている。
よって雨中でも走り出すことに躊躇いはない。

もちろんサラブレッドの様なバイクに乗っていればその限りではないが。

MotoGP(バイク版F1)のレプリカモデルや海外メーカーの限定品の様なサラブレッドの様なバイクに。

だがおれのバイクは国産メーカーの量産品だ。
ザクや陸戦型ジムの様なものだ。
乗り潰す覚悟だ。

天気図も予報も窓の外の光景もロクな事を伝えていないがとりあえず出かけることにした。

目標は北海道最南端と北海道を代表するB級グルメ「ラッキーピエロ」のチャイニーズチキン焼きそば。

43歳児は独り南の果てを目指す。
ノーインカム。

ただ運転に集中すればいい。

5時出発の予定が6時45分発となった。
前日飲み過ぎました。

家から漕ぎ出した瞬間に小雨である。

上下にボロいカッパを着て走り出す。
足元は野鳥の会長靴。

ハードシェル?
鶏ガラマークのベータLTやアルファFLを着ている時に転けて穴が空いたらどうするんだ!

赤井川の道の駅で煙草タイム。小雨が降り続く。
我らがクイーンは雲の向こう。

札幌→赤井川→倶知安→ニセコ→蘭越とひたすら雨の中、バイクを走らせる。
運転に注力しているのでネガティヴな思考は入る隙間がない。
“心に隙ができちまった”
とはならない。

黒松内の道の駅でカロリーチャージ。

黒松内町を南下し、長万部町...海を目指す。

海は侘しく寂しい眺め。
終始こんな天気。

長万部町から海岸沿いを走り続ける。

雨は本降りに。

その後、峠越えの最中にスコールに見舞われ笑いが止まらなかった。

夏の雨。

26度の雨なので寒くはない。
肌着にはメリノウール、ミドルレイヤーはポーラテックアルファダイレクト素材を裏地に使った神器...山と道のアクティブインサレーションを装備している。

実質、無敵だ。

4万するだけはある。(白目)

まじで神器なんだよこれ。
年柄年中着ている。

厳冬期なら
*登山開始−20度スタートまで

ファイントラックのウォームスキン
アークの化繊ロンT
これ
フーディニ
でハイクアップできる。
ソロかつペース早めで体温ガンガン上げていく特攻スタイル限定だけど。

R2系は嵩張るしR1でも暑すぎる。
*稜線で−30度想定の地獄ならアリ。
いかんせんソロでラッセル地獄のおれには暑すぎる。
プロトンシリーズも同じだ。

プロトンFLはかろうじて使えるが。

山と道商品はバイクでも相性がいい...。
メリノTの上にこれ羽織るだけで下限17度くらいまで対応できる。

話がそれた。
峠を越え厚沢部町を抜け第一目的地の江差町に着いた。
北海道を代表する3大B級グルメの頂点。
ラッキーピエロ。
*残り2つはハセストの焼き鳥弁当と帯広のインデアンカレー

数年ぶりに来た。
狂気の趣き。
チャイニーズチキンカレー。
チキンがヤンニョム風の味付け。

すいません、チャイニーズチキン焼きそばってありますか?

あー...もう廃盤になりましたね。
3年くらい前に。

あっ、ソッスカ...。

どうします?

チャイニーズチキンカレーで...。

冷静に考えれば前回ここに来たのは5年前。
前妻と一緒だった。

おれはカレーをかき込んだ。

思い出のトリガーは大抵3つに分けられる。
食事、音楽、香り。

トリガーを引いても弾が出ることは少なくなってきた。

カレーを食べ終え、最南端を目指す。

江差を進むと
晴れ間が見えてきた
まさかの
晴れ

天気図,Windyを見て地獄だろう雨だろうとキメつけてみても現地に行くまではわからない。
自然は完璧な存在だ。
不完全な存在の人間が描いた予測など平気で上回ってくる。

バイクを路肩に止め、カッパを脱ぎ、Tシャツ姿で海岸沿いを走り続けた。

インカムがないので頭の中で七尾旅人の八月を流して走り続けた。

北海道の南の果てに辿り着いた。

これで宗谷岬,襟裳岬,白神岬を踏んだことになる。
残り一つは納沙布岬。
札幌から往復1,000km。
1dayで行っていけないことはない、筈。

さあ札幌に帰ろう。

越えるべき峠に雨雲が張り付いている。
カッパを着よう。
着て正解だった。
可愛いなあ。
万能の才人だが。
おれの中では死を持って完成した戦士より評価は下です。
ダヴーみたいに主君が降伏したのちも粘り通せば別だったけど。
長万部で休憩。

土砂降りの中、帰路につき。

疲労のあまり水平が取れていません。
ディナーはカフェで。

往復668km。
16時間弱の旅であった。

ーーー

翌日はよく晴れていて。

1人で生きていればこんなもん。

人生で夏はあと何回来るのかな。

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